ゴブリン以外のモンスター現る! 飛ぶ! 黒い! G……!
バトル展開!
……もっと忍ぶべきでは?
【投擲】スキルを乗せた棒手裏剣を放ち、ゴブリンを始末する。
断末魔の叫びをあげ、塵へと還るゴブリン。
涼し気な金属音を立てて、投げた手裏剣が床に落ちる。
俺は手裏剣とドロップした魔石を回収する。
手裏剣は曲がったり汚れたりしていない。そのまま再利用できる。
死んだモンスターは塵になって消えてしまうから血をぬぐう必要もない。
「使いまわしもオーケー! こりゃあ楽だね」
手裏剣を投げる感覚を再確認しながらダンジョンを進む。
うまくいったときには、手の先からスッと飛び出ていくような感じだ。
敵に向かって吸い込まれるように飛ぶ。この感覚を忘れないように……。
「ん……? 何か……居るな」
暗いダンジョンの天井で、何かが動いたように見えた。
一匹ではない。
……暗闇の中でうごめいている。
発光するキノコやコケの光量では、天井付近はよく見えない。
ろうそくは持ってきているが、火はつけていない。
俺自身が隠れるために、明かりを持っていては都合が悪いからだ。
天井で、複数の何かがひしめいている。
キイキイと耳障りな声も聞こえてくる。
黒く、闇に溶け込んでいる鳥……いや、コウモリだ。
天井に10匹ほどのコウモリが逆さにぶら下がっている。
大コウモリだ。しかも群れている!
ついにゴブリン以外の敵が現れた。
普通のコウモリが小鳥サイズだとすれば、これは倍以上はデカい。
体長30センチほどだろうか。
翼で身体を包み込んで天井からぶら下がる様は少し不気味だ。
牙も爪も鋭そうだ。
とはいえ、コウモリなんてどうせ雑魚モンスターだろう。
大きいとはいえ、ゴブリンと比べても小さい。
しょせんは動物がデカくなっただけ。
コウモリの特徴と言えば、空を飛ぶこと、血を吸うこと。
後なにかあったような気がする。
空を飛ぶ能力は強いかもしれない。
だが【隠密】で潜んでいる俺からすれば、敵が変わってもやる事は同じだ。
飛び立つ前に不意を打って仕留めるだけだ。
隠密状態を維持しながら近づいて、棒手裏剣を構える。
コウモリがいる天井の一角は、あとわずかで俺の射程距離に入る。
「キィ!」
と耳障りな声を上げると、コウモリたちが動き出す。
ばさばさと羽音を立てて、一斉に飛びたつ。
まるで、こちらに気づいているかのような動きだ。
「まずい。みつかったか!?」
【隠密】が見破られた!? くそっ!
音を立てたか? 近づきすぎた?
俺の居る位置は暗がりで、相手からは見えにくいはずだ。
【消音】も発動している。
音を立てないように注意を払って投擲のフォームに入っていたのだが。
なぜバレた。
見破るようなスキルを使われたのか?
状況を把握できていない俺をめがけて、コウモリが襲い掛かる。
とっさに手裏剣を打とうとするが、狙いが定まらない。
不規則に暗闇の中を飛び回るコウモリ達は、スキルの助けを得ても狙いをつけることが難しい。
「キイッ!」
「あだっ! いてえ!」
すれ違いざまにひっかいてくる者もいれば、体当たりを仕掛けてくるものもいる。
しかも、【隠密】状態の俺を迷いなく攻撃してくる。
ステータスのおかげでなんとか直撃を避けてはいるが、無傷とはいかない。
「近寄るな! くそ!」
俺はバットを振り回して応戦するが、分が悪い。
バサバサと風切り音を立てて羽ばたき、俺をめがけて殺到してくる。
暗闇の中を飛ぶコウモリは闇に紛れて視認しにくい。
上下の距離感もつかみにくい。
戦闘に入ってしまった今、ろうそくに火をつける余裕はない!
俺の金属バットは空を切る。
近づかれる前に撃ち落とそうと棒手裏剣を構えるが、狙いが定まらない。
縦横無尽に暗闇を飛び回り、複数匹が乱れて飛ぶため一匹に狙いを絞ることが難しい。
放った手裏剣は命中せずに闇に消える。
相手からはこちらの位置が丸見えで、俺は相手を捉えられない。
くそ、これではいつもの逆じゃないか。
やりにくいったらないぞ!
何らかの索敵能力があるのか。
索敵能力……?
思い出した。動物のコウモリも超音波で周囲を把握しているんだった。
エコーロケーションというやつだ。
超音波の反射で地形や敵の位置を知る能力だ。
有名じゃないか。くそっ!
そのくらいすぐに思い至るべきだった!
【隠密】に頼り過ぎていた。それに少し気を抜いていた。
ここまで順調すぎて、気が緩んでいたんだ。
あれほどケガ無く慎重に行くと自分に言い聞かせていたのに!
……反省会は後回しだ。
まずはこの窮地を脱しなければいけない。
超音波で俺の位置を把握していると仮定する。
これは【隠密】で防げないのかもしれない。
【隠密】の【隠術】は他者にみつかりにくくなるという効果だったはずだ。
前に【隠術】の効果を考えたときは視覚をごまかすのかと考えていた。
実際、ゴブリンの場合は視界に入っているはずの状態で発見されずに済んでいた。
だから俺は【隠術】を視界を遮るものだと考えていた。
暗闇を狩場とするコウモリは、視力でこちらを認識しているのではない。
だから【隠術】が効果を発揮していないのか。
もっとゴブリンでしっかり検証しておくんだった!
ゴブリンが弱すぎて、倒すのに飽きてしまっていた。
【隠密】が強すぎて、検証がおろそかになっていた。
緊張感が薄れてダンジョンへの警戒心を下げてしまっていた。
ああもう! 余計なことを考えるな、手を動かせ!
考え込むのは俺の悪い癖だ!
「くそっ! 来るな!」
バットをめちゃくちゃに振りながら耐える。くそっ。当たらない。
コウモリの醜い顔が、ドアップで飛来する。
なんとかバットで防御できたが、あやうくディープキスしてしまうところだ。
デカいせいで醜い顔が判別できてしまう。
顔が怖い。
翼を広げて飛ぶコウモリは天井でお休みの時とは威圧感が違う。
翼を広げたときの両端の長さ、翼開長は6、70センチはあるだろうか。
それが飛び回っているのだから、なかなかコワい。恐怖心を掻き立てる。
しかも群れで、視界の効かない闇から縦横無尽に飛び掛かってくる。
「だああ、離れろ!」
振り回したバットが敵を捉え、叩き落とす。
コウモリの耐久力は低いようだ。当たれば倒せる。
しかし、数が多くて手が回らない。
多くのコウモリは素早く攻撃をかわし、手の届かない範囲に飛び去ってしまう。
手裏剣で狙うにも、薄暗い洞窟の影から不規則に飛び出してくるために狙いが付けられない。
地上にいるゴブリンと違って、縦の動き、高低差を考慮して狙う必要がある。
そして常に飛び回っている。止まっているタイミングがない。
すれ違いざまに俺の身体を爪で、牙で傷つけていく。
深い傷ではないが、痛みが俺を襲い、それがまた迎撃を難しくする。
飛んでいることがこれほど厄介とは!
ゴブリンのように殴れば当たるというわけにはいかない。
雑魚モンスターと思いきや、なかなか強敵だ。
おそるべし、飛行能力! 探知能力!
バットを振り回しているだけではダメだ。
じり貧だ。
コウモリに振り回されてしまうだけだ。
考えろ。頭を使え。身体も動かせ!
狙っても当てられないなら、いっそ狙わずに攻撃してみるか?
体が大きい分だけ、マトも大きい。当たりさえすれば……!
用意した短いほうの釘、三寸釘を何本かまとめて腰袋からつかみ出す。
「うらあっ! 当たれっ!」
フォームも何もない、力任せの投擲。
考えた結果はシンプルなものだ。
下手な手裏剣、数打ちゃ当たる!
飛来するコウモリへ、つかみ出した釘をまとめてぶん投げる!
飛び出した三寸釘はスキルの補助で狙い通りに打ち出される。
さながらショットガンのように、釘がばらまかれる。
うまいこと、何本かが命中する。
ただ運よく当たったとも言える。
だが、たくさん投げることで当たる確率を高めている。
単なる運否天賦ではない。
だが仕留めるには至らない。狙いも威力も足りていない。
しかし、それでかまわない。
翼を貫かれて、被弾の衝撃で、コウモリ達が地に落ちる。
床に落ちたコウモリは、すぐには飛び立てない。
飛べないコウモリはもはや死に体だ。
キイキイと叫ぶコウモリにバットを振り下ろし、とどめを刺す。
同じようにして、少しずつ数を減らしていく。
地道な消耗戦で、無傷とはいかない。
血をにじませて、ようやくすべてのコウモリを塵に返した。
「はあ……。誰だ、コウモリは雑魚モンスターとか言ったやつ……」
俺です。
ひとまず危機は脱した。
【隠密】スキルは強スキルだ。だが、万能ではないこともわかった。
何か対策を練らねば!
幸い、ここまででレベルは上がっている。
新たなスキルを取得して、次につなげよう。
さて、何にしようか!
ブックマーク、評価いただけると作者が喜びます! 日間5位! ありがとうございます!
毎回、題名をどうするか悩んでいます。
ここで没にした題名を発表してみる。
「バット VS バット!? ややこしいことになった……!」




