ついに発覚! 魔法女子大生!? ←知ってた
気恥ずかしさを紛らわすように、俺は話を戻す。
死にかけていた俺はオトナシさんのダンジョンに運び込まれ、ポーションによって命を取り留めた。
しかし、その前は? 俺が倒れていた間、なにがあった?
どうやってこの草原――おそらくはダンジョン――に来たんだ?
「俺が……いや、俺たちが助かったのはわかりました。でも、どうやってここへ?」
「ここ? あっ、ここはトイレなんです!」
「……トイレ?」
へえ。ここはトイレなのか。
って、何ソレ!?
オトナシさんの説明はたまに飛躍している。
噛み砕いて考えると……。
さっき、アパートの部屋で争っていたとき、オトナシさんやストーカーはトイレを出たり入ったりしていた……。
トイレの中に入ると、この草原につながっている、ということだ。
つまり、ここは――
「……ええと、ですね。不思議な話なんですが、トイレのドアを開けるとここに繋がってるんです! ケガをしていたクロウさんを、なんとか引きずってきたんですよ」
――俺のクローゼットがダンジョンになっているように、オトナシさんのトイレもダンジョンなのか!
「だからあの時、外へ逃げずにトイレに駆け込んだんですね!」
ストーカーから逃げるとき、オトナシさんは玄関の外ではなくトイレの中に向かった。
つまり、外よりもダンジョンの中のほうが安全とオトナシさんは考えたんだろう。
でもあの時、ストーカーも彼女を追って中に入ったはずだ。
ダンジョンはどうやら、持ち主でなくても入ることができるみたいだ。
俺はこうして彼女のダンジョンの中に入れている。
俺は意識を失って直接見ていないけど、ストーカーも入ってこれたはずだ。
俺は、自分のステータスを確認する。
ダンジョンの外、現実世界ではウィンドウすら表示できない。
ここではどうなるんだろう。
自分のダンジョンと同じなんだろうか?
――ステータスウィンドウが表示される。
そこには、いつもどおりのレベルやステータスが表示されている。
つまり、このダンジョンの中でもレベルやステータスが有効なのだろう。
自分のダンジョンと同じようにスキルが使えるはずだ。
職業も忍者になっている。
レベルもスキルもそのままだ。
よし、ひとまず安心だ。
話が終わったら、スキルを試すことを頭の隅に覚えておく。
「あのとき、ストーカーが追っていきましたよね? 大丈夫だったんですか?」
ダンジョンの外でもスキルを使っていたストーカーが、ダンジョンの中ではどれほどの力を振るえたのか。
そのストーカーからどうやって逃れたんだろうか。
さぞ、怖い思いをしたんだろう。
――しかしオトナシさんはちょっと誇らしげな表情を浮かべている。
「はい。追いかけてきました。――なので、やっつけちゃいました!」
「やっつけたって……え?」
あれだけ強かったストーカーを、やっつけた?
俺が手も足も出なかったのに?
オトナシさんは取っておきの秘密をバラすときの子供みたいな表情を浮かべている。
「実は私……魔法使いなんですよ!」
少しタメをつくって、じゃじゃーんという感じで発表するオトナシさん。
ちょっと照れた感じで、力こぶを作るようなポーズをとる。
――正直、ぜんぜん強そうじゃない。だけど、最高にかわいい!
魔法少女……もとい、魔法女子大生か!
「魔法使い……ですか。ああ、それでストーカーがアパートに戻ってきたとき焼け焦げてたんですね」
「あれっ! あんまり驚きませんね、クロウさん。びっくりすると思ったのにー!」
すねた感じで顔をむくれさせるオトナシさん。
さっきのオトナシさんが俺をストーキングしていたという告白に比べれば、インパクトは薄かった。
それに、ある程度予想はついていた。
このダンジョンに入った時点で、もう確信に近かったし。
「いや、実は……なんとなくわかってました。ほら、前に絡まれたときにファイアボールとか言ってたじゃないですか」
「あぁっ……アレは……覚えてたんですね。……もう、忘れてくださいっ。……ついダンジョンでの癖が出ちゃったというか」
ファイアボール事件を思い出して恥ずかしがるオトナシさんも……いい。
いろいろな疑問が、俺の中でつながった。
やはりそういうことだったのか。
俺のスキルや忍術が使えないのと同じだ。魔法も外では使えないのだろう。
だが、ダンジョンの中でならオトナシさんは強い。
たぶん、ストーカーよりも強かったのだ。
自力でストーカーを撃退できるだけの力があった。
あるいはスキルの相性かもしれない。
追跡や隠密に偏ったストーカーと、魔法使いのオトナシさん。
戦闘力ではオトナシさんが上回ったのかもしれない。
「魔法使いですか。なんだか、オトナシさんに似合ってる気がしますね!」
ちょっと不思議ちゃんなところとか。浮世離れしているところとか。
「そ、そうですか? 照れちゃいますね」
頬に手を当ててくねくねと恥じらうオトナシさん。
陽光の下で見る彼女は、アパートで見るよりもずっと鮮やかで……綺麗だ。
心に温かい気持ちがわき上がってくる。
俺はすっかり、彼女の魔法にかかってしまったのかもしれない。
没題名コーナー
天国があるとするならば、それはこんな場所
ストーカーで、魔法使いで、モデルで、女子大生。――属性もりもり。