成長と負傷と……!
<熟練度が一定値に達しました。スキルレベルが上がりました!>
<【受け身】 2→3>
おおっ!
ついに【受け身】が育ったぞ!
俺はあまり被弾しないから、育ちにくいスキルなんだ。
こういう防御系のスキルは、いざというときに助けてくれる。
持っててよかった【受け身】さん。
リンが小走りに戻ってくる。
ん?
少し服が煤けているな。
派手に魔法を使ったからだろう。
かなりの数のゴブリンを引きつけて、倒してくれた。
さすがリン。
安心して任せられる。
だけど、離れていると心配にもなる。
火加減を誤って、火傷したりしてないだろうな。
「リン。ケガはないか?」
「私は大丈夫です。
それよりっ!
ゼンジさんのお怪我はどうですか!?」
リンは目を潤ませて心配そうな表情を浮かべている。
俺は自分の胸元をさする。
棍棒のように振り回された女性の体と接触したのだ。
戦闘の興奮が冷めてきたので鈍く痛んでいる。
打ち身程度。
しかし大したことはないだろう。
これくらいの傷は、まれに受けている。
「ちょっと痛むが、骨は折れていないし大丈夫だろう」
「ちゃんと治療したほうが……」
その言葉で大切なことを思い出した。
「ああ、そうだった。
治療しなきゃな!
分身、戻れ!」
あえて命令を口に出し、分身を呼び戻す。
部屋の隅に避難していた分身が全裸の女性を抱えてやってくる。
そして慎重に床に敷かれた毛皮の上に女性を横たえる。
俺は軽く肩に触れながら声をかける。
「大丈夫ですか?
痛むところはありますか?」
女性はぐったりしているものの、まだ息がある。
全身傷だらけで、顔は腫れあがって酷い有様だ。
「……」
しかし女性は口を開かない。
目はぼんやりと天井に向けられている。
視線は定まらず、生気がない。
「意識が朦朧としているのか。
聞こえたら返事を!」
「……」
やはり返答はない。
ううむ。
これはかなりの重症と言える。
治療が必要なのは俺よりも彼女だ。
俺は念のため他にケガ人がいないか確認する。
「他の皆はどうだ?
ひどいケガをしていないか?
トウコはどうだ?」
「あたしは平気っス!」
「つ、妻の足が切れていて……!
血が……!」
男が妻の足を指し示す。
足が傷だらけだ。
彼女が意外にしっかりした声で言う。
「ここまで引きずられて……。
でも、私は大丈夫ですから……」
靴は履いていない。
脱げてしまったんだろう。
擦り傷。裂傷。
他の部分にもいくつかのアザが見て取れる。
ゴブリンに連れ込まれたときについたケガらしい。
ずいぶん雑に運ばれたようだな。
とりあえず、命に差し障るようなケガではないだろう。
「トウコ。彼女の応急処置を頼む!」
トウコが軽い調子で敬礼する。
「りょっ!
スーパードクタートウコちゃん出動っス!」
せいぜいナースだと思うが。
今回は【応急処置】が大活躍しているな。
さてと。
俺は収納からポーション手拭いを取り出そうと意識を集中する。
そのとき、リンが俺をじっと見ていることに気づいた。
表情がない。
ん……?
「リン。どうした?」
「……いえ。
ちょっと考え事をしていました」
リンに表情が戻る。
ふむ……。
なんだったんだ?
「なにか気づいたことがあるなら、あとで教えてくれ。
今は治療が先だ」
「はい。そうですね」
リンが笑顔でうなずく。
それはいつも通りの笑顔に見えた。
俺は収納に意識を戻す。
女性を救わねば!




