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美味しいスライムの出る場所!?

「おお……」


 たどり着いたのは、花畑だった。

 見たことのない植物が咲き乱れている。


 日本で見る植物よりも鮮やかで、色が強い。

 少し主張は強いけど、綺麗な花だ。


 丘一面が咲き乱れる花で埋め尽くされていて、なかなかの光景だ。


「お気に入りの場所なんです! ここにクロウさんを連れてこれたらなって思ってました……どうですか?」


 花畑を背に、こちらを振り返るオトナシさん。

 はにかんだような笑顔を浮かべて、花畑を指し示す。


 俺はその姿に見惚(みと)れてしまう。

 彼女を有名にした――してしまった写真と似ている。


 恥ずかし気に。でも得意げに。少し不安げに。

 自分のお気に入りの場所を、俺が気に入ってくれるかを心配しているような。


 風が彼女の服の裾をはためかせる。花が風に揺れている。

 その様子は幻想的で、俺の心を打つ。


「……すごく、綺麗ですね!」

「ですよね! よかったー! 気に入ってもらえてうれしいなー」


 君のほうが綺麗だよ……みたいなクサイせりふが頭に浮かぶ。


 さすがに口には出さない。

 思ったことをなんでも言えばいいわけじゃない。


 でも、言葉にしなければ伝わらない。

 頭の中だけにあることなんて、わかってもらえるわけはないんだ。


 口に出して伝えて初めて、相手に伝わる。

 言葉だけじゃ、伝わらないものもある。


 花畑の前でくるくるとはしゃいでいる彼女を見ているだけで、しあわせな気分になる。


「あ、いましたよ! アレが、美味しいスライムです!」

「……お、どれどれ」


 彼女の近くに走り寄る。指さす先、花の中にスライムが居た。

 色は緑色。草のような鮮やかな緑だ。少し、他の色も混ざっている。


 よく見ると、スライムの半透明の体の中には花が浮かんでいる。


「このスライム……花を食べているんですか?」

「そうそう! そうなんですよ。この草の成分とか、花の蜜のおかげで美味しくなるみたいです!」


 スライムは食べたものの色がつくようだ。

 そして、味も。


 俺の【薬術】で作った薬も、素材の味が出るしな。


「花の蜜で育ったスライム……花蜜スライムですね。なんかおいしそうだ」

「おいしいですよー! じゃあ、花畑の外におびき出しましょう!」

「あ、ここではまとめて焼かないんですね」

「そうなんです。ここの花は燃やしちゃうとなかなか生えないんです……。もったいないから、花畑の外でスライムさんをやっつけるようにしてます」

「へえ……復活しやすい草木とそうでないものがあるのか」


 なんでだろう。

 ここの花は特殊で、リスポーンする速度がゆっくりなのかな。


 俺のダンジョンの発光キノコは結構すぐ生えてくる。

 摘み取ると塵になっちゃうけどね。


 宝箱は一日で再配置される。中身は毎回同じだ。


 ここの花は宝箱みたいに、ある程度の時間がかかるのかもしれないな。


「じゃあ、スライムさんを花畑の外におびき出すので、見ててくださいね」

「はい」


 オトナシさんが花畑の中に入っていく。

 花畑の境界をうろうろとして、スライムを見つけては棒でつついたりして花畑から追い立てていく。


 なかなか苦戦している。

 しばらくして、一匹のスライムを花畑から追い出すことに成功する。


「ふうっ。こんな感じで、花畑の外に出して――ファイアボール!」

「おお、そうやって一匹ずつ連れ出すんですね」


 なるほど。

 延焼しない範囲に連れ出して、魔法で焼く。

 消火できるとはいえ、ある程度は周囲に影響が出てしまうんだな。


 しかし、これは効率が悪そうだ。

 花畑を焼き払わずに、もっと早くスライムを狩る方法。


 俺なら、火を使わないから色々できそうだな!



「宝箱が出ました! 開けますね。中身は――ゼリーですっ! やった!」

「それが美味しいやつですか?」

「そうそう! さっそく味見してみてください!」


 オトナシさんが宝箱を俺に向けて突き出してくる。

 小さな宝箱の中にあるのは、グミのような丸い半透明の物体だ。

 ぷるぷると揺れている。

 ゼリーより、わらび餅に近い感じだ。


 おいしそうと言えばおいしそうだけど……。

 モンスターの体の一部なんじゃないの?

 食って大丈夫なのか?


「……うーん。これ、食べられます?」

「大丈夫ですよ! ホントにおいしいから! さあさあ、だまされたと思ってパクっと!」


 まあ、オトナシさんにならだまされてもいいか。

 しぶしぶ、その物体を口に運ぶ。


「……んむ。おっ? ほんのり甘くて、つめたくて――うまい!」


 上品なゼリーみたいな味だ。ハチミツに近い。

 常温だから冷やされてはいない。

 このダンジョンの中は春のように暖かいから、清涼感を覚える。


「でしょー! しかも、ちょっとした回復効果もあるんですよ!」

「回復効果!? つまりこれは……回復アイテム?」


 この植物、花畑そのものが回復アイテムの群生地なんだ。

 俺のダンジョンの薬草みたいな、ファンタジーな植物なのか。


「そうですっ! 食べるだけじゃなくて、お肌や髪のケアにも使えるんですよ!」


 回復効果……。

 肌荒れや髪のケアに使っちゃうの!?


 たしかに、オトナシさんの肌はつやつやで、傷や手荒れ一つない。

 効果は抜群だ。


 前にオトナシさんの髪が妙に綺麗だと思ったけど……そういうことか!


 彼女は、ダンジョンの回復アイテムを美容に使っているんだ!

 なんて、ぜいたくなんだ!

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