無手で敵を制するには!
「まあ、やってみよう」
刀を収めて前に出る。
スケルトンが前からやってくる。
俺は無造作にスケルトンに近づいていく。
間合いに入ると、スケルトンが剣を振る。
「クカッ」
「うりゃっ」
俺は剣の一撃をかわし、背後に回って背中を押す。
スケルトンは勢いよく壁にぶつかって砕け散る。
それを見てリンが小さく拍手をする。
「わあ! さすがですね!」
「いや……今のはちょっと力任せだったかな」
素手で倒すことはできた。
でも、やりたかったこととはちょっと違う。
リンが不思議そうに首をかしげる。
「そうなんですかー?
すごく速くて、カッコいいと思ったんですが……」
「今のは素早く動いただけだ。
相手が遅いからうまくいっただけなんだよな。
もうちょっとスマートにやりたい」
スケルトンが弱いから成立した動きだ。
同等の強さの相手には効かないかもしれない。
スナバさんやオカダとの組手だったら通用しないだろう。
俺は頭の中で理想の動きをシミュレートする。
だめだ。そうじゃない。
刀で斬るのと、素手で押すのは勝手が違う。
リーチが違う。
力のかけ方が違う。
素手での最適な動き方は……。
トウコが前方を指差す。
「店長! もう一匹来たっス!」
「よし、もういっちょやるか!」
「カカッ!」
スケルトンが剣を振り上げる。
その動きに、俺は意識を集中させる。
剣が振りかぶられ、ある時点で動きを止める。
振り下ろす動作に入る前の、一瞬の静止地点。
それを狙って踏み込む。
「ていっ!」
剣の柄頭を下から押し上げる。
スケルトンの上体が後ろにのけぞる。
それと同時に足をひっかける。
スケルトンは弧を描くように後ろに倒れ込む。
くるりと回転して、勢いよく頭を床に打ち付ける。
頭蓋骨が砕け、スケルトンが塵に変わる。
うん。
今のはいい手ごたえだった!
「おっ! 店長もタツジンっスね!」
「くるっとなりましたねー!」
二人が賛辞を送ってくれる。
今回は素直にそれを受け取れた。
スナバさんを見ると、うなずいている。
悪くなかったようだ。
しかしコメントはない。
「スナバさん。
今の動きであってますか?」
スナバさんは淡々と言う。
「いい動きだった」
スナバさんから見ても悪くなかったようだ。
もうちょいリアクションが欲しいけど、それは欲しがりすぎだな。
でもせっかくだから聞いてみるか。
「スナバさんから見て、なにか直すところはありましたか?」
俺の言葉に、スナバさんが少し考えるようにして言う。
「敵を倒せたのだから問題はない。
あえて言うなら、足を払わずとも倒せただろう」
たしかにそうだ。
剣の柄を押すのではなく、頭部か胸を押してもよかった。
あるいは足払いだけでも倒せたな。
動作が余分だ、という指摘か。
「手だけで敵を制せば、足が空くってことですか?」
「そうだ。
だが、それも状況による。
今の場合は、クロウの動きで充分だ」
敵は単独だった。
二手使って倒しても問題はない。
そういうことだろう。
「相手が一体なら問題ないけど、複数なら違うってことですね」
「そうだ。
敵に囲まれていれば、一手も無駄にできない。
常にそのつもりで動いていれば間違いは起きない」
なるほど。スナバさんは一体の敵であっても複数の敵を想定して動いているのか。
相手が一体でも複数でも常に同じように動く。
無駄打ちはしない。
戦闘にかける時間も短く抑える。
最小の動作、最適な力加減で対応する。
そうすれば長期戦になっても疲れにくくなる。
そういうことだろう。
「なるほど。勉強になりました」
「いや、俺も勉強になった。
クロウの動きは防御に重点を置いている。
相手がどう動いても、斬られることはなかっただろう」
スナバさんとは何度も組み手をした。
お互いの動きは何度も見ている。
だが、組手と実戦では動きが違う。
格闘の練習が目的だったから、俺は被弾を恐れずに攻めていた。
スナバさんも速攻ばかりでなく、ある程度は打ち合ってくれる。
今俺が見せたのは、攻撃より防御を重視した動きだ。
相手の武器の攻撃範囲に入らないように立ち回っている。
仮に相手を倒せなくても、被弾はしない。
身をかわしたり術をかける余裕を残している。
俺の動きだって、実戦で磨いたものだ。
スナバさんから見ても悪くない評価だったようだ。
お互いの動きや考え方を知るというのは、ためになるね!
あけましておめでとうございます!
本年もよろしくお願いいたします!




