チート農業はダンジョンで!? 潤沢なアレは肥料です!?
俺達は花畑を後にした。
途中見かけたスライムを狩りながら大きな木の近く、野菜畑へ戻ってきた。
野菜畑の前でオトナシさんが立ち止まる。
「じゃあ、肥料をまいちゃいますねー」
「肥料? あ、はい」
オトナシさんは、なにかを無造作に畑にばらまいた。
よく見ればそれはさきほど集めた魔石だ。
「ああっ!? オトナシさん!? 肥料って!?」
それ、魔石ですよね!?
「この石、使い道がないけど肥料として役に立つんです! お野菜もすぐ育つんですよー」
「そ、そうなんだ……野菜がね……」
クラフト系のスキルを持っていないと、魔石の使い道は限られる。
俺のダンジョンでは、モノリスでアイテムと引き換えることができる。
草原ダンジョンでは、モノリスのような使い道がないんだろう。
つまり、オトナシさんにとっては使い道がないアイテムなんだ。
にしても、肥料って……。
畑にまかれた肥料――魔石はだんだんと小さくなっていく。
まるで畑の土に吸収されるみたいだ。
炭酸の泡みたいに黒い塵となっていく。
すっかり小さくなって消えてしまうと、塵はふわりと風に舞って消えてしまった。
すると――野菜がぐぐぐ、と目に見えるほどの勢いで成長していく。
「おおっ! 魔石にこんな使い方が……」
「このお野菜は外に持ち出せないんですけど、とっても美味しいんです。あとで、ごはん作りますね!」
「持ち出せない……ってことは、この野菜もダンジョン産の扱いなのかな」
極上の肥料で育った、無農薬野菜だ。
味も期待できそうだ!
「ん……あれは?」
畑をよく見ると、小さな瓶が逆さに刺さっている。
あれはホームセンターでよく見る、植物の栄養剤かな……?
なんか見覚えのある小瓶だけど……。
数百円で買える液体肥料、だよな?
でも、どうみてもこれは貴重なアレに見えるんだが……。
「オトナシさん、これってまさか……」
「あ、それですか? ポーションは栄養満点なんですよー」
「な、なんですとー!?」
「こうやってさしておくと、お野菜があっという間に大きくなるんです。味もよくなりますよ!」
「そ、そうですか……ぜ、ぜいたくですね」
なんだか、ギャップがスゴイ。
ポーションを野菜に……。
もったいないとか、そういう域を超えている。
俺が怪訝そうにしているので、オトナシさんも違和感を覚えたようだ。
気づいてもらえたか。
オトナシさんは笑顔で、手をひらひらと振りながら言う。
「やだなあ。無駄になんてしてませんよー! もちろん、余ったときだけです。基本的にはちゃーんと美容液として使ってますから!」
「余ってる!? ちゃーんと!?」
違和感の種類が違ったー!?
美容液って! 化粧品扱いだよ!
そりゃ、液体肥料より美容液のほうが高級かもしれないけど!
「そうなんですよ。メイクボックスにも入りきらなくなっちゃいます」
「め、メイクボックスに入りきらないほど余ってるんですね……へえ、そうなんだ……」
俺は一本のポーションを大事に布にくるんで何日も持ち歩いてたのに……。
「でも、今回はこれのおかげでクロウさんを助けることができたから……持っていてよかったです!」
「はははは……そうですね。ありがとうございます……」
乾いた笑いがこみ上げる。
化粧品に命を救われた俺……。
まあ、よかった。持っててくれてよかったなあ!