反省会と岩棚最上部の探索!
八匹のゴブリンを仕留め、岩棚に静寂が戻った。
俺たちは息を整え、周囲を探索しながら短い反省会を始める。
「リン、手袋はどうだった?」
「はい!
すごく使いやすかったです!
これがあれば、私でも簡単に登れます!
それに、盾も持ちやすくなりますね!」
リンは吸着トカゲ手袋をつけた自分の手を嬉しそうに眺めている。
グリップ力の強化は盾にはプラスに働くようだ。
これは想定していた以上の効果だな。
続けて、リンが俺の新しいボディースーツに視線を移す。
「ゼンジさんの新しいスーツも、大活躍でしたね!
腕から水が飛び出すの、すごく格好よかったです!」
「おもしろスーツっスね!」
「はは、サンキュー。
だが、さっきの戦闘のMVPはリンだな。
トウコをかばった動きも、炎を完璧に防いだ【防火】の使い方も、文句なしだ!」
「えへへ……ありがとうございます!」
トウコがリンに賞賛の笑顔を向け、親指を立てる。
「ヒーロームーブっスね!
さすがリン姉、惚れ直したっス!」
本当なら俺がそうしたいところだが、役割が違う。
耐久面で劣る俺が前に立ったら、燃えちゃうからね。
俺の賞賛に、リンは誇らしげに、そして嬉しそうにはにかんだ。
「トウコも、あの火トカゲへの射撃は見事だった。
俺が反応するより早かったし、あの状況で正確に敵を撃ち抜けるのは大したものだ。
手袋を使わなかった判断は、正しかったよ」
「へへ、まあ当然っス!
でも、もっと褒めてくれていいんスよ!」
トウコが胸を張り、得意げに笑う。
俺はその頭をわしゃわしゃと撫でる。
「はいはい、すごいすごい」
「まあ、あたしにかかればあんなトカゲ、余裕っス!
でも銃声で敵が集まるんスよねー。
おかげで漁夫られかけたっス!」
トウコは笑顔を少し曇らせ、不満げに唇を尖らせた。
それは俺も気づいていた。
まあ、どうにもならないんだけどね。
「まあ……銃を使う以上、音が出るのは避けられないだろう。
銃声を消すのは無理だろうし……」
別にトウコを責めているわけじゃない。
シューターの職業柄やむを得ないことだ。
忍者が紙装甲なのと同じようなものだな。
文句は言えない。
「そーなんスよねー。
【サプレスショット】を取ってもしょーがないし……」
トウコの言葉に俺はうなずきかける。
「そうだなあ……って、おい!
そういうスキルがあるのかよ!」
「さぷれすしょっと?
どんなスキルなの、トウコちゃん?」
「銃声を小さくするスキルっスね。
【静音化】ってのもあるっス!」
俺は思わずツッコんだ。
「あるのかよ!
取っとけよ!」
「こんなスキルじゃ敵は倒せないっス。
別に無音になるわけじゃないみたいっスよ」
トウコは気が乗らないらしい。
しかし、銃声問題は根深いのだ。
敵に気づかれるのは仕方がない。
でも、近くで射撃されると、結構うるさいんだよね。
「洞窟だと音がこもって、耳が痛いんだよ。
射撃場ならイヤーマフをすればいいが、ダンジョンで耳を塞ぐわけにはいかないだろ?」
「そうだねー。
便利なスキルがあるなら、取ってくれたら嬉しいなー」
「んー、しょうがないっスねー。
じゃあ、レベルが上がったら取るっス」
スキル選択は自由であるべきだ。
あまり押しつけたくはない。
でも、意見を聞いてくれるのはありがたい。
「おう、悪いけど頼むぞ」
「ありがとう、トウコちゃん!」
射撃音を抑えてもらえるのは助かる!
「とりあえず、今後この岩場を登るときは【濃霧】を事前に使うようにしよう。
そうすれば、たとえ音で気づかれても、俺たちの正確な位置はバレないからな」
「リョーカイっス!」
最上段の岩棚はかなり広い、安定した足場だ。
……それにしてもここには熱水晶が多い。
「ずいぶん多いな……」
「うわっ、壁が熱水晶だらけっス!」
「滝のところより多いですねー」
岩壁の一角が、まるで鉱脈のように熱水晶で覆われている。
「やたらゴブリンが多いのは、これ目当てなんスかね?」
「ここから熱水晶を調達しているってことか?
俺のダンジョンでは、こういうオブジェクトは掘り出せないはずなんだけどな……」
低階層の輝水晶で試したが、叩いてもほじっても、手に入らなかった。
壁から外れると塵になって消えてしまう。
力加減を誤れば爆発だ。
壁の水晶を壊して敵を巻き込むことはできるが……。
「赤ゴブリンさんは、特別なスキルを持ってるんじゃないでしょうか?」
「鉱夫の職業持ちもいるしな」
「やっぱツルハシを使うんスよ!
今度、アレを引き換えて持ってくれば採掘し放題っス!」
「たしか『赤ゴブリンのツルハシ』がショップの引換品にあったな。
そんな使い道があるのか?」
ただの武器だと思っていたが……まさかね?
「物は試しっス!」
「そうだな、次は持って――」
俺が言い終わる前に、岩壁の奥から新たな敵影がぞろぞろと姿を現した。
「ウギッ!」
「アギャギャギャ!」
赤ゴブリンだ!
しかも、数が多い!
おそらく、仲間がやられた騒ぎを聞きつけて出てきた増援部隊だ。
このあたりにはゴブリンが多いな!?
「――来るぞ!
構えろ!」
俺の叫びを合図に、ゴブリンたちが一斉に鬨の声を上げる。
戦闘開始だ!
ご意見ご感想お気軽に! 「リアクション」も励みになります!