鬼に散弾銃! 手が付けられない様子!?
暴れるトウコを止める方法はある。
意識を断ち切ればいいのだ。
首を刎ねるとか、脳天に峰打ちとか……。
でも、そういう方法はダメだ。
俺は刀を抜かない。抜くつもりはない。
復活できるとはいえ、トウコを手にかけるのは気が引ける。
殺すわけにはいかないし、半殺しにするのもダメだ。
そして、手加減して倒せるほどトウコは弱くない。
前にもこんなことがあったっけ。
冷蔵庫ダンジョンで死にすぎたトウコが怪物に変異したときだ。
でも、今回は食われてやる訳にはいかない。
かなりの覚悟が必要だが、それだけが理由じゃない。
リンがいる前で、トウコに食われるのはマズい。
目の前で恋人が友達に食われるという、究極の寝取られ姿を見せつけてしまう。
トラウマ間違いなし。
そのときリンがどう動くか予想できないのが怖い。
いろんな意味で怖い。
となれば……。
俺は手にしたペットボトルをトウコへ投げつける。
「ていっ」
「アァゥ!」
トウコが手で払おうとする。
しかし直前でペットボトルが内側から破裂する。
小規模な【水刃】で内側から斬り裂いたのだ。
水はばしゃっとはじけ、トウコの手に降りかかる。
手を伝い、腕を伝い、するすると登っていく。
「ウゥッ!?」
トウコは水を引きはがそうとするが、液体はつかめない。
軟体生物のようにうねうねと、俺の操る水がトウコの顔面を覆う。
このまま窒息に持ち込めば俺の勝ち。
しかし、トウコの銃が完成するほうが早いだろう。
水は目まで覆っている。
不明瞭な視界では銃の精度は落ちるはずだ。
俺はトウコの背後に回り、首のあたりを掴む。
「これで終わりだ、トウコ!」
「アァァッ! ゴボゴボッ!」
トウコが水泡を吐き出しながら叫び声を上げる。
そして、むせながら水を吸い込んでいる。
おいおい……。
怒りに我を忘れすぎて水を吸い込んじゃったのか!?
いや違う!
水量がどんどん減っていく。
まさか、全部飲み干すつもりか!?
ペットボトル一本分にすぎないとはいえ……。
首を掴む手に喉が嚥下される感触はない。
水を飲み込んでいるわけじゃないのだ。
水を食べているのだ。
【悪食】の効果で、水が消されている!?
水を噛んだって破壊されるわけじゃないだろう。
だが形は変わる。
それで効果対象になるのか!?
俺はトウコの首へ腕を伸ばし、チョークスリーパーの体勢へ。
トウコが身をよじり、俺を引きはがそうと暴れる。
俺の腕をがっしと掴み、絞めつける力は万力のようだ。
痛い!
防具がなかったら肉がちぎれかねないぞ!
だが離れるわけにはいかない!
振り落とされないように全身に【吸着の術】をかけて密着。
背中に張り付く。
非力な俺が組み付くのは悪手だろう。
だが、今はこれしかない。
トウコが地面を蹴る。
勢いよく背後へと飛び、俺を壁にぶつけるつもりだ。
さっきと同じだ。
壁とトウコの間に挟まれればひとたまりもない。
だが、そうはならない。
計算通りの位置取りだからな!
タイミング、よし。
角度、よし。
速度、予想以上だがよし!
俺とトウコは勢いよく背後へ転がる。
壁にぶち当てられて、潰されることはなかった。
壁のない場所――部屋の入口にすぽっと収まったのだ。
狙い通り!
安全地帯に入ったぜ!
床を転がり、トウコから離れて立ち上がる。
トウコがうめく。
「ウゥ……う……」
「トウコ! 正気に戻れ!」
トウコの表情がゆっくりと穏やかに戻っていく。
ここは安全地帯だ。
もう攻撃行動は取れない。
【憤怒】は直接的な攻撃スキルではないが、攻撃できなければ意味がない。
なんとか効果が消えてくれたようだ。
「ゼンジさん! トウコちゃん!
大丈夫ですかー!?」
心配そうな顔で室内をのぞき込むリンに、俺は親指を立てる。
「おう。俺は大丈夫だ。
トウコも元に戻りそうだ」
「よ、よかったぁー」
リンがへなへなと床にへたり込む。
トウコが身じろぎをする。
お、目を覚ますかな。
息は乱れているが、険しい表情ではない。
トウコがぼんやりと目を開ける。
「う……うえぇ?
安全地帯の天井が見えるっス……」
「おお、目が覚めたか!」
トウコがあわてる。
「あれっ!?
も、もしかしてあたし、死んだんスか!?」
トウコが頭を振って上体を起こす。
どうやら元に戻ったようだ。
しかし、死んで復活したと勘違いしているみたいだな。
やれやれ……焦ったが、無事に切り抜けた。
安全地帯の近くでよかったな!
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