魔法女子大生とマスコット!? カワイイ……かな?
外出先から投稿ポチったので、ちょっと遅れました。
虚空に視線を向けて、頷いたり話しかけたりしているオトナシさん。
もちろん、そこには誰もいない。何も見えない。
おそるおそる、俺は尋ねる。
「――えっと、オトナシさん? そこに何か見えているんですか?」
「あっ。そうでした。紹介がまだでしたね。ここにいるのがシステムさんです!」
……ここにいるって。居ませんが。
なにもない場所を指さすオトナシさん。
あたりまえのように笑っているが、俺には何も見えない。
普通に笑ってるのが、怖いんですけど……。
「……いや、見えませんが。……オトナシさんにだけ見えているんですかね?」
「えっ? クロウさんには見えないんですか? ――あ、そうなんだね。見えるようにするにはポイントが必要? はい、使ってください」
虚空に向かって話しかけるオトナシさんはなかなかイっちゃっている。
スキルの存在を知っている俺でも、結構な違和感を覚える。
オトナシさんがポイント――多分、スキルポイントだろう――の使用を許可する。
すると――空中に何かが浮かび上がってくる。
彼女の視線の先に、俺には見えていなかった何かが現れる。
その姿は――タコ。
足が四本。小さな目と口がついている。頭にはハチマキが巻かれている。
「……タコウインナー?」
「はい。これがシステムさんです。かわいいでしょ?」
オトナシさんはタコウインナーの下に手を添えて紹介する。
宙にふよふよ浮いていて、サイズは手の上に乗るくらい。
……そうか。サポートシステムとはタコウィンナーなのか。
ぜんぜんわからん!
「……ソウデスネ。カワイイネ。でも、なんでタコです?」
「えっ。かわいいから? ……ダメですか?」
「いや、ダメではないけども」
ちょっとこの辺の感覚、俺にはよくわからん。
まあ、カワイイといえばカワイイよ、うん。
<――リン。不評のようです。アバターを変更しますか?>
「おおっ。しゃべるんだ!」
声は、俺にも聞こえた。
電子的な合成音声のようで、中性的な声質。
「しゃべりますよ! 質問すると答えてくれます。あ、アバターはそのままで!」
「そうなんだ? じゃあ、システムさん? あなたはどういう存在ですか?」
<……>
タコウインナーは俺の問いかけに反応を示さない。
ええ?
……質問すると答えてくれるんじゃないの?
手を伸ばしても、すり抜けて触ることはできない。
目の前で手を振って、声をかける。
「あれ……システムさーん? こんにちは」
<こんにちは。クロウ ゼンジ>
「あれ、無視されるわけじゃないのか。聞き方がおかしいのか? えー、あなたは何者ですか?」
<……>
沈黙。やはり答えてくれない。
……何か気まずいんですけど。
オトナシさんが小首をかしげて、タコウインナーに視線を向ける。
「あれっ? システムさん。いつもは返事してくれるのにどうして?」
<サポートシステムはリンのスキルポイントにより稼働しています。他者はサポート対象外です>
「ああ、なるほど……。そのタコはオトナシさん専用なんだ。だから俺が質問しても答えてくれないと」
「えっ。そうなんだ。じゃあ、私が質問しないといけないのね。じゃあ――システムさんは何者ですか?」
<私はリンの専属サポートシステムです。主な機能は質問への回答、スキル使用の補助となります>
「ああ、オトナシさんが聞けば答えてくれるんだな。じゃあ、オトナシさん。ダンジョンとはなんですか、って聞いてもらえますか?」
「システムさん。ダンジョンとはなんですか?」
俺の質問を、オトナシさんが繰り返す形で質問をしていく。
伝言ゲームだ。
狙い通り、タコウインナーはちゃんと応答する。
<ダンジョンは敵性存在であるモンスターの存在する異空間です。外部とは異なる法則が適用されます。ステータス、スキル、レベルアップシステムが適用されます>
なにこれ、便利すぎる!
タコウインナーの回答には、かなりの情報が含まれている。
これまであいまいだった、手探りで知るしかなかったことが明確にわかった。
謎の多いダンジョンのことを、聞き放題というのは大きい。
気になること、聞きたいことは多い。
オトナシさんを経由する形で、質問を続ける。
「外部とは、外のこと?」
<不明です。または、権限が不足しています>
「ダンジョンの外部でダンジョンやスキルの話をするのはいけないことですか?」
<不明です。または、権限が不足しています>
「黒いドロドロしたものはなんですか?」
<質問の内容があいまいです>
「ダンジョンの入り口に似た、黒い物質はなんですか?」
<不明です。または、権限が不足しています>
「スキルのレベルが制限される状況を教えてください」
<妨害を行うスキルの影響、ダンジョン内のトラップ効果などが該当します>
「スキルの妨害を行うスキルはどのようなものがありますか?」
<鑑定妨害、偽装、隠密などがあります>
「ダンジョン内のアイテムを外部に持ち出せないのはなぜ?」
<規格が異なる。または持ち込み、持ち出し制限されている場合などが該当します>
サポートシステムが返した結果に、俺は興奮する。
「これだっ! 規格……フォーマットが異なる……。つまり、現実世界とこのダンジョンの世界は互換性がないんだ。現実世界のスマートフォンとかを持ち込んでも動かないのもこのあたりの規格の違い……互換性が影響しているのかもしれない」
仮説をつぶやく俺に、オトナシさんが質問する。
「えーと、どういうことです? フォーマットって?」
自分でもまだ整理できてないことなので、考えながら説明していく。
「えーと、俺たちの住んでる地球の世界と、ダンジョンという異空間がある。それぞれの世界には違ったルールが存在している。ダンジョンにはステータスやスキルがある。現実世界にはそれらはないのか、制限がある。逆に現実世界には機械やスマートフォンがある。けどそれはダンジョン内では使えない。持ち込むことはできているけど、動作しないって感じで動きが違うのは気になるけど……」
俺の言ったことを少し考えたオトナシさんが続ける。
「あー、ちょっとわかってきました。日本と海外ではコンセントの電圧が違うみたいな感じですかね?」
関東と関西でもちょっと違う。周波数がわずかに違う。
日本と海外では差込口の形が違う場合があるし、電圧が違う。
「そうかも。あるいは、表計算ソフトが入っていないパソコンでファイルを開こうとするとか。対応するソフトがないみたいな感じ」
「パソコン……あんまり詳しくないんですよね、私。なんとなくはわかりますけど……」
「そうですか……。パソコンでイメージするとわかりやすい気がするんですが。たとえば実行ファイルがあるけどライブラリがないとか。動画があるけどコーデックがないとか」
「ちょっと何言ってるかわかりませんけど……なんとなくわかりました」
オトナシさんはパソコンには明るくないようだな。
この仮説はいい線いっているんじゃないだろうか。
とりあえずの筋は通る。
ストーカーが現実世界でスキルを使っていたことから、スキルシステムは互換性がある。
完全に同じではないから、レベルダウンした感じになるのかもしれない。
あるいは別の制限があるのかもしれないが……。
「うーん。たぶん、スキルは現実世界でも何かの条件を満たせば使えるはずなんだけど……。この情報だけじゃわからないなあ」
外で使えたスキルの実例で考えてみる。
ストーカーの場合は【隠密】と防御系の何か。
ナイフの切断力が上がるようなスキル。
俺の場合は【分身の術】。
いつもの分身と違って実体のない分身だった。スキルレベル1の分身に近い。
【フルスイング】などは発動できなかった。
俺のスキルのなかで【分身の術】は、他とどう違う……?
えーと……。
悩み始めた俺をよそに、オトナシさんがパッと表情を輝かせる。
「あっ、それ私わかりますっ! スキルのレベルを上げればいいはずです!」
「えっ! マジですか!? ――ってか、なんで知ってるんです?」
それもチュートリアル――システムさん経由で知ったのか?
さっきの感じだと、ダンジョンの外はサポートシステムの管轄外のはず。
明確に答えてくれそうな内容ではないんだけど。
「ああ、それはですね! ストーカーさんがこのダンジョンに入ってきた時、外よりずっと強かったんです。パッと消えちゃって。ぜんぜん、どこに居るかもわからない感じで!」
「ダンジョンの中では、スキルは強まる? いや、外では弱まるというのが正しいか」
「そうですね。ダンジョンの外では、スキルが弱くなっちゃうんです。ストーカーさんも、そんなことを言ってました」
俺がアパートで背中を刺されて倒れている間の出来事か。
ダンジョンに逃れたオトナシさんと、ストーカーのやりとり。
こっち側ではそんなことがあったのか。
というか、そんな強化された状態の奴を一人で倒したのか……。
オトナシさんすげーな!
いったい……どれだけ強いんだ?
没タイトルシリーズ!
■タコ問答!?
■サポートシステム一問一答!