できないことがわかるのも結果の一つ!
【魔石収納】にボスの魔石は収まらなかった。
これも答えの一つ。
それがわかったのだから良しとする。
普通の魔石は入るんだし、持ち出す検証はできる。
余ったスキルポイントがないので、いまはスキルを育てられない。
今後、もっと育てることにしよう。
しかしなあ……。
スキルレベル二に上げておいたのに入りきらないとは。
それだけ今回のボスは強かった。
五階層のボスより強いくらいを想定していたんだけどな。
我がライバルの大コウモリさんより、ボス熊のほうが強かったということだ。
これはちょっと癪だな。
まあ、強さの評価の仕方にはいろいろあるだろうけどね。
魔石の価値が強さとイコールなわけじゃあない。
大ベアラットの魔石でスキル付与を試す。
強力なボスの魔石だけあって、スキル付与ができるぞ!
俺は結果を口に出して説明する。
「中級忍具作成で付与できるのは【登攀】か【筋力強化】の効果だ」
「おっ!?
トーハンはさておき、筋力強化はいいっスね!」
「登攀は俺も持っている。
壁や木を登りやすくなる効果だ」
「ネズミさんみたいですねー」
「じゃ、筋力強化はクマ要素っスね!」
武器に登攀をつけても、手がふさがっていたら木登りは難しいかもしれない。
手に持たず、鞘に差していても効果が出るんだろうか。
それによって違ってくるな。
手袋などの防具に付与すれば問題ないか。
筋力強化はシンプルに強そうだ。
「てっきり、【憤怒】でもつくと思ったんだがな」
巣をつついたら、やたらと怒っていたし。
思ったより狂暴なモンスターだった。
「憤怒はもう持ってるっス!
ぜんぜん使えないんスけどー」
「危ないから使えないんだよねー」
トウコが怒ると、まれに効果が暴発しそうになる。
今のところはガマンして耐えている。
だから、ちゃんと検証できていない。
スキルの説明はこうだ。
対象一体を破壊するまで、怒りに身を任せる。
筋力が一時的に上昇する。
元の持ち主である大鬼は、怒りのせいで味方まで攻撃していた。
気軽には使えない。
「ヤバそうだから検証できないんだよなぁ。
あ、リアダンなら死ぬ心配がないから、試せないこともないな」
「いいっスね!
ついにあたしの隠された力が覚醒するっス!」
トウコが片目を手で押さえながら妙なポーズを取る。
「ぜんぜん隠されてないけどな!」
「もしもまた【憤怒】がもらえちゃったら、スキルレベルが上がるのかなー?」
「それで制御が効きにくくなったら困るな……」
「くっ! あたしの中で憤怒がムラムラしているっス!」
「前も言ったが、憤怒ならムカムカだ!
ムラムラするのは色欲だ!」
今回のボスに【色欲】の要素はまったくない。
発情したクマやネズミと戦うのはイヤだ。
それに、そんな能力を【捕食】してもらっちゃ困る。
【狂化】といい、トウコは妙なスキルばかり身についてしまう。
職業がゾンビだからだろうか。
【忍具作成】のスキル付与で確認した限り、今回はヤバいスキルではなさそうだ。
トウコは待てをされた犬みたいにヨダレをたらしている。
「店長、もう食べていいっスか?」
「いいぞ」
「んじゃ、いただきまーふ!」
トウコが口を開いて、俺の手の上から魔石をパクリ。
ついでの俺の指をちょっと甘噛みしていく。
やめいっ!
くすぐったいわ!
「で、どうだトウコ?
スキルは身についたか?」
「んー」
トウコは空中に指を走らせている。
スキルリストを調べているのだ。
トウコの眉が意外そうに持ちあがる。
「増えてるっス!
でも、なんじゃこりゃー!?
トーハンでも筋力強化でもないんスけど!」
「む? どちらでもないのか?」
事前に調べたものと違う……だと?
「トウコちゃん。なにがもらえたの?」
「その名もなんと、悪食っス!」
「あくじき?」
リンが首をかしげる。
ゲーム用語……ではないか?
単にあまり使わない言葉だと思う。
「七つの大罪の暴食とは違うよな。
ええと、ゲテモノを食うことだっけ?」
「言葉の意味はそうですよねー?」
普通は食べないものを食べること。
あるいは粗末な食べ物。
「トウコ。説明はどうなってる?」
「食べられないものが食べられるようになる――らしいっス!」
「なんだその曖昧な説明は……」
「クマさんやネズミさんは、いろんなものを食べますよね。
そのせいなんでしょうかー?」
と、そこで妙な感覚を覚える。
空間が縮むような、気圧が変わるような感じ。
「おいゼンゾウ。そろそろじゃねーか?」
「おっと、そうだな!
そろそろダンジョンを出るぞ!」
「検証は帰ってからですねー」
「帰っていろいろ、美味しいものを食べるっス!」
それは美食じゃねーか。
ま、それを試すのは後!
ダンジョンがすぐに消えるわけじゃないが、長居して帰れなくなっては困る。
ザコの魔石で刀を強度強化して、出口へ向かう。
トウコが魔石を手にリンににじり寄る。
「その前にこれを試しておかないとっ!
ムネ収納っス!
魅惑の空間にスポっと!」
トウコがリンの胸元に魔石を入れようとする。
「トウコちゃん、やめてねー!」
リンが盾でそれを受ける。
お、防いだ。
そんな調子で、転送門にたどり着いた。
転送門をくぐる前に最後に一礼する。
このダンジョンの主とは話す機会を持てなかった。
名も知らぬ誰かの冥福を祈り、ダンジョンを後にした。
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