その岩場、危険につき!
ゴブリンの群れが左右から押し寄せてくる。
七匹、八匹……九匹!
さらに後からやってくる!
それを見てトウコが目を丸くする。
「げーっ!
やたらと赤ゴブが湧いてきたっス!」
「この場所……両側に通路があるのか!?
……囲まれるぞ!」
リンが不安げに俺の顔を見る。
「ど、どうしましょう、ゼンジさん!?」
さて、どうするか……!?
今いる岩棚の最上部は広く、安定した足場がある。
ここは戦いやすいが、両側を敵に挟まれるのはマズい。
といって、下段に降りても不利……!
なんて嫌な地形だよ!?
左手にゴブリン、右手にゴブリン。
前門の虎、後門の狼みたいな感じ……。
ゴブリンだからショボい響きになるが、要するにピンチだ!
一斉に爆発物を投げ込まれたら……ひとたまりもないぞ!
俺は霧を出しつつ、指示を飛ばす。
「とりあえず濃霧!
リンはファイアウォールであっちを塞いでくれ!」
「はいっ!」
「俺は逆側を抑える!
トウコはチャージして、機を見て撃て!」
「りょっ!」
トウコが銃に魔力を込め始める。
「ファイアウォール!」
詠唱と共に、少し離れた位置に炎の滝が流れ落ちる。
上から下へ流れる炎が壁を形作る。
「ギギィッ!」
ゴブリンが不満げな叫びを上げる。
そのうち無理やり突破してくるかもしれないが、時間は稼げる。
さて、俺は反対側をなんとかせねばな!
術はもう集中を終えている。
大量の敵を足止めする術といえば――
「くらえっ!
水噴射ーっ!」
両手から水流がほとばしる。
さながら放水銃のような圧倒的水量!
「アギャ―ッ!」
激流がゴブリンたちをなぎ倒す。
もはや何匹いようが関係ない!
槍や手榴弾を投げようとした奴から狙い撃ちだ!
即死させるような威力はないが、多数の相手を押し流して封じるには最適だぜ!
水流に流され、足場から下段へ落ちる奴もいる。
そのまま奈落へ落ちるがいいぜ!
背後で爆発音。
驚いたようなリンの悲鳴。
「きゃあっ!?」
なんだ!?
放水を止めず、首だけで振り返る。
トウコが明るく笑う。
「ははっ!
さすゴブっ!
爆弾を投げ込んで誘爆させたっスよ!」
「び、びっくりしましたー!」
リンがほっと息を吐いている。
無事のようだな。
ゴブリンがファイアウォールに熱水晶を投げ込んだのか。
そりゃ、爆発するわ。
さすがゴブリン……!
ファイアウォールが爆風で途切れている。
リンが手をかざすと、その隙間が閉じていく。
炎の壁が閉まりきる前に、トウコが銃を向け、引き金を引いた。
「チャージショット!」
光の尾を引いて、弾丸が飛ぶ。
ゴブリンに強力な弾丸が撃ち込まれ、大穴を穿つ。
「アギャァ!」
二匹のゴブリンがまとめて撃ち抜かれるのが見えたところで、炎が視界を塞いだ。
「うっし!
二枚抜きっス!」
「ナイス!」
俺は自分の受け持ち方向へ意識を向け直す。
放水によりゴブリンは立ち上がっては転んでをくり返している。
何匹かのゴブリンは押し流されて下方へ脱落した。
落下死コースだな。
手榴弾を投げようとしている奴がいる。
させるか!
放水が直撃し、ゴブリンが手榴弾を取り落とす。
床に落ち、手榴弾が爆発!
ゴブリンが燃え上がる。
せっかくなので、そいつには水をかけないようにして別のゴブリンを狙う。
燃え上がるゴブリンがわめきながら、走り回る。
奈落に落ちればいいものを、向かう先は壁。
壁に激突したゴブリンが、壁から生えている熱水晶に倒れかかる。
む……これ、マズくないか!?
「爆発するかもしれん!
下段へ逃れろ!」
そう言ったところで【危険察知】がビンビン反応し始める。
見れば、赤熱している水晶は一つじゃない!
ファイアウォール付近の、爆弾が誘爆したあたりもだ!
おいおい……!
【危険察知】の反応がどんどん強まっていくぞ……!?
「うぇぇ!?
誘爆っスか!?
大爆発っスかー!?」
「わ、わかりましたー!
トウコちゃん、見てないで走って!」
トウコとリンがあわてて走り出す。
そのとき、燃えるゴブリンが熱水晶に寄り掛かった。
熱水晶が輝きを強めていく!
やっぱり、そうなるか!?
「急げ!
――跳べっ!」
岩棚の下段へと飛び降りる。
リンとトウコも続く。
スーツの腕から水を出し、盾を形成!
上へ向け、衝撃に備える。
リンも盾を構えている。
「トウコちゃん、隠れて!」
「ひょえーっ!」
俺とリンの間でトウコが身を縮める。
赤い輝きが大きくなり、激しい爆発が起きる。
さらに別の水晶にもそれが伝播する。
目が痛くなるほどに眩く、岩場が赤く染まる!
「うおおっ!?」
「きゃああ!」
「まぶしっ! あつっ!」
爆風を受け、硬化した水を支える腕に圧がかかる。
リンがよろめき、片膝をついた。
トウコがリンに抱き着くようにしてそれを支える。
光と熱が収まる。
あたりの岩がしゅうしゅうと熱を帯びて陽炎を揺らめかせている。
「おお……ヤバかったな!」
「上にいたら大変でしたね!」
「うへへ……」
トウコはリンに抱き着いたままユルい笑いを浮かべている。
「トウコ、ちょっとは緊張感を持て!
今のは、けっこうヤバかったぞ!?」
「そうっスねー!
いやー、店長のおかげでギリセーフだったっス!」
ホメてごまかしよる……。
「ゼンジさんのおかげで、なんとか逃げられましたね!」
「ほんとに、けっこうギリギリだったからな!」
しつこいくらいに念を押しておく。
まだ心臓がバクバクいっている。
この地形……危険すぎるぞ!?
祝! 評価三万突破! ありがとうございます!