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MVPはアノ人で!

 ダンジョンの外では、スキルが弱くなる。

 中では、本来の力が発揮される。


「弱体化……つまり外ではスキルレベルが下がるのか。ありそうだ……」


 俺が外でほとんどのスキルを使えないのは、レベルが低いせいだろう。


 広く浅く取ってる方針があだとなっているんだな。

 やっぱり特化したスキルが必要だ。あとで考えてみよう。


「そうなんです。だから、ストーカーさんを追いかけていく前に【火魔法】を3に上げました。外に出て魔法が使えるかもしれないと思って。……使うチャンスはなかったんですけどね」


 スキルレベルを上げてみる。

 それは俺が試すまでもなく、オトナシさんは既に試しているらしい。


 オトナシさんはなんとなく、ぽやんとしているところがある。

 だけど、頭の回転は速い。

 俺とは違った考え方で正解に行きついてくれる。すごく頼もしい。


 一人で色々と頭を悩ませていたこれまでが、なんだか馬鹿らしくなってくるほどだ。

 二人で相談して力を合わせるだけで、なんとも簡単に解決してしまう。


 俺は難しく、いろいろと考えてしまう。

 彼女は素直に、シンプルに考える。


 俺は常識的に、理詰めで考える。

 彼女は感覚で、イメージで答えを導き出す。


 お互いの足りないところを補い合って、前に進んでいける。



「……いや、魔法を使うチャンスがなくてよかったかもしれません」

「えっ? なんでですか?」


 ストーカーは禁則事項に触れて自滅した。

 スキルを使ったことで――それが知られたことで、世界から排除されてしまった。


「もし魔法を使っていたら、オトナシさんが例の黒いドロドロに連れ去られてしまった可能性があります。魔法を外で試すのは、ちょっと控えたほうがいいですね」


「あ。やだ! あれにつかまっちゃうの絶対イヤですー!」


 ストーカーの最後を思い出したのか、オトナシさんの顔が曇る。


「たぶんあれは、パソコンで言うところのバグを除去するセキュリティシステムなんじゃないかな、と思うんです」

「バグ……魔法やスキルは異物だから……。それを使ったり知られたりすると追い出されちゃうということ?」


 おそらく、使うだけなら許されている。あるいは、見逃されている。


「そうですね。あるいはファイアウォールとか……フィルター?」

「う、パソコンの話ですか? ニガテです……」


 なんとかかみ砕いて説明してみる。

 説明しながら自分でも整理できるので、より理解が深まる感じがするな。


「ファイアウォールとかフィルターは……えーと、許可しないものは通れないようにする仕組みと考えてください。魔石とかダンジョン内のアイテムは現実世界に持ち込めないように設定されているんでしょう」

「……はい」


「フィルターを通ってダンジョンの外側にあるものは異物、ウィルスのような扱いになる。それがセキュリティシステムにバレると、排除されてしまう……」

「……なるほどー」


 これは、さっきも考えた話だ。

 何者かが世界全体を監視していて、禁則事項を破ったものを追放する。


 オトナシさんは神と考えていた。

 俺は、それがもっとシステム的なものではないかと考える。


 ――セキュリティシステム。

 ――アンチウィルスソフト。

 ――免疫機能。


 そういう、自動的に作動するしくみ。

 なんらかのルールに則って動くシステム。



「それじゃあ、シモダさんの様子がおかしくなったのは? スキルのことを知ってしまったから、ぼんやりした感じになっちゃったんですよね?」


「うーん、そこは俺にもちょっとわからない。情報を漏洩させたストーカーは罰せられる。これはわかる。じゃあ情報を受け取ってしまったシモダさんはどうなる? 黒い物体に排除されなかった。あのとき、あれだけのカオスな状況を目にしながら、何事もなかったように帰っていったということは……」


 これはもう、ほとんどわかっている。

 俺がリアダン(ブログ)の情報を忘れていたように、記憶を消されたんだ。


 俺が口にする前に、オトナシさんが先を引きとって続ける。


「クロウさんはブログで読んだ記憶を消されたんですよね? シモダさんも記憶を消されて……つじつまが合うように記憶が変えられちゃった?」


 そう。ただ消されただけじゃない。

 シモダさんがその場に留まっていては、また、オトナシさんの家で起きている惨状を目にしてしまい、再び禁則事項に触れることになる。


 だから「晩飯を食べる」ために家に引き返すように記憶がすり替わった。

 むむ……消すだけじゃないとなると、よりヤバさが増すな。


「たぶん、そういうことなんでしょうね。情報を知ってしまった人を全員をバグとして排除してしまうのは大変だ。だから、汚染された部分だけを取り除く……みたいな。ウィルスに感染した部分だけを隔離して、ファイルは助かるみたいな感じ?」

「だとすると、隔離されたっていうシモダさんは大丈夫なんでしょうか……」


 オトナシさんは心配そうな表情を浮かべる。

 このセキュリティシステムのようなものが、どの程度まで記憶を奪っていったのか。

 どの程度、それが影響するのか。


 しかし……なぜこの仕組みはシモダさんを排除しないんだろう。

 ああ、もちろん排除されなくて良かったのだが!


 コストがかかるんだろうか。

 黒いナニカで「追放」するのは、エネルギーがかかるんだろうか。


 記憶を消したり操作したりするような、複雑な書き換えもコストがかかりそうに思えるんだけどな。

 俺のように、何かのはずみで思い出すリスクもある。


 ウィルス対策ソフトの仕組みで考えるなら、感染したファイルをなるべく救おうとしているようにも感じられる。

 ただ削除するのではなく、復元する。


 ……なんで、そんなことをする?


 考えるときりがない。答えの出ない問題だ。


「シモダさんの記憶がどの程度「隔離」されたかは心配ですね。うーん。後でさりげなく様子をみてみよう。なにしろシモダさんは俺たちの命の恩人だし!」

「今回のエムブイピー(最優秀選手)は、シモダさんですね!」


 そうだ。シモダさんには感謝してもし足りない。

 あのときシモダさんが来てくれなかったらオトナシさんはストーカーに攫われていただろう。

 俺は失血死してデッドエンドだ。


 彼が来なかった場合は、アパートに戻ったオトナシさんが戦うことになったかもしれない。

 もしオトナシさんの魔法が発動してストーカーを撃退できた場合……これもろくな結果にならないと思う。

 魔法でストーカーをやっつけたとして、それがバレないとは考えにくい。

 オトナシさんが世界から排除されてしまったなら、結果は最悪だ。


 うーん。考えてみれば、結構ヤバい状態だったんだな。

 ギリギリのところで助かった。


 俺たちは、何も知らない、ダンジョンも持たない隣人に救われたんだ!

没タイトルシリーズ

スキルのダンジョン外使用の条件と、今回のMVP

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