朝練! 自律分身と宝箱回収! 【スキル検証】【体術】【忍具】
新要素、考えることが山積みだ! ひとつずつ片づけていきます!
俺は早起きしてクローゼットダンジョンへ潜っている。
自律分身を呼び出して、ちゃんと発動することを確認した。
「よう、俺!」
「よう。問題なく発動したな!」
せっかくだから、このまま探索へ行こう!
朝練だ!
「んじゃ、宝箱回収に行くか!」
「おう!」
俺は自律分身と、各階層の宝箱を開けて回る。
鉄鉱石が揃えば、クラフトがはかどる。薬草はいくつあっても困らない。
定期収入はしっかり刈り取ろう!
そうしている間、俺は考えを巡らせる。
【自律分身の術】は便利だ。俺の主力スキルと言っていい。
だが、課題は効果時間だ。一時間程度しか出していられない。
そして次に出せるのは六時間後と、連発もきかない。
スキルレベルを上げれば改善されるはずだが、このスキルは成長させられない。
ステータスウインドウで確認しても次のレベルへのポイントが表示されないのだ。
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【自律分身の術】
レベル1:自身の複製である分身を生み出す。分身は自分同様に自律的に思考する。
レベル2への必要ポイント:ー
【意識共有】
レベル1:自律分身の解除時、本体に記憶を統合する。
レベル2への必要ポイント:ー
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これは多分、このスキルの基礎スキルが【エラー】となっているせいだと思う。
【エラー】の【自律分身の術】となっている。
普通のスキルは【忍術】の【分身の術】のようになる。
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【エラー】
【自律分身の術】
【意識共有】
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たぶん、この影響で成長させられないんだろう。
何かの条件で【エラー】が解消できれば成長させられるかもしれないが、今の時点では方法は見当もつかない。
それに……【意識共有】についてはデメリットも大きいので、単にレベルを上げていいかも悩みどころだ。
フィードバック量が増えて、痛みや苦悩が強く書き込まれるのは危険だ。
【自律分身の術】のスキルレベル上げは棚上げだな。
そして、ストーカーの件でダンジョンの外でもスキルが使えることが分かった。
スキルレベルが高いものしか使えない。
俺が試して使えたのは【分身の術】だけだ。
【分身の術】はスキルレベル3。
最低限、3レベル必要ということだろう。
あのとき発現したスキルはいつもより弱く、実体のない分身だった。
これはスキルレベル1に相当する。
つまりレベルが2下がる……弱体化、制限されるんだろう。
しかし……違和感があるのだ。
あの時の【分身の術】は俺のその時の姿ではなかった。
ケガをして倒れている俺ではなく、俺の頭に描いた姿……忍び装束でバットを持った姿だった。
とっさの状況での火事場のバカ力か……。
本来、レベル1では、自分に重なった位置にしか出せないのだ。
姿も自分を模したものになる。
これは、どういうことだろう……。
外で使う場合には勝手が違うのか?
ん!? いつもと違ったこと、あったじゃないか!
あの時俺は、分身のイメージをいつもより強く、細かく、じっくりと意識して発動させた。
それなら……。
「よし! ちょっと試しに……じっくり分身の術!」
スキルレベル1で発動させる。
その際に、あの時と同じイメージを浮かべる。
【忍具作成】でクラフトするものをイメージするように、俺が呼び出したい分身の姿を具体的にイメージする。
忍び装束で、バットを構えた姿。
自分に重なる位置ではなく、少し前方に。
――【分身の術】が発動した。
「おっ!? 成功したな!」と俺。
「おお! イメージを固めたのか?」と自律分身。
「そうらしい。思っていたより、スキルは柔軟なんだな」と俺。
「そうみたいだな。じゃあ俺も試しに……分身の術! ……ムリだな」と自律分身。
自律分身はうんうん唸りながらいろいろやっている。
【自律分身の術】はステータスはあるがスキルはない。
これは多分、イメージ力でどうにかなる範囲の誤差じゃなく、厳密な仕様なのかもしれない。
「うーん、無理だな。やっぱりスキルは使えない。それに、お前の出した分身を操作するのも無理だ」
「やっぱり、俺とお前は別人扱いになるというか、お前はスキル扱いなんだろうな」
「そううまくはいかないか。ま、今後に期待しようぜ。エラーが解消したら使えるようになるかもしれない」
「そうだな」
三階層のストーンサークルにたどり着く。
宝箱を開ける。中身は相変わらずの薬草だ。
やはり俺のダンジョンの宝箱の中身は固定されているようだ。
ランダム性がないんだな。
そして、これも変わらずゴブリンの群れが集まってくる。
今回は自律分身と二人。前より俺も強くなっている。
普通の分身も三体出して、乱戦となる。
今回は俺がトンファーを使う。
自律分身は後衛で分銅だ。被弾させたくないからね。
新しいおもちゃを試したいだけじゃないよ!
「うおりゃあ!」
「ウギッ!」
俺は前に踏み込み、ゴブリンにトンファーの突きを食らわせる。
ゴブリンが後ろへ倒れ、後続のゴブリンの動きを止める。
そのまま俺は逆の手のトンファーをしならせ、回転させた先端で次のゴブリンを打つ。
「ほあたあっ!」
「ギャァッ!」
こめかみに命中して、ゴブリンは横向きに倒れる。
俺は常に移動しながら、囲まれない位置取りをする。
自分自身が積極的に戦闘している今、五体の分身は精密に操作できない。
俺はトンファーと【体術】に集中したい。
慣れない武器を操りながら、他の分身を操作すると気が散ってしまう。
ばらけるように動かして、ランダム回避を命じておく。
敵を引き付けておいてくれればそれでいい。
ゴブリンは俺と分身の違いを感じないらしく、簡単につられてくれる。
自律分身は分身に釣られて孤立しているゴブリンを狩って回る。
安全域から着実にしとめている。
頼もしいやつだ。自画自賛!
「ギギッ!」
「ゴブッ!」
二匹のゴブリンが同時に俺に打ちかかってくる。
ナイフと棍棒だ。
俺はナイフを回避して、棍棒のゴブリン側へ距離を詰める。
振り下ろされる棍棒へ向けて、トンファーをかち上げる。
垂直に当てるのではなく、滑らせる。
空手の受けに近い、外側へはたき下ろすような動作だ。
びぃん、と鈍い音を立てて棍棒を逸らす。
踏み込みながら武器をはじいている。格闘の間合いだ。
スキだらけになったゴブリンの脇腹へ、すかさず逆の手のトンファーを突き込む。
「せいっ!」
「グウェっ!」
倒れたゴブリンが塵となる。
続いてナイフを外して体勢を崩しているゴブリンへ、踏み込んで突きを入れる。
ゴブリンは吹き飛んで転がり、塵となる。
「よし!」
【打撃武器・威力強化】もしっかり乗って、威力も充分。
【体術】【忍具】と練習の甲斐あって、トンファーの扱いも悪くない。
ちょっとしたズレはあるが、実戦の中で修正していける。
陽動させていた分身が四体まで撃破される。
残り一体は自律分身が重点的に援護していて無事だ。
こちらは任せておこう。
分身を撃破したゴブリンの注意を引くように、俺は前に出る。
走りざま、一番近いゴブリンの鳩尾へ一撃。
駆け寄ってきたゴブリンの大振りの攻撃をバックステップで回避。
スキをさらしたゴブリンへ、トンファーを横なぎに大振りする。
「――フルスイング!」
アクションスキルが発動し、ゴブリンが身体をくの字に折り曲げながら吹き飛ぶ。
後続のゴブリンを巻き込んで、なぎ倒していく。
巻き込まれて転倒したゴブリンへ向けて、手に持ったトンファーを投擲する。
左右二本。それぞれ、別のゴブリンへ命中する。
さらに、クギホルスターから抜き出した棒手裏剣を連続で投擲してとどめを刺す。
自律分身側の残ったゴブリンも、すでに倒されている。
乱入してきそうな新たな敵もいない。
これで、戦闘終了だ!
「よし、トンファーもいい感じ! 【体術】と【忍具】もバッチリだった!」と俺。
「トンファー投げるのは邪道な感じだけど、まあまあな威力だったな」と自律分身。
「手に持ってると手裏剣を投げられないんだよな。俺の場合、武器はたくさんあるから、投げてもスキはない」
懐に鎖分銅、腰にクナイとナタがある。
背中にバットは……ない。
相棒がいないと背中がさみしいぜ。
「まあ、忍者だから型なんてどうでもいいよな。枠にとらわれない柔軟な発想、良し!」と自律分身。
「今回もお前はケガなしだったな。いや、しなくていいんだけどね」
「俺、もうじき消えるけど試しにケガしてみるか?」と自律分身。
「実際にケガするときのために試しておきたい気持ちはあるけど……いや、ないな!」
自律分身は俺だ。俺の延長だ。
わざとケガをするなんてのは、自傷や自殺をするような感覚になる。
しかもそれを自分でやらず、やらせる後ろめたさもある。
「自殺ダメ絶対! だよな……。やめとこう!」と自律分身。
あとでピンチになるとしても、これはできないわ。
とことん自律分身に甘い俺。自分に甘いんだ。
「自分を大事にするのは当然だな! んじゃお疲れ!」と俺。
「おう。んじゃな!」
自律分身が消滅する。
今回は意識のフィードバックはスムーズだ。
おそらく一緒に行動していることが齟齬のない統合をしやすくするんだな。
魔石と装備品を回収して、俺は四階へ向かう。
無駄な戦闘は避けて宝箱を回収し、拠点へ戻った。
トンファーとスキルの検証はバッチリだったな!
前回のいいね数ランキングでは不人気だったトンファー君。
不人気説……覆るだろうか!?