悲報! 自律分身死す! 死因はまさかのアレ……!?
「ど、どうしましたか、ゼンジさん!?」
「自律分身がやられた……!」
「マジっスか!?」
俺を襲った衝撃は心理的なものだ。
先ほどから【意識共有】を通じて緊張感や危機感は伝わっていた。
だが、術を解除するほど強いかというと違う。
普通の探索で感じるような程よい緊張感だった。
死ぬほどの危険や痛み、絶望感などは届いていない。
もしそんな感覚があれば、すぐに術を解除する。
つまり、思いがけないことが起きたのだ。
俺は左右を見回し、差し迫った危険がないことを確認する。
周囲に敵影無し。
意識を受け取る態勢に入る。
「ちょっと、自律分身からのフィードバックを受け取らせてくれ。
数秒、警戒を頼む」
少しの間無防備になる。
二人が頼もしくうなずく。
「はいっ!」
「りょ!」
自律分身の記憶と経験が流れ込んでくる。
整理されていない、荒々しいものだ。
二十三階層へ踏み込んだ直後の記憶が再生される。
――鉢金のスライドを開け、輝水晶のヘッドライトをつける。
――足元は平坦で歩きやすい。
――壁の所々に熱水晶が生えている。
――床にはほとんど生えていない。
――天井にも水晶は生えているが、まばらだ。
――壁から離れるほど薄暗くなっていく。
――まずは明るい壁沿いを進もう。
――前からゴブリンの一団がやってくる。
――いつも通り四匹セット。
――装備は……。
――槍、盾、ツルハシ。
――それに……。
――お、見慣れない装備のやつがいるぞ!
――弓だ!
――小さめの弓持ち、矢筒を背負っている。
――弓使い!
――弓を使うゴブリンは初登場だ!
――緑ゴブリンとの違いがまた一つ!
――おっと、のんびり観察している場合じゃない。
――ヘッドライトは既に消している。
――だがここには隠れる場所がない。
――近くに隠れられる場所は……。
――ない、か。
――身を隠せる岩のでっぱりや段差は遠い。
――となると、暗闇の中だ。
――ゴブリンは【暗視】を持っているようだが、注意力は散漫だ。
――暗がりで伏せていれば見つかるまい。
――姿勢を低くして、壁際を離れる。
――じりじりと暗がりへ。
――そこで身を伏せ、息を殺す。
――これぞ、リアル隠れ身の術!
――ゴブリンの一団が近づいてくる。
――ゴブリンは右を見て、左を見て、上を見る。
――だが、俺がいる暗がりには目もくれない。
――何事か話しながら通り過ぎていく。
――俺には気づかない。
――チョロいね!
――ゴブリンが離れたことを確認して身を起こす。
――壁から離れた薄暗がりの中、なにか音が聞こえた。
――風を切るような音。
――弓で狙われたか!?
――いや、違う。
――これは羽音。
――なにかが羽ばたく音だ。
――聞きなれた、コウモリの羽音だ!
――キィィ、と甲高い叫び声。
――見上げるとコウモリが数匹、こちらに向かって滑空してくるところだった。
――出たな、コウモリ!
――ゴブリンに次いで俺のダンジョンに出る、定番モンスター!
――ナタを抜き、構える。
――コウモリの動きには慣れている。
――飛びかかってくる瞬間に身をかわし、斬る。
――暗闇に目を凝らし、タイミングを待つ。
――近づいてくるコウモリ。
――その姿がだんだん大きく……。
――ん!?
――デカい!
――いつものサイズ感を想定して距離を測っていた俺は、戸惑いを感じる。
――だが、なんとか距離感を修正する。
――ナタを振り上げ、すれ違う瞬間に振る!
――なにっ!?
――ナタがむなしく空を切る。
――直前でコースを変え、コウモリが身をひるがえしたのだ!
――コウモリの姿を目で追おうとし――衝撃を感じる。
――ぐっ!?
――視界が揺れる。
――耳鳴りがして、激しい痛みが遅れてやってくる。
――痛みに目がかすむ。
――被弾した!
――そう理解したと同時に、さらなる衝撃。
――あ、いかん。
――意識が刈り取られ、消失していく。
「おお……!
コウモリか!
だが、なんだったんだ……!?」
「ゼンジさん、大丈夫ですか!?
顔色が悪いですよ!」
目を開ける。
すぐ目の前に、心配そうなリンの顔があった。
そうだ……。
死んだのは俺じゃなく、自律分身だ。
俺は混乱した頭を振り、現実に戻る。
今の俺は無傷で、攻略から引き上げている途中……。
強烈な意識のフィードバックから、なんとか立ち戻ろうとする。
「ああ……久しぶりの感覚で、ちょっとな」
俺は頭を手で押さえ、荒い息をつく。
死の記憶を受け取るのは堪える。
トウコが心配そうな声で、銃を構えて周囲を警戒している。
「敵は来てないんで、ゆっくり深呼吸っス!」
「ふー。
落ち着いたよ。
どうやら、あっという間にやられたらしい」
「コウモリさんにやられたんですかっ?
いったい、なにをされたんです!?」
リンは少し取り乱した様子で、心配と怒りの混ざったような表情を浮かべている。
「リン、落ち着いてくれ。
たぶん、体当たりではないと思う。
あれは、なにかの遠距離攻撃だ」
「じゃあ、フン爆撃っスかね?」
前の階層でも、コウモリは遠距離攻撃をしてきた。
爆発するフンを使った爆撃だ。
そのときは爆竹やかんしゃく玉程度の威力だったが……。
「ああ、たぶんそうだ。
今回の爆撃はかなりの威力だったようだ。
コウモリのサイズがデカくなったぶん、威力も増したんだな」
「デカうんこコウモリっスね!」
「いやな敵だな……」
死因、うんこかよ!?
胸糞悪いぜ!
絶対忍者殺すマンのコウモリさんがパワーアップして再登場だ!
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