避難誘導は非常出口で!?
白い大蛇を倒したが、なかなか手ごわい相手だった。
だが今のがボスということはないだろう。
強めのザコ敵といったところか。
この階の悪性ダンジョンは難易度が高そうだ。
気を引き締めて対応しなきゃな。
ヘビの魔石を拾い上げて【魔石収納】に入れる。
ダンジョン領域では、魔石はすぐに消えてしまう。
これは領域の外には持ち出せない。
通常領域に出るとすぐに消えてしまう。
でも、今回は大丈夫だ。
収納に入れれば持ち出せるからな。
【魔石収納】を取ってよかったぜ。
俺は目に違和感を覚えて眉を顰める。
「む……。
目が少しピリピリするな」
手でこすりそうになるのをぐっとこらえる。
さっき、ヘビの吐いた毒液が目に入ったか?
直接目に入ってはいないはずだ。
揮発した毒の成分だろうか。
念のため、水を操って目を洗う。
ついでに口もゆすいでおこう。
非常階段に水を吐き捨てる。
行儀が悪いがしかたない。
毒が混じっているかもしれないから飲めないしな。
領域内なので、すぐに消えるだろう。
水のペットボトルはあと一本だ。
比較的簡単に補充できるとはいえ、大事に使おう。
水はかさばるから、大量には運べないし、重いんだよな。
非常階段はしんと静まり返っている。
新たな敵はやってこない。
避難してくる人もいない。
いつまでもここにいても仕方がないだろう。
三十八階がダンジョン領域に呑まれていることは分かった。
情報収集は充分だ。
もちろん、この階をもっと調べるという選択肢もある。
今まさに危険にさらされている人がいるかもしれない。
だが、すべてを同時に行うことはできないのだ。
まずは一度戻って仲間と合流する。
そのあと、どこから手を付けるか考える。
一つ一つ片付けるしかない。
「さて、戻るか!」
俺は階段を駆け下りる。
三十七階で、ふと気になって足を止める。
避難のアナウンスが流れている。
これは先ほども聞いた。
定期的にくり返し流れているのだ。
それなのに、非常階段には俺しかいない。
どうして誰も避難を始めないんだ?
エレベーターは止まっている。
なら、この階段を通って逃げるしかないはずだ。
まだ日が落ちていないから宿泊客が少ないんだろうか。
仕事や観光で出払っているんだろうか。
とはいえ、部屋で休んでいた人もいるだろう。
避難が始まっているにしては人気がなすぎる。
少しフロアの様子を見てみるか。
三十七階の非常ドアを開け、中を覗く。
廊下は明るく、照明がついている。
よかった。
ここはダンジョンに呑まれていない。
ざわざわと人の声も聞こえてくる。
無事な人々がいるようだ。
刀を収納にしまって、廊下を進む。
エレベーター前に人だかりができている。
人々は混乱しているようだ。
不安げに、あるいは不機嫌そうに話している。
「避難って……なにがあったんですか!?」
「おいっ! エレベーターが来ないぞ!?」
「電話が通じない! 電波がぜんぜんないぞ!?」
話し合う人々は異変に気付いていない。
不確かな状況にいら立っているようだ。
だが、俺はそんな様子を見て安堵している。
少なくとも今、この人達は無事で生きている。
被害が起きる前に救出できそうだな!




