ドロップアイテムの違い……価値観の違い!?
「あ、宝箱が出ましたよ」
オトナシさんが指さす先、倒したスライムの居たあたりに、小さな宝箱が落ちている。
手の上に乗るような小さな小箱だ。
モンスターから宝箱が落ちるのか!
「へえっ! 俺のダンジョンだとモンスターから宝箱は落ちないんですよ。いろいろ違うな!」
「えっ。じゃあ、アイテムは手に入らないんですか?」
「魔石が落ちるんです。それをアイテムと引き換える感じですね」
モノリスや魔石について簡単に説明する。
「へえー。自動販売機みたいで便利ですね!」
「宝箱からすぐにアイテムが出たほうが便利な気もしますけど……」
「宝箱の中身は色々です。ハズレもあるんですよ-」
このダンジョンの宝箱の中身はランダムということか。
ハズレアイテムが入ってる場合もあると。
俺のダンジョンのモノリスは、魔石さえあれば好きなアイテムを引き換えられる。
当たり外れはない。確実で安定している。
ダンジョンの個性も違うんだな。
分身に宝箱を拾わせる。
小さな宝箱は、持ち運べるようだ。簡単に持ち上げられるほど軽い。
持っただけで発動する罠もない。
「オトナシさん。この宝箱って罠が仕掛けられている場合ありますか?」
「えっ? 罠? ないですよ?」
驚いたようなリアクションを返すオトナシさん。
宝箱に罠がある可能性を考えたこともなかったのかな。
宝箱はご褒美なんだから、普通に考えたら罠なんてないよね。
宝箱を見たら罠を警戒するというのは、ゲーム脳の考え方なのかもしれない。
一応、宝箱を開けていいかを尋ねてみる。
「じゃこれ、開けていいですか?」
「どうぞどうぞ! というか、別に私のモノじゃないですから、ことわらなくてもいいですよ!」
そりゃそうか。
別にダンジョンの中にあるものすべてが、持ち主のモノってこともない。
彼女はあまり欲はないようだ。
まあ、スライムのドロップアイテムなんかにこだわる人も少ないかもしれないが。
ちょっとした素振りや行動に、人の性根は現れる。
これまでずっと見てきたオトナシさんは素直で、優しい。
ただ再確認しただけだけど、やっぱりいい子だなあ。
ゲームや小説じゃ、報酬の分配でもめたりすることもある。
だけど、俺達の場合はそういう心配はなさそうだ。
俺は金に執着はない。がめついほうじゃない。
最小限暮らせるだけのお金があれば、それ以上は要らない。
それに、ダンジョン内のアイテムは売れない。持ち出せない。
ある意味じゃ、もめ事の種はない。
貴重なアイテムとか魔石が手に入ったとしても……揉めたりしないだろう。
大事なものは、そんなものじゃないんだ。
大事なものが何か、俺は見失ったりしない。
彼女の隣に居ること。それだけだ。
普通の毎日、かわらない毎日が大事なんだ。
「……どうしたんですか? ほんとに罠なんてありませんよ? あ、私が開けましょうか?」
「いや、ちょっと考えごとを。自分で開けられます」
俺は思わず、笑顔になる。
いちいち、彼女は俺を気遣ってくれる。
なんの含みもない。疑われることもない。
「……? さっきから様子が変ですよクロウさん。なんで笑ってるんです?」
「いや、オトナシさんとなら、揉めないだろうなって思って」
黙ってニヤニヤしてしまっていたか。
気持ち悪い感じにならないようにしないとな。
オトナシさんはなぜか、赤くなってもじもじしている。
「私を……揉めない……? も、揉めないこともないですが……急に!?」
「いや、ちょっと話が飛躍しましたね。漫画なんかだと、ダンジョンのアイテムをめぐって揉め事が起こったりするんですよ」
ん。なんか引っかかる感じ。
「ああ、そういう揉める……ですか。てっきり……」
「ん? ほかにどう揉めると……」
……揉む? オトナシさんを?
「いえっ。なんでもないです……か、勘違いでした」
……あれ?
俺がエロいこと言ったと思われてた?
疑われてたっ!?
変な方向に疑われてた!
さすがに俺もそこまで考えなかったわ!
ていうか、俺エッチ常習犯みたいな扱いなの!?
しかも、ダメじゃないっぽい!?
「……揉めますか?」
「もめませんっ」
ダメらしい……。
「気を取り直して……宝箱を開けてみましょう」
俺は一応警戒して、分身に宝箱を開けさせる。
宝箱の中身は、魔石だった。
俺のダンジョンと見た目は変わらない。
同じように使えるはずだ。
やったぜ! これで色々作ったりできる――
「――あー、魔石かあ。残念、ハズレですねー!」
「ハズレっ!? 魔石がハズレなんですか?」
魔石が外れとはいかに!
俺のダンジョンは魔石しか出ないんですが……!?
「スライムを倒すとゼリーが出るんですよ! おいしくて、それにお肌にもいいんです!」
「……おいしい? ……食べるんですか?」
お肌にいいって……なにそれ!?
魔石よりゼリーのほうが当たりなの!?
俺はまだ、モンスターを食べたことはない。
ゴブリンとかコウモリを食べる気はしないしな。
スライムなら……食えるか?
うーん。モンスター食材か。
そんなにおいしいんだろうか……。
「はい! とくに緑のスライムがオススメです! 今のは色が薄かったので、味も薄くなっちゃいますね」
「へえ……緑のスライムが美味しいんだ……」
美味しいかどうかでスライムを見てるのか、オトナシさん。
俺、そういう目でモンスターを見たことないわ。
「あれっ? 興味ないですかー? ホントにおいしいんですよ!?」
「そうですかー」
「もう! 信じてませんね? じゃあ、美味しいスライムのいるところに行きましょう!」
なにそれ!?
行きつけのラーメン屋みたいな感覚で美味しいスライムが出てくるのか?
「ちょっと、気になってきましたね。ぜひその、美味しいスライムを食べたくなってきました」
「でしょ? さあ、こっちですよ!」
なぜか、オトナシさんのダンジョン巡りを続ける俺達。
平和っていいな。