VSボス戦! 巣の主はホブゴブリンで!
「ウゴアァァー!」
ホブゴブリンが吠え声をあげ、のしのしと前に出る。
取り巻きのゴブリンがさっと道を作った。
逃げ遅れた一匹がホブゴブリンに踏みつぶされる。
男は尻もちをついたままだ。
妻とホブゴブリンの間で視線を往来させるばかりだ。
「ううっ……」
「おい、さがれ! 逃げろ!」
だが男は腰が抜けたのか、じりじりと後ずさるだけしかできない。
ホブゴブリンが太い腕で床から何かを掴み上げる。
そしてその白っぽいなにかをすくうように、男へ無造作に振った。
このままでは男がやられる!
かなりシビアなタイミングになるが、しかたない!
「入れ替えの術!」
組み上げておいた術を放ち、男と位置を入れ替える。
視界が切り替わる。
すぐ目の前にホブゴブリンがふるった武器が迫っている。
――なにっ!?
俺は目を見開く。
それは武器ではなかった。
青白く見えるのは、肌だ。
ぐったりとした女性の体だ!
力任せに振るわれた人体が、武器となって俺を襲う。
な、なんてことしやがる……!
驚きで、わずかに反応が遅れた。
かわしきれない!
それでも何とか身をねじり、直撃を避ける。
「ぐっ……!?」
鈍い衝撃。
骨の砕ける音。
重い!
俺は跳ね飛ばされて、宙を舞う。
「ああっ! ゼンジさんっ!?」
「店長ーっ!」
リンの悲痛な声が耳を打つ。
トウコも叫んでいる。
「おおっ!」
床に叩き付けられる直前、受け身を取って、跳ね起きる。
体が痛む。
だが、直撃はしていない。
自分から跳んで威力を殺したのだ。
骨は……折れていない。
折れたのは俺の骨じゃない。
女性の体のどこかだろう。
ホブゴブリンは女性の足を掴み、振り回している。
「ウォォォァ――!」
二撃目が来る!
ホブゴブリンが女体を大きく振り上げる。
これは……マズいぞ!?
叩きつけようと振りかぶっているのだ!
今度は上段からの縦振り攻撃だ!
これは避けられない!
いや、回避はできる。
できるが……できない!
避ければ女性が無事では済まない……!
なんとかしなければ!
意識が加速する。
脳が高速で回転して神経が覚醒していく。
術だ。術を練れ!
【入れ替えの術】は不可!
【水噴射】を使うには集中時間が足りない!
となれば……!
俺は素早く腕を突き出して叫ぶ。
「止まれっ!」
「――ォォァア!?」
【金縛りの術】が発動し、ホブゴブリンが動きを鈍らせる。
体を固定する術ではなく、神経の伝達を止めるだけだ。
本来なら、体の動きは止められない。
だが今、ホブゴブリンは止まっている。
これはタイミングによるものだ。
女性の体を振り上げる動作が、頂点に達する直前で術をかけた。
すると慣性は上に働く!
ホブゴブリンは手を振りあげた姿勢で止まっている。
次の瞬間には腕を振り下ろすだろう。
わずか一瞬の静止。
だがこの一瞬でいい!
「チャージショットォ!」
「ファイアァランスっ!」
やはり、二人はこの隙を見逃さなかった!
光を曳いて走った弾丸が肩の肉をえぐり取る。
炎の槍が顔面に突き刺さって肉を焦がす。
「オゴアァァッ!」
たまらずにホブゴブリンが手を放す。
女性が空中に放り出される。
俺は地を蹴って走る。
歩法で加速し、反発力を加えて強く踏み切る。
「うおりゃあっ!」
フルスイング!
横薙ぎの打撃が太鼓腹へめり込む。
「フガァッ!?」
ノックバック効果がホブゴブリンを後方へ吹き飛ばす。
俺は刀を振り捨て、両手を広げて女性を受け止める。
ずしりと重い手ごたえ。
命の重みだ。
「うぁっ……」
女性が小さく弱々しい悲鳴を上げる。
よかった。
まだ生きている!
だが、ホブゴブリンも生きている!
腹を押さえ、憎々しげに俺を睨んでいる。
そして周囲のゴブリン達に向けて指を指し、何事か叫んだ。
「ホゴアァ!」
その声に、ゴブリン達が応える。
「ギギッ!」
「アギャギャ!」
遠巻きにしていたゴブリン達が動き始めた!
第二ラウンドだ!




