クローゼットダンジョン・第二階層。新装備のお披露目! 【スキル検証】【投擲】
本日二話目!
ダンジョンパート。
日を改めてダンジョンに潜っていた俺は、見慣れないものを発見する。
「これは階段か? 下へ続いているみたいだ」
ダンジョンの出入り口のような黒い水面――いわゆる転移門とかゲートみたいなものではない。
ごく普通の階段だ。
石を削って作ったような、洞窟風の階段である。
「降りるべきか……? いったん帰るか?」
疲れもない。時間もある。
紙とペンを持ち込んで簡易的な地図を記しながらダンジョンを進んできた。
帰り道はわかっている。
道中のゴブリンは倒してきているので、帰路は楽なはずだ。
……ゲーム的に考えたらゴブリンは倒しても湧いてくるのかもしれない。
湧いたとしても倒せばいい。面倒なら隠密でスルーしてもいい。
「よし、進もう!」
階段を降りてみて、危なそうなら戻ってくればいい。
俺には【隠密】さんがついている。
【分身の術】も【壁走りの術】も逃走特化と言える。
まずはガンガン行ってみよう!
俺は階段を降りていく。
深い地下鉄に降りていくような、長い階段だ。
階段を下りた先は少し広めの部屋のような空間だ。
これまで同様に洞窟のようなダンジョンであることは変わりがない。
モンスターはいない。ひとまず部屋は無人だ。
「ふーん。二階といっても見た目はそう変わらないのか……」
元居た階層――仮に一階と呼ぶ――と比べると少し部屋の天井が高い。
部屋から奥へ続く通路の道幅も広くなっている。
「階段は消えたりしないんだな。戻れる……よな?」
今降りてきたばかりの階段を逆走して戻ってみる。
ちゃんと一階へ戻ることができた。
一方通行だったりはしない。
階段が消えてしまうなんてこともないようだ。
ゲームではよく、階段を進むと次の階ではフロアの真ん中にいて階段がなくなってたりする。
そういうことはないようで安心だ。
大丈夫とは思っていたけど一応確認しておかないとな。
「退路を確保。安全確認ヨシ!」
指さし確認。安全第一でいきたい。
先に進む前に、ここでいったん休憩をとっておく。
持ち込んでおいたプロテインバーとスポーツドリンクで栄養補給もばっちりだ。
装備品を確認する。
ホームセンターで買ってきた品だ。
ぜんぶを持ってくるには荷物がかさばり過ぎたので、一部を持ってきている。
アイテムボックスとか次元収納みたいなスキルがあればどんなに楽なことか。
これまでは金属バットだけで進んで来たので、ここで色々試したい。
持ってきた武器はナタと釘、丸ノコギリの刃だ。今回、鎌は置いてきた。
腰袋に入れていて、すぐに取り出せる。ナタは鞘に収まった状態で腰袋といっしょに吊っている。
寝袋などは持ち込んでいない。日帰り前提だ。
最初に試す武器は釘である。
これはもちろん【投擲】スキルで投げて使う。
忍者と言えば手裏剣だが、実際の忍者は十字や星形の手裏剣はあまり用いないらしい。
流派によって違ったりもするらしいが、まあ詳細はどうでもいい。
俺は実在の忍者ではなくてNINJAなのである。
植物の上を毎日飛び越えたりして忍術を身に着けているわけではない。
走り込みや修行がなくてもいい。
スキルの補正でお手軽に身に着けるのだ。
そして現代NINJAである俺はホームセンターで武器を購入し、動画サイトで使い方を学ぶのである。
棒手裏剣は10センチから20センチ程度の棒状の刃物だ。
手の裏に隠して投げる。手の裏で持ち運べるから手裏剣と呼ぶ。
ホームセンターには手裏剣なんて売っているわけもない。
だから代用品としての釘を選んだ。形やサイズは棒手裏剣として使えそうだ。
ちなみに通販で棒手裏剣が売っていたけど、結構お高いのでそっとページを閉じた。
用意したのは五寸釘だ。
神社で藁人形を打つのに使われるアレだ。
ちなみに五寸は15センチだ。
五寸釘を20本、少し短い三寸釘を30本用意している。
一本当たり数十円で、お安い。
五寸釘の重さは20グラム少々だ。単三電池くらいだろうか。
投げてぶち当てれば十分な威力が見込めるはずだ。
【投擲】スキルさんが仕事をしてくれれば、必殺の武器となるはずだ!
たのむぜ!
バットを左手に持ち、右手に五寸釘を構える。
絵面としては意味不明になってしまうが、大真面目である。
バットが忍者感を薄めてしまうんだよなあ……。
使わないときにバットが邪魔になってしまう。手がふさがってしまうのは問題だ。
背中に担ぐケースでも用意するか。
さて、装備の再確認は済んだ。問題ない。
階段の部屋から伸びる通路を進む。
うまいことに、前方からゴブリンが向かってくる。二匹だ。
一階では単独行動が多かったゴブリンが群れている。難易度も倍以上だ。
とはいえ、今は的が多いほうが助かる。
こちらは隠密状態でいるので、ただの動く的が二体いるだけだ。
5メートル程度に近づいてくるまで、身をひそめて待つ。
せっかくの投擲物なのに距離が近いと思うが、これで十分な間合いなのだ。
相手の武器は届かないのだから、一方的に攻撃できる。
まずはフォームを意識して丁寧に投げる。
掌に五寸釘を持つ。
四本の指をまっすぐにそろえて、掌の中心あたりに釘の背を乗せる。
人差し指と中指に添わせるようにして、軽く親指で押さえる。
尖った先端が指の先からはみ出しているような状態になる。
このまま、手を頭の上にあげ、チョップのように振り下ろす。
投げナイフのように回転させず、先端から飛び出すように投げ打つ。
「ウギッ!」
手を離れた棒手裏剣は放物線を描いて飛び、ゴブリンへと突き刺さる。
狙ったのは胸のあたりだが、肩のあたりに命中。刺さりはしたが、少し威力は甘い。
まっすぐ飛ばすべきところが、少し回転してしまったらしい。
手をはなすタイミングが早すぎたり遅すぎたりするとダメだ。
フォームを修正しながら二投目。
肩を押さえてわめき散らしているゴブリンへ、先ほどよりも鋭く棒手裏剣が飛ぶ。
飛び出した勢いのまま、胸に突き立つ。
そのまま、塵に還るゴブリン。
二匹目のゴブリンがこちらへ気づいて叫び声をあげる。
さらにもう一投。残るゴブリンの首元へ命中。
これは一撃で絶命する。
この攻撃には【暗殺】は乗っていない。
しっかり急所に当てさえすれば【投擲】だけでも必殺の威力だ。
「うおお、手裏剣強い! 投擲すごい!」
威力も十分。しかも楽で、安全だ。
距離を保ったまま、安全圏から気づかれることなく始末する。
当然、【隠密】と【致命の一撃】【暗殺】が生きてくる。
【投擲】によって狙いも正確。威力も向上している。
技術的にも、聞きかじった程度の手裏剣打ちの知識だけで、数回の練習で実用の域に達してしまう。
スキルひとつで達人技が身についてしまう。ズルい。
創作の世界にあるような一刀で山を消し飛ばすような派手さはないが、現実的に戦う力としては充分に強い。
「いや、ファンタジーってすげえわ……」
【投擲】は強スキルだ。間違いない。
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