怒りを友としろ!
というわけで、俺たちは冷蔵庫ダンジョンに向かった。
お目当ては料理人ボスだ。
恐怖の咆哮を【憤怒】で無効化できるか?
それを試したのだ。
結果は成功。
予想通りだった!
咆哮を受けても【憤怒】を発動すれば怒りマックス状態になる。
これでビビって動けなくなることはない。
精神に作用する効果を怒りで上書きできたのだ。
つまり精神系のデバフを無視できる。
やはり使い方次第だ!
逆に【憤怒】状態で咆哮を受けても怒りが維持される。
トウコ曰く、ビビらせやがってチクショウ! みたいな感じで怒りが勝るらしい。
料理人ボスと連戦して、敵意集中状態のメリットを充分に確認した。
これはなかなか便利そうだな!
くり返し練習することで、トウコは【憤怒】に慣れていった。
すでに戦いに組み込んで利用できるようになっている。
俺とリンは、それに合わせて動く。
連携も様になってきた。
こうして練習を続けていると――
「おーっ!
【憤怒】のスキレベが熟練度で上がったっス!」
いろいろ試したからな。
それだけ成長も早くなったのだろう。
トウコは無邪気に喜んでいる。
しかし、懸念が俺の頭をちらつく。
あれ……?
これ、大丈夫なのか?
このスキルって育ててもいいのか?
「へえ……。
変異系のスキルも熟練度で上昇するのか。
でも、それより先に精神耐性を身につけてほしかったな」
「精神耐性は出てこないっスねぇ」
止める手立てがないのに、パワーアップしてしまった。
ブレーキがないのに加速するようなものだ。
リンがパチパチと手を叩く。
「トウコちゃん。おめでとうー!
……あれっ!?」
リンが驚いたように口元を押さえる。
そしてトウコを訝しげに見つめる。
リンが見つめているのはトウコの頭あたりだ。
「うぇっ!?
骨でもついてるっスか?」
トウコが自分の頭を、ぱっと手で払う。
返り血ならぬ返り骨が降りかかったかと心配したようだ。
だが違う。
骨片も塵になって消えるからな。
「なにもついていないぞ……」
しかし……ふーむ。
なにか違和感があるな。
トウコの様子が、いつもとどこか違う。
ここで、俺も気づいた。
おかしいのはトウコの髪色だ!
リンがじれたように言う。
「そ、そうじゃなくて髪だよー!
髪の毛がおかしいのーっ!」
トウコが髪に手をやり、愕然とした様子で目を見開く。
「髪の毛が――あるっス!」
今、そういうボケはいらないんだよ!
「色だよ、色!
トウコ! 髪が白くなってるぞ!」
もともとトウコの髪は一房だけ白くなっていた。
これは冷蔵庫ダンジョン攻略後からだ。
今、それとは別の髪束が変化している。
根元から毛先に向かって、みるみるうちに白く染まっていく。
「どこっスか?」
「トウコちゃん、ここだよー!」
リンがトウコに変色した場所を教える。
トウコは髪束を手に取ってじっと見る。
そして楽し気に言う。
「おおーっ!
かっけえっス!
次はスーパーな感じで髪が逆立ったりしてーっ!」
怒りで覚醒する戦闘民族のことかーっ!
「喜んでる場合か!
どこか、体に変化はないか?」
トウコが自分の体をささっと調べる。
「あっ! 胸が……あるっ!
前より大きくなったっス!」
「変わってねえよ! いつも通りだ!」
トウコがニヤニヤ笑いを浮かべる。
「さすが店長! 即答っスね!」
「茶化している場合か!
お前の体質の話だぞ。
ツノやキバが生えたら困るだろ!?」
【憤怒】は【変異】の【鬼】の力なのだ。
普通のスキルとは違う。
髪の毛が変化したくらいならいいけど……。
「ツノは邪魔そうっスねー。
でもキバなら便利そうっス」
しかしトウコはぜんぜん気にしていない。
気にならないのか?
俺はリンと顔を見合わせる。
「トウコちゃんの体、大丈夫なんでしょうか?」
「前のときも体に害はなかったけど……」
「髪の毛くらい平気っスよー」
「トウコ。ちょっと動くなよ」
「うぇっ?」
俺はトウコの髪に手を差し入れ、頭をまさぐった。
ツノやコブは見当たらない。
「……とりあえず、ツノはなさそうだな」
「へへ。くすぐったいっフ!?」
「頭は大丈夫そうだ。口の中も見せてみろ」
俺はトウコの口に指を突っ込む。
口を大きく開けさせて中を確認。
どれどれ。
「うん。キバも生えてないな」
ついでに頬をびろーんと引っ張る。
おお、やわらかい。
むにむに。
「あにふんすかー」
「チェックだよ。あとは……」
俺はトウコの頬から手を放し、体に目を走らせる。
ふむ。
これ以上調べるのは難しいか。
全身をまさぐるか、服を脱がせないといけない。
……でも早いうちに確認しておいたほうがいいんじゃないか?
安全第一のためにはしょうがないのだ。
そう、不可抗力……。
じゃなくて!
抗え! 忍べ俺!
リンがすっと前に出て言う。
「トウコちゃん。
体はあとで調べようねー」
おお、ナイスブロック!
危ないところだった。
煩悩は顔に出ていないはず!
リンはほほ笑んでいる。
大丈夫だろう。
大丈夫だよな?
トウコがバンザイの体勢で言う。
「じゃあ、あたしはリン姉の体をチェックするっス!」
「う、うん……。私は大丈夫だけど……」
リンがちらちらっと俺のほうを見る。
なんだこれ。
お誘いか!?
リンも【嫉妬】で体に変化が……?
それならチェックしなければならないな!
そうなると俺の体も【煩悩】で変化してしまいそうだぞ!?
おっと!
冷静になれ!
真面目な話に戻そう!
「しかしトウコはもっと考えたほうがいいぞ。
危機感ゼロの平常運転じゃねーか。
もっと自分の体を大事にしろよ!」
そう言うと、トウコがヘラヘラした態度をやめる。
そしてやや真面目な顔で言う。
「だって、くよくよしたってしょーがないっス。
それなら、楽しんだもん勝ちっスよ!」
なにも考えていないわけじゃないらしい。
「うーん。ま、一理あるな」
前向きに捉えているなら良しとするか!
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