短い時間でできること!
【金縛りの術】は一秒にも満たないわずかな時間、相手の自由を奪う。
拘束時間はさほどではない。
しかし行動を阻害するのには役立つ。
回避を、攻撃を、移動を邪魔できる。
戦闘中に一瞬でも動きを止めれば、致命的なスキを生む。
格闘技の試合に出れば、すぐにチャンピオンになれるんじゃないか。
防御できない一瞬の間に急所を一撃。これで勝ち。
それくらいには強い能力だ。
他の術と同じように、術をかけながら行動もできる。
刀を振りながら金縛りをかけることもできるわけだ。
回避不能の斬撃である。
これ、強すぎるんじゃね?
前に考えた【入れ替えの術】との連携もできた。
相手の動きを止め、止まっている相手にしか聞かない【入れ替えの術】をかける。
同時に複数の術を使うのは集中を要するが、これはいつものこと。
俺は同時にいくつも術を使える。
無詠唱で多重詠唱をっ!?
って感じだが、何度も使いこんだスキルは手足を動かすように自然とくり出せる。
手と足を同時に動かすように、あたりまえにできる。
あまり複雑な術を同時にいくつも使うのは、さすがに難しい。
これは普通の動作だってそうだな。
左手で空中に四角の図形を描きながら、右手で円を描くようなものだ。
左右で連続してじゃんけんして交互に勝ち続けるとか。
こういうのも、練習すればできるようになる。
サーカスの団員みたいに、一輪車に乗りながらフラフープをして、さらにお手玉をするみたいな芸当だ。
練習の賜物である。
発動には条件があった。
「これ、相手に気づかれていないと効かないんだな」
「私のポージングと似ていますねっ!
見られていないとダメなんですー」
リンがうれしそうに笑う。
似ているのがうれしいみたいだ。
能力の制約は少ないほどいいんだけど。
「それだとこっそり使うのはムリっスねー」
隠密状態で背後から金縛って暗殺、という連携はできない。
「ああ。相手に認識されてなきゃいけないみたいだ。
意識に割り込む必要があるんだろう。
動くな! とか喝っ! とか言わないとダメだな」
それっぽいかけ声で注意を引く必要がある。
「それ、声じゃなきゃダメなんスか?」
「どうだろうな?
ちょっと試してみるか!」
俺はパンっと両手を叩く。
いわゆる猫だましだ。
トウコがひるむ。
「うっ!?
効いたっス!
てか、いきなりあたしに試すのはナシーっ!」
トウコが手をバツ印にして俺にぶつかってくる。
痛い。
「あだっ。すまんすまん!」
「じゃあ、私に試してくださーい」
と、リンが走りだそうとする。
「待て待て!
クールダウン時間があるから!」
それはもうやったし!
何度でも受け止めるけど!
「そ、そうですか?」
「ともかく、声でも音でも相手の気を引ければいいんだ」
「ポーズではどうですか?」
「ん? 声をかけずに動作だけってことか」
「ちょっとやってみるか」
俺はリンに向けて素早く手を突き出す。
待て! というジェスチャーだ。
「あっ! ちょっと効きました!
でもさっきより弱いですねー」
「ふーむ。
相手の注意を引けた度合で効果が変わるのか」
俺はリンの背後に回り込んで、肩をトントンと叩く。
リンがびくりと身を震わせる。
「んっ! さっきより強いです!」
ちょっと声が色っぽかった。
もう少し試したいが、十分だろう。
「こうやって驚かせばいいのか。
となると攻撃と同時に金縛りをかければいいわけだ」
「スタン攻撃っスね!」
普通の金縛りの術からはどんどん離れていく気がする。
だけど、悪くない術だな!
ちなみに【憤怒】状態のトウコには効果が低い。
敵意集中状態では、俺に意識を向けないからだ。
それでも使いようだ。
トウコを止めるのではなく、敵を縛ればいい。
これで指示の通らないトウコを援護できる。
防御やサポートにも使えるのだ。
【金縛りの術】は攻守ともに優れたいい術だ!
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