難所を超えろ! 岩場地帯は吸着手袋で!
二十二階層の岩場地帯に再び足を踏み入れていた。
以前、霧隠れの術でゴブリンの群れを蹴散らした場所だ。
目の前にそびえ立つのは高低差の激しい巨石群。
これを登らなければ、先へは進めない。
「さて、こいつの出番だ」
俺は拠点で作っておいた『吸着トカゲ手袋』を二人へ手渡す。
トウコは手をひらひらさせて断ってきた。
「例のゆるキャラ手袋っスね!
あたしはなくても登れるんで、パスっス」
「まあ、銃が使いにくくなっては本末転倒だからな。
使わなくても登れるならそれでいいぞ」
リンは、物珍しそうに手袋を嵌め、手のひらを開いたり閉じたりしている。
壁に取りついて感心した声を上げる。
「わあ……!
なんだか、手が壁に吸い付くみたいです。
不思議な感覚ですねー!」
俺は岩壁を見上げる。
ここは難所だ。
「よし、登るぞ。
その手袋を使えば楽に登れるはずだ。
俺が先導する」
俺はスキルで先行し、リンは後から手袋を使ってついてくる。
トウコは手袋を使わず、ひょいひょいと軽快に登っていく。
リンはまだおっかなびっくりといった様子だが、それでも手袋の強力なグリップ力のおかげで、安定して登れている。
中腹まで差し掛かったとき、リンが鋭く声を上げた。
「ゼンジさん、待ってください!
上の岩陰……何かいます!」
リンが指差す先は、俺の【水探知】の範囲外だ。
だが、リンの【魔力知覚】が何かを捉えている。
俺はその方向へ手を向け、スーツから水を飛ばす。
水がかかった場所で、不自然な動き。
「あそこ、動いたっス!」
「そこか!」
俺は怪しい場所に水を集中させる。
水が岩肌に張り付く何かの輪郭に触れた。
火トカゲだ!
火トカゲが驚いて身じろぎし、逃げようと身をくねらせる。
逃がさん!
「――【水刃】!」
水の先端が鋭利な刃と化し、隠密状態の火トカゲを腹から貫く。
いい角度で入ったな!
「ナイスっス!」
「フシィ……!」
鼻息を吐きながら、火トカゲが身もだえしている。
おっと、致命傷には足りなかったか。
貫いた刃を水に戻し、締め上げる。
「よし……このまま締め上げてトドメを刺すぞ!」
背後でリンの声。
「ゼンジさん!
もう一匹います!」
とっさに敵を探すが、見当たらない。
どこだ……!?
その直後、すぐ近くの岩陰から、もう一匹が姿を現した!
む、思ったよりも近い!
「フシーッ!」
生臭い鼻息が俺の顔にかかる。
岩が死角になっていて反応が遅れた!
トカゲが身を乗り出し、縮めていた首を伸ばそうとしている。
俺は腕部の放出口からに水を出し、盾を形成しようとする。
間に合うか――!?
盾が完成する前に動いたのは――トウコだった。
「――見えてるっスよ!」
トウコはさっと腰の銃を抜き、抜き打ちざまに引き金を引く。
洞窟に銃声が反響する。
さらに銃声、銃声。
「――うらうらうらあっ!」
「ギギッ……!」
連続で吐き出された弾丸が火トカゲを穴だらけにしていく。
トウコは拳銃の弾倉が空になるまで連射すると、銃をホルスターへ戻す。
続けて流れるような動作で、銃身の短いショットガンを引き抜く。
銃口を敵に向け、油断なく構える。
そこで、火トカゲが塵となって消える。
「いっちょ上がりっス!」
「ナイスだ、トウコ!」
さすがの反応速度!
神業のような手さばきは、手袋があっては難しくなる。
作った装備が使われないのは少し悲しいが、これなら文句はないね!
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