朝ごはんタイム! チート野菜のお味!?
「さあどうぞ! とれたて野菜ですよ!」
「いただきます!」
大きな木の下、平らになっている場所にかわいいレジャーシートが敷かれている。
その前に小さな机がある。
木漏れ日の下、爽やかな風が吹いている。
ちょっとしたピクニックみたいだな。
机に並んでいるのは、生のカット野菜だ。
ニンジンとキュウリがスティック状に切られていて、コップに差してある。
カラフルでオシャレなスティック野菜だ。
「ディップソースもあります。味噌、マヨネーズ、マスタードです! ですが、まずは、生でどうぞ! 驚きますよ!」
「おお、オシャレだ! じゃ、とりあえずキュウリを……」
俺はキュウリのスティックを手に取って、口へ運ぶ。
ポリッとした食感が口を楽しませる。
俺はその味におどろいて、目をみはった。
「……味が濃いっ。キュウリなのに水っぽくないというか……素材の味が増していて……うまい!」
次はニンジンだ。色鮮やかで、見るからにみずみずしい。
「ニンジンもシャキシャキしていて……甘い。フルーツみたいだ……!」
こんな野菜は食ったことがない!
くせも強くなっているけど、それを補って余りあるうまさだ。
生野菜がこれほどうまいとは……。
「ソースもどうぞ!」
「お! そうですね。では、とりあえず味噌から……。おお! やっぱキュウリには味噌だね!」
どのソースで食べても別の驚きがある。
ソースもただの味噌やマヨネーズというだけでなく、手を加えられているようだ。
さすがオトナシさん、芸が細かい。
素材の味が濃いのに、ソースと喧嘩しない。補い合っているみたいだ。
野菜を食べているだけなのに、重厚な料理を食べているような満足感がある。
「うまい……!」
「生でもおいしいですよね!? それを調理するとさらに……」
オトナシさんが調理に取りかかる。
この草原にはコンロはない。
アパートから持ち込んだと思われる机と、少しの調理道具だけ。
すでに具材のカットは済んでいる。
オトナシさんはフライパンに具材を入れて手に持っている。
あとは炒めるだけのようだけど……。
火はどうするんだ?
「さて、炒めていきます! ――ファイアボール!」
「おお、火魔法で! って……ファイアボールってそんなんでしたっけ!?」
オトナシさんの手から火球が放たれ……その場に浮かんだまま留まる。
消えることなく、そのままフライパンの下に滞空している。
「え? 普通のファイアボールですよ?」
「えー……。まあ、火の玉ですけど……遠くに飛ばす魔法じゃ? いや、いいのか……」
これは……。俺が最近気づいたことに似ている。
スキルは柔軟だ。
ある程度の範囲内では、思った通りに発動してくれる。
魔法もイメージ次第だ。
ファイアボールだって、遠くへ飛ばすとは限らない。
もっと自由なんだ。
「あれ……なんかヘンでしょうか……?」
「いえいえ、うまく使いこなしているなと思って! 魔法は万能でいいですね!」
オトナシさんは多分、天然でこれをやっている。
疑問もなく、魔法ではこういうことができると思っているんだ。
ゲーム脳ではないから、ファンタジー的な思い込みがない。
ファイアボールという魔法のテンプレートにとらわれていないんだ!
彼女はもともと、自由で独特な思考の持ち主だ。
飛躍したり、理屈にとらわれない。イメージ先行型、感情型だ。
ストーカー的な思い込む力……それが有利に働いている。
ある種の天才かもしれない。
これは俺が細かいことを言って、常識にとらわれるようにしてはダメだ!
「はい! 魔法ってとっても便利です! 思い通りの火加減にできるので、キッチンのコンロよりいい感じにお料理できます!」
ほら、という感じで、オトナシさんが火力を調整する。
ぱっと、強火から弱火に変わる。
すでに放った火球の操作までできるのか……。すごいな。
いや、これは俺もやってることだな。
俺の【分身の術】は出した後に指示したり操作できる。似た感じだ。
ファイアボールの発想としては、なかなか思い付きにくいけどね。
普通、ファイアボールは飛ばしてそれっきり。
これを攻撃に応用したら……普通のファイアボールより強いはずだ。
知らないってことは、必ずしも悪いことじゃない。
型にはまらない強さにもなる。
うーん。勉強になるぜ!
「できましたー! 野菜炒めです!」
「う、うますぎる!」
野菜炒めも絶品だ!
具材はニンジン、ピーマン、キャベツ。
キャベツは持ち込んだ素材だそうだ。
ニンジンは生で食べるよりも甘みが増している。
ピーマンは苦みもなくて、シャキシャキしている。
繊維に沿って切ると、苦みが出ないんだよね。
キャベツは普通の食材だけど、これも普通においしい。
「クロウさんは美味しそうに食べてくれるから、とってもうれしいですー!」
「いや、美味しい料理はおいしそうに食べますよ。オトナシさんの料理はなんでも美味い!」
「ダンジョンの外にもここのお野菜を持ち出せたらいいんですけどね。これからは、美味しいもの食べ放題です!」
「それに、食費が浮きそうだよね。肥料の効果ですぐ育つもんね」
「そうなんですよ。ダンジョンがなかったら、ちょっと生活が厳しかったと思います……」
オトナシさんは最近、仕事を少なくしていた。
ストーカーとか学校の問題のために引きこもり生活だったからだ。
それに、ここに引っ越してくる費用なんかも負担だったらしい。
「実は、そろそろお仕事を増やそうかなあと思っているんです……」
「モデルの仕事? ……友達と同じ事務所だよね。大丈夫?」
例の友達だ。今は仲が微妙になってしまっている。
オトナシさんは少し表情を曇らせながらも、笑顔で答える。
「そうですね……なるべく、関わらないような仕事をもらえるよう営業さんに話してみるつもりです。仲直りはできたら、いずれは……」
「ちょっとずつ。無理せずにね」
「はい。そうしますね!」
……俺もそろそろ、収入面を考えるべきだろうか。
ブラック労働で貯めていた貯金がある。
使う暇がなかったから、ちょっとずつ増えたんだ。
一人で暮らす分には、まだまだ余裕がある。
俺が彼女を養うっていうのも少し飛躍した考えなんだけど……。
俺だけ働かないでいるのもなんかね。
そろそろ月末だけど、元の職場はちゃんとできてるのかね。
給与計算とか振り込みも俺がやってたんだよな。
オーナーが自力でできる気がしない……。
もはや関係ないとも言えるけど、俺の給料も関係してくるからな。
ちゃんと払う気があればね。
まあ、どうなることやら。
既に、職場に対するこだわりはないので給料や有休がちゃんと扱われなくてもあまり気にならない。
今俺が気になるのはダンジョンのことだ。
外のことは後でよし!
「でも、このダンジョンがあると食費が浮いていいですね。野菜とスライムゼリーか。こうなると、肉も食べたくなるような……」
「お肉も食べたいですか!? あります! ちょっと遠いですけど。行ってみますか?」
肉……食べられる動物もいるんだろうか。
食材の宝庫か、このダンジョン!
俺のダンジョンとは大違いである!
「ぜひ行きましょう!」
いざ、肉狩りだ!
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