花蜜スライム乱獲作戦!?
オトナシさんは二つの職業を持っているとわかった。
魔法使いとモデルの二つだ。
魔法使いは魔力と知力のステータスが上がる。
モデルは生命力が上がる。
ということは、オトナシさんは俺よりも防御力というか、耐久力が高いのかもしれない。
もちろん、試しにケガをさせることなんてできない。
頑丈だとしても、ケガ一つさせるつもりはない。
「生命力が上がるんですね……。モデルも戦いの役に立つのか……」
「ね。いいことずくめでしょ?」
なんでモデルが生命力なんだろう?
ゲームによってはカリスマとか魅力というステータスがあるけど……。
魅力は生命力に含まれるのかな。
「ちなみに、オトナシさんってレベルいくつなんですか?」
「いくつだっけ……? 19、ですね」
オトナシさんが空中のタコウインナーへ確認して答える。
なんでもないことのように答えているけど……そんなにか。
強いとは思ってたけど、大先輩だよ!
「じゅうきゅう!? ほとんど俺の倍じゃないですか!」
「えっ? そんなにスゴイことなんですか? その……トイレに来るたびに寄ってくるスライムさんを倒してただけなんですけど……」
……そうだ。ここはトイレだった。
彼女は恥ずかしそうに言う。声はちょっとふるえている。
あまり追及するのはよそう。
前の会話で、そのたびに襲われると言っていた。
毎日、何度も来ることになる。そのたびにスライムに襲われてたんだ。
「……それだけで、そんなに?」
「あとは、おいしいものを集めるためにちょっと。えへへ……」
てへぺろ、みたいな顔をしているけど、なかなかスゴイな。食べるためか。
どれだけのモンスターが彼女の胃袋に収まったのか……。
彼女には驚かされてばかりだ。
ずっと彼女のターン! 状態だぜ。
そろそろ俺も、いいところを見せなきゃな!
「じゃ、俺も美味しいスライムを集めてきますか! ちょっと、待っててくださいね」
「わあ! お願いします!」
俺なら、花畑を燃やすことなくスライムを倒すことができる。
方法は、もう考えてある。
「分身の術!」
「わぁー! クロウさんがいっぱい!」
俺は分身を連続して呼び出す。とりあえず、五体。
複雑な操作をしないので、五体でも問題ない。
俺の前に五体の分身を並べて、花畑の中を進ませていく。
これぞ、分身ローラー作戦だ!
「よし、かかった!」
分身の一体に、スライムが飛びつく。
そのまま、分身の体をよじ登っていく。
「花畑の外へ走れ!」
体にスライムをくっつけた分身が、花畑の外へ向かって走り出す。
花畑の外へスライムを運び、そこで分身を解除する。
スライムが、ぽとりと花畑の外に残される。
同じようにして、五匹のスライムを集めた。
俺は拾っておいた小石を投擲して、スライムの核を撃ち抜く。
短時間で、簡単に五匹のスライムを狩ってみせた。
「わあっ! すごいすごい! こんな方法があるんですね! それに、すごく早いです!」
俺の手際に、オトナシさんは大喜びしている。
火力はなくても、こういうのは俺の得意分野だな。
「じゃ、宝箱を開けてみましょう。魔石、魔石、ゼリー、魔石、ゼリーですね。はい、ゼリーをどうぞ」
「やったー。いただきますね! ……んー! おいしーい!」
彼女は喜んでゼリーを食べている。
ドロップ率は魔石とゼリーで同じくらいなんだろうか。
俺にとっては、魔石はハズレではない。
使い道がある。さっそく使おうじゃないか!
「ちなみにここの花、摘んでもいいですか?」
「花を? どうぞー。ちょっとくらいならまた生えてきますよ!」
俺は分身が踏み荒らした花を選んで摘んでいく。
片手で持てるくらい摘み取ると、ちょっとした花束のようになった。
赤、青、黄色と同じ種類の花でも色が違う。鮮やかで、華やかだ。
花束を、オトナシさんに見えるように掲げる。
これをプレゼントする、というワケではない。
「この花束を使って……」
「花束を、使うんですか?」
「はい。ではご注目! タネもしかけもありません! ――薬術!」
「あっ! 花束が光って……消えちゃった!?」
光を発して、手品のように花束が消える。
手の中の花束と逆の手に持っていた魔石を素材にして、クラフトしたのだ。
やはり、ここの花は微量の回復効果を持っている。
この花は、俺のダンジョンの薬草に比べると回復効果は小さい。
それでも数を集めれば【薬術】の素材として使える。
スライムはここの草花を食べて、体内で濃縮することで回復効果のあるゼリーをドロップする。
俺がやるのも似た原理だ。
花束から、ひとつの薬――のど飴を作るのだ。
――花蜜のど飴の完成である。
「さ、どうぞ。食べてみてください!」
「えっ? これは……アメですか? ええっ?」
俺の手の上には、三粒の飴玉が出来上がっている。
薄い黄色、はちみつを薄めたような飴玉だ。
オトナシさんは手の上の飴を驚いたように眺めている。
あ、突然現れた飴玉とか、いきなり食べられないか。
「花をもとに薬術というスキルで作りました。食べられますよ。俺もひとつ味見を……」
一粒を口に運んで舐めてみる。
【薬術】ちゃんは料理上手だ。味は保証されたも同然。
そしてファンタジー成分が含まれる素材を使えば、ちゃんと回復効果を持った薬が作れる。
「うん。うまい。ちょっと薄味のはちみつのど飴みたいな感じです」
オトナシさんも、興味津々という感じであめ玉を摘まんで、光に透かして見たりしている。
「綺麗な飴玉ですね。透き通って……。味も……のどに優しそうです! おいしい!」
「少し薄味かもしれませんね。もっと素材を多くすれば味も濃くなると思います」
「すごいですね! 飴玉作成スキル……私も欲しいです!」
「いや、薬術ですけどね。まあ、実際食べ物ばっかり作ってます」
「飴玉以外もつくれるんですね!?」
食いつきがスゴイ!
「素材と魔石があれば、いろいろ作れますよ。今度、何か作りましょう!」
「やったあ!」
スイーツ作成スキルみたいな扱いだけど、薬術は好評なようだ。