怒りは敵と思え!
トウコは【憤怒】を使いこなす練習を続けた。
初めのうちは【狂化】が暴発することもあったが、しばらくするとだんだんコツがつかめてきたようだ。
今では安定して【憤怒】を単品で使えるようになった。
【憤怒】だけなら、意識や理性が飛ぶことはない。
攻撃的な気分になるものの、味方を攻撃したりしない。
筋力強化の効果は強力だ。
トウコの職業は銃使いだけど、ちゃんと恩恵がある。
銃の反動を抑えやすくなり、足も少し早くなる。
地面を蹴る力が強くなるから、移動速度も上がるのだ。
前線へ突っ込んでマグナムやショットガンをぶっ放すスタイルだ。
トウコの性に合うらしく、生き生きと戦っている。
だが、被弾が増えるという欠点もある。
状況に応じて考えて使わないとな。
被弾がなくても、パワーの代償で体に負荷がかかる。
筋肉痛になってしまうことも欠点だな。
だがこれはポーションや薬草で治るから、大した問題はないといえる。
問題なのは副次的な効果だ。
対象一体を破壊するまでという説明部分、これが侮れない。
この効果は、攻撃対象を固定する。
攻撃対象一体だけに敵意を向け続けるのだ。
初めて【憤怒】が発動したとき、トウコはスケルトンには見向きもせず俺ばかり攻撃してきた。
あのときの対象一体は俺だったわけだ。
対象以外に対しても、攻撃されれば反応する。
そうでなければ攻撃対象の敵だけを狙い続ける。
この効果は意識しても制御できない。
俺やリンが話しかけても返事がおろそかになる。
話を聞かないのはいつものことだが、ずっと顕著になる。
これには頭を悩まされた。
指示が通らないと、うまく連携できない。
かなり困ったことになる。
戦闘に夢中になって、逃げられなくなるのも大きなデメリットだ。
かといって、引っ張ったり、立ちふさがったりするのは危険だ。
邪魔をすると攻撃的な反応を見せるのだ。
もっとも、なんとかトウコは踏みとどまった。
さすがに俺たちを撃つまではいかない。
理性や意識がなくなるわけではなく、ある程度は自発的な行動がとれる。
でも制御は完全じゃない。
危ないから邪魔をするのはやめておこう。
この敵意集中状態は、状況によっては大きなスキを生む。
たとえば複数の敵がいる場合だ。
他の敵に注意が払えなくなってしまう。
とにかく目の前の敵を倒したくなるらしい。
トウコはいろいろと試していたが、これはどうにもならなかった。
一度対象を決めたら、キャンセルはできない。
目の前に人参をぶら下げられた馬みたいに猛進していくばかり。
怒りの感情はスキルによって強制的に持続する。
小さな怒りを発火させると、一気に燃え上がって消せなくなるのだ。
狙った対象を倒せば、この怒りはすぐに収まる。
テンションの上げ下げが激しくて疲れそうだな。
俺やリンが敵を横取りして倒しても、ちゃんと効果が切れる。
敵が逃げるケースはこれまでにない。
たぶん、どこまでも追いかけていくんじゃなかろうか。
持続時間は調べていない。
敵がすぐ倒されてしまうからだ。
俺が対象になって逃げれば試せるが、それはもう懲りた。
トウコも試さなくていいと言う。
俺やリンに対して【憤怒】を向けるのはイヤらしい。
実際、最初のとき以降は、俺やリンを対象にしていない。
使い方がわかったから対象に選ばないようにしているそうだ。
このスキルを長く発動し続ける意味もないし、持続時間は気にしないことにする。
安全地帯に逃げ込んだときは時間経過で解除されたようだし、無制限ではないはずだ。
「これで敵を倒すとスカッとするっス!
脳汁どばーっ! クセになりそーっス!」
脳内麻薬ドバドバ状態か。
戦いの興奮はわからんでもないが……。
「ほどほどにしておけよ。
しかし、この攻撃対象を固定する効果は面白いな」
「私の【ポージング】も効きませんでしたねー」
「そうそう。
注意を引く効果を無視できるなら、使い方次第では役に立つかもしれないぞ!」
デメリットばかり見ず、いいところもあるはずだ。
「役に……ですか?」
「うまいこと、なにかに使えないかな?
たとえば、他のスキルを打ち消せるんじゃないか?」
トウコがぐっとこぶしを握る。
「おーっ! これは激アツっ!
怒りで敵の能力を打ち破るのは鉄板っスよね!」
「精神に作用するスキルを【憤怒】で打ち消すんですねー?」
「ああ。そういうことだ」
さて、さっそく試してみよう!
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