美容とモデルと第二の選択!? 攻略のための最適解!
オトナシさんはダンジョンで手に入れたアイテムを、美容のために使っているらしい。
俺にとっては衝撃の事実だ!
「うわあ……それはぜいたくですね!」
俺のダンジョンでは回復アイテムは貴重だ。
もったいなくてなかなか使えなかったし、ポーションはいまだに超貴重品だ。
今となっては薬草くらい簡単に手に入るけど……。
ここでは普通に生えている草花が弱い効果の回復アイテムのようだ。
その草花を食べたスライムが、回復アイテムを作る。
ちょっと、ズルくね?
そして、その回復アイテムを気軽に使っているんだ。
ぜいたくが過ぎるぜ。
いや、俺も筋肉痛のために薬草を使ったりしたな。お互い様か?
オトナシさんは少し、気落ちしたような様子だ。
「ぜいたく、ですか? すごく大事なことなんですが……」
「そ、そうなんだ。たしかに、引っ越してきてすぐのころより、最近はどんどん綺麗になってますよね」
髪の毛に限らず、全体に綺麗になっている。
肌艶もいい。スタイルも磨きがかかった。
ダンジョンの外よりも、ここではより魅力が増しているような気もするし。
「……ちょっと、ダンジョンの力を借りてズルしちゃってるかもしれません。……やっぱり、ダメでしょうか?」
彼女はしょんぼりした様子で、心配そうにこちらをうかがっている。
あっ……別に責める気で言ってるんじゃないんだ。
「いえ! ぜんぜんそんなことないですよ! オトナシさんは元からかわいかったし!」
「……元から!? 引っ越したばかりのころは、見向きもしてくれなかったから……てっきり私のこと嫌いなのかと思ってました……それは、すごく……うれしいです!」
隣に美人が引っ越してきたら、いきなり親しげにしたりできない。
俺が毎日残業のブラック労働状態だったこともある。余裕がなかったんだな。
それに、当時のオトナシさんとは意思疎通がうまくいっていなかった。
「え!? むしろ俺が嫌われてるのかと思ってたくらいだけど……」
「ええっ!? そんなワケないじゃないですか。そもそも私はクロウさんに会うために引っ越してきたんですし」
……そうだよな。そもそも彼女はストーカーだった!
もちろん当時の俺は、そんなこと知る由もなかった。
思い返せば、俺のことをにらんでいると思っていたこともあった。
あれは、好意的な目でじっと見ていただけなのかもしれない。
話しかけても目を見てくれないと思ったこともあるが、恥じらっていたのかもしれない。
「そ、そうだったね。ともかく、オトナシさんはもともとかわいかった。それに最近は、性格もすごく明るくなったように見えます。それがダンジョンのおかげだってことなら、全然問題ないですよ!」
引っ越してきた当初はあきらかにコミュ障だったオトナシさん。
最近、大胆というか積極的になったのはダンジョンのおかげもあるのかもしれない。
俺だってそうだ。
ダンジョンの中で運動して体も引き締まってきた。
身軽な動きもできるようになったし、ダンジョンのおかげで色々と成長できている。
自信もついた。
ダンジョンの力を借りたっていいんだ!
別に悪いことじゃない!
美容のために回復アイテムをつぎ込んでも、もったいなくない……かもしれない。
必要な投資だと言える。
ちょっと、納得したわ!
「そうですね、ダンジョンにはお世話になってます。あと……職業のおかげもあると思います。モデルは、けっこう便利でした!」
「ん? 職業は魔法使い……ですよね?」
職業がモデル?
モデルは現実世界での職業だよな。
ダンジョン内で関係あるのか?
「はい。ひとつ目は魔法使いですよ。ふたつ目がモデルなんです」
……ふたつ目?
当たり前のようにふたつ目の職業について語るオトナシさん。
「ふたつ目の職業を持ってるってこと!?」
「そうです。レベルが10になったから選んだんです。……あれ? クロウさん、レベルっていくつですか?」
「ちょうど、10です。ということは、俺も二つ目の職業が選べる……のか? ……どうやってふたつ目の職業取るんだろう。何のアナウンスもなかったけどな」
「ステータスの職業欄を押せばいいんですよー。あ、私の場合はシステムさんがレベル10になったとき教えてくれたんです」
「そ、そうなんだ」
俺はステータスウィンドウを表示させる。
特に変化はないような。いつも通りの表示だが……。
職業欄を押してみる。
すると、職業選択のポップアップウィンドウが表示された!
--------------------
<職業を選択してください>
・料理人
・奴隷
・掃除屋
・管理者
・戦士
・中級忍者(NEW)
・スラッガー
--------------------
前と同じラインナップの職業が並んでいる。
違うのは中級忍者か。
中級……。つまり今は初級なのかな。
その次はおそらく上級忍者があるはずだ。
職業にも先があるぞ!
「あるわ……! 中級忍者が増えてるし」
「あ、まだ選んでなかったんですね!」
「ってことは、オトナシさんの場合は中級魔法使いが選べた?」
「選べましたね。職業を選択してってことで、自分の職業を選んだんです」
「……それでモデルですか」
そうか。職業を選べと言われたら、自分の本来の職業を選んでしまうかもしれないな。
オトナシさんはゲーマーじゃない。
ファンタジーとかゲームの作法を知らない。
こういう場合に職業と言えば、ゲーム的な職業、役割、クラスを連想する。
でもそれは、ゲーム脳なんだ。
自然とそう考えるのは、ある程度のオタク的な素養が求められるんだろう。
それにしても、モデルか。なんか、もったいないような。
モデルより中級魔法使いのほうがいい気がする。
職業は選びなおせない。
……そのはずだ。
画面を操作してみても、変更はできないようだ。
これも、何か条件があるのか?
……あとで、オトナシさんからシステムさんに聞いてもらおう。
黙り込んでしまった俺を見て、オトナシさんが慌てる。
「あれっ!? なんか、ひいてませんか? ……ダメでしたか?」
「いや、ダメではないです。自由に選んでいいと思います。ただ、中級魔法使いのほうが強いのかなと思っただけです。……なんでモデルを選んだんです?」
職業選択は個人の自由だ。
俺が口をはさむことではないし、ましてや強要などできない。
どうしても、もったいない気がしてしまうけれど。
「なんでって……モデルは美容にいいスキルが揃ってるんです。たとえば日にあたっても、日焼けしないんですよー!」
なにその地味な効果!
いや、日焼けを防ぐって、美容のためには夢のようなスキルなのか?
「日焼け……。そうですか」
「それに、お化粧もうまくなるし、化粧のノリも全然違うんですよ。髪もすぐまとまるし! いいことずくめなんです!」
「そ、そうなんだ」
日常生活にものすごく便利そうではある。
けど、やっぱり……もったいなくね?
……でも、オトナシさんが満足しているならいいか。
「だって、こういうズルしないと、クロウさんが振り向いてくれない気がして……」
「そ、そうなんだ!? って、もったいないのは俺のせいだったーッ!?」
まさかの事実……!
彼女はダンジョンを攻略するためにスキルや職業を選んでいるんじゃない。
俺を攻略するために使っていたんだ!
ご意見ご感想お気軽に!
誤字報告助かっています! ありがとうございます!