状況確認は最優先で!
エレベーターで二十階まで昇り、そこから階段を駆け上がる。
途中、避難を促す館内放送が聞こえた。
御庭やサタケさんの働きかけが通じたんだろう。
避難を始める宿泊客やスタッフで騒がしくなっている。
俺たちは殺風景な非常階段を昇っていく。
ステータスの補正が効かない通常空間なので、かなりきつい。
俺は段を飛ばして駆け上がる。
「店長、はやっ!」
「ぜ、ゼンジさーん」
「先に行く!
二人は後から来てくれ!」
ステータスがなくても俺は結構動けるのだ。
毎日ダンジョンを駆け回って鍛えているからな。
俺は息を乱しながらも三十五階にたどり着いた。
心細そうな表情で、エドガワ君が待っていた。
「クロウさん! ここです!」
「ふう。この先が現場か?」
俺は汗をぬぐい、乱れた息を整える。
「はい。
この先が悪性ダンジョン領域になっています!」
「よし。
ちょっと確認する」
俺は階段を少し登る。
「はい。
気をつけ――」
背中にかけられた声が途切れて聞こえた。
領域内は別空間になっている。
そのために音がさえぎられたのだ。
目に入ってくる光景はそれほど変わらない。
照明が消えていてうす暗い。
モンスターの姿は階段にはない。
金属製の重そうな扉があるが、今は閉まっている。
これを開ければ三十五階の廊下に出るはずだ。
俺は階段を一歩下がり、領域から出た。
エドガワ君に向けて話す。
「たしかにこの先が領域になっているな。
非常階段まで領域が伸びているなら、三十五階はかなりマズい状況か……」
三十五階のほとんどがダンジョン領域に呑まれていると予想できる。
領域は隣接する部屋へ順に広がっていく。
上下の階へと広がるのは、横へ広がりきってからだ。
非常階段は階としては横方向だが、他とは構造が違う。
部屋や廊下より優先度は低いはず。
「エドガワ君。
三十六階はどうなってるんだ?」
「見てきましたが、ダンジョン化していませんでした」
一つ上の階は問題ない、と。
俺は指を立て、上に向ける。
「なら、その先は?」
「先ですか……。
いえ、まだ確認できていません」
三十七階の状況は不明、と。
「よし、なら俺が様子を見てくる」
「えっ!?
一人で先に行くんですか?」
「ああ。偵察してすぐに戻ってくる。
その間にエドガワ君はリンたちと合流して三十五階を頼む」
「は、はい!」
エドガワ君は戦闘員ではないが、今はそうも言っていられない。
ちょうどそこへ、息を切らせたトウコがやってきた。
「て、店長はやいっス!」
続いてリンだ。
「や、やっと追いつきましたー」
俺は三十五階へ続く非常ドアを指さして言う。
「じゃ、俺は先に行く。
偵察して戻ってくるから、それまでエドガワ君とこの階を見てきてくれ!」
「うぇーっ!?」
「は、はい。
すぐ戻ってきてくださいね!」
俺はうなずき、上階を目指す。
戦力を分ける不安はある。
だが、状況が分からないまま動くわけにはいかない。
まず偵察して状況を探る!
そのあと、救出作業に入るのだ!




