厄介ごとからの指名!?
ホテルの上層階の一室。
ノックをすると、内側からドアが開いた。
「入ってくれ」
ドアを開けたのはサタケさんだった。
少し疲れた様子で軽くうなずき、入室を促している。
すっと御庭が室内へ踏み入れた。
ナギさんがすぐ横に続く。
「やあ、初めまして白銀君。
僕は公儀隠密の御庭だ。
クロウ君を連れてきたよ!」
御庭は爽やかな笑顔を浮かべながら、俺を招くように振り向く。
俺も中へ入る。
豪華で広い部屋だ。
その部屋の中、白銀がイスにふんぞり返っていた。
壁際に黒服の男たちが立ち、白銀を遠巻きに取り囲んでいる。
彼らはホテルのスタッフに偽装しているが、おそらくトクメツのスタッフだ。
その手には銃が握られている。
うーん、物騒だな。
銃を持った男たちの視線が、部屋に入った俺に集まる。
俺は軽く頭を下げ、名乗る。
「公儀隠密のクロウだ。
あー……。
ずいぶん殺伐とした空気だな」
重々しい空気。
白銀が腕を組んだまま、じろりと目だけを俺に向ける。
「来たか、クロウゼンジ!
ずいぶん待たせてくれる!」
「無理を言うな。
これでも急いで来たんだ。
で、一体なにがあったんだ、白銀?」
御庭から移動しながらいくらか話を聞いた。
しかし、詳しいことはわかっていない。
白銀がホテルに現れ、トクメツがそれを止めようとした。
ちょっとした争いになったが、すぐに終わった。
一瞬でトクメツの武闘派スタッフが転がされてしまったからだ。
なぜそうなったのかはわからない。
サタケさんがなんとか仲裁して、争いは中断したらしい。
だから、サタケさんが疲れた顔をしているんだろう。
その後、この部屋に場所を改めて、睨み合っていたらしい。
白銀が言う。
「クロウ。
最上階のレストランを覚えているか?」
ゴウダや白銀と戦ったレストランだ。
モンスター化したゴウダに破壊され、パージされた。
「忘れるわけないだろう。
まさか、飯を食いに来たとでも言うつもりか?」
そんなわけはないと思いつつ、軽い調子で言ってみる。
あの店はもうない。
最上階ごと消え去ってしまった。
しかし、俺の言葉はそう的外れではなかったようだ。
白銀が大きくうなずく。
「俺はあの店を気に入った。
この俺の口に入れるにふさわしい料理を出す店だ。
だからここに来た!
シェフとスタッフを雇おうと思ってな!」
「スタッフを……雇うだと?」
「そう言った!
そこの黒服共にも言ったが、まるで伝わらん!」
俺は首を傾げた。
ええと……。
ダンジョンや事件とはぜんぜん関係ないのか?
わざわざ事件現場に戻って、やりたかったことって……。
「もしかして単に、お気に入りのレストランのスタッフを勧誘しに来たのか?」
「そういうことだ。
最高の店を用意して、最高のスタッフを揃える!
店がなくなったのなら、この俺が作ればいい!」
白銀がにやりと笑う。
謎の大物感が漂っている。
うーむ。
しかしズレているな。
やはりポンコツなのか。
特異殲滅課と会話しても、話がかみ合うはずがない。
何か裏があると勘ぐるはずだ。
しかしこの話に裏も表もない。
この男は、ただ気に入ったものを手に入れたいだけなのだ。
俺はあきれを顔に出し、うなずく。
「なるほど、わかった。
御庭、そういうことなんだが……」
御庭を見る。
御庭は面白そうに口元を緩め、白銀に言う。
「飲食店のスタッフと交渉しよう。
彼らは認識阻害を受けていて、僕らが保護している。
白銀君の提案を伝えておくよ!」
「これまでよりいい待遇で迎える。
そう伝えろ!
では、俺は行く!」
おもむろに白銀ユウヤが立ち上がる。
黒服たちが反射的に銃を向けかける。
しかし彼らはギリギリのところでそれを抑えた。
白銀は気にする様子もなく、ドアから出て行った。
言いたいことだけ言って帰りやがった。
その背を見送り、俺はつぶやく。
「ふう……。
なんだったんだ、まったく……」
部屋の外から中の様子を窺っていたリンとトウコが俺に声をかける。
「ゼンジさん、お疲れさまでしたー」
「今日は窓から飛んでかなかったっスね!」
さすがに、用もないのに窓を割るほどおかしくはないらしい。
うーん。
けっこう身構えてきたのに、どうでもいい話だったな!
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