VSボス戦! 巣の主はホブゴブリンで! その3
ホブゴブリンが憎々しげに俺を睨んでいる。
そして、きょろきょろと何かを探している。
武器を探しているのだ。
壁際に太い棍棒が立てかけられているのが見えた。
だが、ホブゴブリンは見つけられずにいる。
自分の武器を手放すどころか、見失うなんて、あきれるね。
ホブゴブリンはあきらめたように息を吐く。
そして、手近なもので済ませる気になったようだ。
近くにいたゴブリンだ。
「ギ!? アギャー!?」
首根っこを掴まれたゴブリンが悲鳴を上げる。
「フウッ!」
ホブゴブリンの腕に筋肉が盛り上がる。
まるでボールのように、軽々とぶん投げてきた!
大質量の投擲攻撃だ!
顔をひきつらせたゴブリンが目前に迫る。
「うおおっ!?」
俺はからくも回避。
大きく避けたせいでバランスが崩れる。
背後でゴブリンが床に叩き付けられる音。
だが奴の末路を確認する余裕はない。
ホブゴブリンが首をめぐらせ、次のゴブリンに手を伸ばす。
逃げようとしたゴブリンだったが、あっけなく捕まってしまった。
「ホゴァァ!」
ホブゴブリンが投球態勢に入る。
マズい!
この体勢で避けられるか……!?
【入れ替えの術】は……。
ダメだ!
対象にできる相手がいない。
皆、動いている!
「フゥッ!」
ホブゴブリンがゴブリンを投げ飛ばす。
とっさに目の前に分身を作って防御する。
分身とゴブリンが衝突し、あっさりと霧散する。
それでもわずかにコースが逸れた。
なんとか伏せて身をかわすことができた。
あ、あぶねえ!
「ウゴォォ!」
巨体を揺すり、ホブゴブリンが突っ込んでくる!
俺はバネのように飛び起き、体勢を整える。
ホブゴブリンが太い両の腕を伸ばし、俺に掴みかからんといている。
その膂力は片手でゴブリンを投げ飛ばすほどの怪力だ。
捕まれば、俺の骨などひとたまりもなく砕けてしまう。
まあ、捕まらないんだけどね!
「ファストスラッシュ!」
腕の下をかいくぐり、脇腹を斬りつける。
だが浅い。防御膜に守られたようだ。
なら何度でも斬りつければいい!
「ていっ!」
勢い余って通り過ぎていくホブゴブリンの背を斬りつける。
振り向こうとするホブゴブリンに対して、俺は回り込んで背中を斬りつけていく。
遅すぎるんだよ!
ずっと俺のターン、ってやつだ!
「グァ! キサマ!」
そう言うとホブゴブリンは振り向くのをやめて前に跳び、そして振り向いた。
これではさすがに周り込めない。
「ほう。お前、人間だったころの知能が残っているのか?」
「コロス! キサマ! コロス!」
ホブゴブリンの口から、さらに人間の言葉が漏れた。
だが、会話は成立しない。
「やれやれ……。
ちょっとだけ知能が残っているのが逆に哀れなんだよな」
こいつはこのダンジョンの持ち主……その成れの果てだろう。
こうなっては、もう人間には戻れない。
同情してもしかたない。
容赦なく終わらせてやる!
相手もまた同じだ。
殺意でぎらつく血走った目が物語っている。
「ウォォォ!」
ホブゴブリンが正面から拳を撃ち込んでくる。
今度は先ほどより速い。
それでも鈍い。
俺は背後に下がって間合いをそらす。
それと同時に腕を斬りつける。
だがホブゴブリンは構わずに踏み込んでくる。
逆の腕が突き出される。
そこへ――
「動くな!」
「――グゥ!」
体の自由を奪われたホブゴブリンがつんのめる。
俺は攻撃の軌道から身をかわしながら刀の峰を返す。
狙いは頭部!
「インパクトストライク!」
たしかな手ごたえ!
衝撃が頭蓋骨を通して脳へと伝わっていく。
「ア、アガァ……」
糸の切れた人形のように、ホブゴブリンが倒れる。
脳震盪を起こしたのだ。
すぐには動けない。
俺は刀を引きつけ、突きの構えを取る。
「トドメだ!
ピアススラスト!」
「グ……!」
刀の切っ先が、ホブゴブリンの太い首に突き立つ。
筋肉と骨と神経をたやすく刺し貫き、反対側へ抜けた。
【致命の一撃】と【暗殺】の効果が乗ったのだ。
刀をひねって引き抜くと、ホブゴブリンの体が塵となって舞い散った。




