禁則事項と失われた記憶……思い出した大事なこと!?
ダンジョンやスキルのことを口外すると禁則事項に抵触して世界から追放されてしまう。
他人に知られてはいけない。
「外では話題に気を付けましょう。もし必要があるときは、ゲームの設定の話をするテイで……ん?」
「どうしたんです? クロウさん」
ゲーム……? 設定……?
思い当たることがある。
いや、思い出したというべきか!
「……なんでこんな大事なことを忘れてたんだ!」
架空のゲームのプレイ日記を装った、ダンジョンの攻略ブログ。
――リアルダンジョン攻略記。
――管理人のリヒトさん。
すっかり忘れていた!
俺にとっては大事な情報源で、忘れるはずもないのに。
思い返せばブログを読んでいるとき、妙な疲れや頭痛を感じていた。
思ったよりも長い時間が経っていたこともあった。
……たぶん俺はブログを長い時間読んでいたんだ。
だけど、その記憶が消されてしまった。
だから、時間が飛んだように感じたんだ。
ダンジョンの中で疑問ができたとき、俺は「リアル・ダンジョン攻略記」で確認しようとしていた。
だけど……いざ外に出ると、調べようと思ったことすら忘れていたんだ。
そのうち、ダンジョンの中ですら思い出さなくなっていった。
だから、疑問も感じなかった。
忘れたことを忘れたんだ。
……ちょっと、ヤバいなコレは!
記憶が……いじられているのか!?
……おそらく俺はリアダンから「禁則事項」に関わる情報を得ていたことになる。
情報を漏らした場合は「追放」される。
知ってしまった場合は……「記憶を消される」んだろうか……?
俺はもともとダンジョンやスキルについて知っている。
それなら、禁則事項を破ったとは見なされないんじゃないのか?
――なら、知らないことを知ることが問題なのか?
新しい情報……俺が知らないスキルやダンジョンの情報。
推測していることや、近い情報を知っている場合は許される。
全く知らないことを読み取ろうとしたとき、記憶を消される。
そういうことだろうか。
……ということは、リヒトさんは大丈夫なのか?
消されたりしないのか?
いや、おそらく大丈夫。大丈夫なはずだ!
管理人のリヒトさんは、ダンジョン持ちだ。
そして、禁則事項について承知した上で書いている。
わざわざ「ゲームの話」「設定」という抜け道を使っている。
遠回りして、ダンジョンの話題を伝えているんだ。
存在しないゲームを攻略するテイで作ったホームページであると書かれていた。
これは、禁則事項に触れないための保険なのだろう。
そうして、俺のようにダンジョンを持っている人間に向けて情報共有をしているんだ。
そうだとすれば……リヒトさんは正しい情報を把握している。
自分が消されない保険をしっかりとかけて、身を守っているはずだ。
だから大丈夫。彼は無事なはずだ。
そこまでの危険を冒して、なんのために情報を共有しているのかはわからないが……。
悪意があるとは思えない。彼に接触する方法を考えるのもいいかもしれない。
「……大事なこと?」
突然黙り込んでしまった俺に、オトナシさんが遠慮がちに声をかけてくる。
ああ、ちょっと考え込み過ぎてしまった。
衝撃がデカくて……。
「ああ、それはですね……」
俺は「リアル・ダンジョン攻略記」のことを説明する。
それをいままで、忘れていたことも。
記憶を消された可能性も。
「それは……怖いですね……。でも、そのブログは見てみたい気も……」
「俺も調べたいこと……リヒトさんに聞いてみたいことが……。――あ、外に出るとまた忘れるのか……?」
外に出ると、俺の記憶は「禁則事項」に抵触して「消される」……。
俺自身が知った情報でなく、知らされた情報、教えられた情報だからだ。
ということは、思い出すことはできないんじゃないか……?
ダンジョンの中でしか覚えていられない。
夢から覚めたら内容を忘れてしまうように、外に出ると俺の記憶から消えてしまう。
今は「中」だから思い出せたのかもしれない。
ダンジョンのアイテムが消える話をしていた時、リヒトさんは認識の話をしていた。
――強く「認識」すれば、消えずに保つことができます。
――覚えておいてください!
これは、記憶にも言えることなのかもしれない。
そういう意味で、強調するように何度も言っていたのか。
つまり……忘れないように強く認識して……。
「――外に出ると忘れちゃうんですか? それならメモを取るとか?」
オトナシさんはなんでもないことのように、さらりと答えを言う。
ああ、そうだ。俺は難しく考えすぎていたんだ。
「それは名案ですね、オトナシさん! 自分で自分にメッセージを残して、外で見る。そうすれば、忘れても思い出せる……」
「私も一緒に見てもいいですか?」
「そりゃもちろん! ぜひ、感想を聞きたいですね。あ、メモは二人分用意していきましょう。一人が忘れても、二人なら思い出せるかもしれない」
「それは名案ですね! そうしましょう!」
彼女はふと、心配そうな表情を浮かべる。
「忘れると言えば――シモダさんも、様子がおかしかったですよね? ぼんやりした感じになっちゃって……。ごはん作ろうとか言って、帰っちゃいましたよね? あれも、同じなんでしょうか?」
そうだ。シモダさんももしかして――
「彼も、記憶を消されたのか? ……そうなら、あの様子も納得できる」
普通なら、血だらけの俺が倒れていたんだから、警察なり救急車を呼ぶべきところだ。
シモダさんはああ見えて、面倒見はいい。怪我人を見捨てたりしない。
それなのに、心ここにあらずといった様子で、ふらっと帰ってしまった。
まるでなにも見なかったかのように。
見たことを忘れてしまったかのように。
「スキルのことを知ってしまったから……その記憶を消された……のかなあ?」
禁則事項――ダンジョンのことを知られてはいけない。
知ってしまった、知らされてしまった場合――記憶を消される?
これは、セットで起こるのかもしれない。
そうすることで、秘密の漏洩が防がれる。
まるで、防衛装置だ。検閲みたいだ。
知られないように、守っている。禁止しているんだ。
では、禁止しているのは何者か?
どうしてそれを隠そうと、消そうとするのか?
誰にとって都合が悪い?
この世界から追放するほどに問題視する、何者か。
それだけの力を持った……何か。
発言を監視し、それを信じたかどうか。
心のうちまで読み取って、判定ができるナニカ。
そんな力……そんなバカげた力……。
このアパートでの出来事を監視している。
もしかすれば世界中で、会話を、心を把握している。
それはどれだけ強力な力があればできるんだ?
そうして、世界の平和が保たれている。
ダンジョンやスキルの情報は出回らない。
まるで、ダンジョンなんて存在しないように世界はまわっている。
これまで通り、この世界は変化しない。
「これは……思ったよりヤバいかもしれないぞ……」
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