シャイな天の声と六階層への階段!
リンがスキルオーブを鑑定した。
いつも通りの品だ。
名称はスキルオーブで、カテゴリは成長素材。
「ふむ。やはりいつもと同じか」
「いっぱいポイントもらえたりしないんスか?」
リンがスキルオーブを手にして言う。
「うーん。
【物品鑑定】ではもらえるポイントはわからないみたい……」
使えばわかることだけどね。
俺はリンを促す。
「んじゃリン、割ってくれ」
リンが名残惜しそうにスキルオーブを持ち直す。
意を決した様子でトンファー盾に向け――
「では……えいっ」
オーブを盾にコンコンとぶつけた。
まるで卵を割るときみたいだ。
ぴしっとひびが入り、オーブが砕ける。
「五ポイントもらえました。
ありがとうございますー!」
リンが俺とトウコにぺこりと頭を下げる。
「やっぱし五ポイントっスねぇ」
「まあ、そう渋い顔するなよ。
リアダンはおまけみたいなものだし、もらえるだけ得だろ?」
自分のダンジョンじゃないのに、報酬がもらえるのだ。
考え方によっては収入源が増えたとも言える。
「お得ですよねー!」
「強くてニューゲーム感覚っスね!」
「今回のボスもなかなか手ごわかったが、今のレベルなら勝てる」
「ハメたら簡単に倒せそうっス!」
遠距離でひたすら撃ちまくれば簡単に倒せたかもしれない。
ボスの足は遅くなかったが、分身で足止めするとか、いろいろ方法はある。
今回は近接戦闘で挑んだから、いい戦いができた。
「勝てない相手ならそういう手もいいけどな。
楽して勝ってもつまらないだろ?」
「縛りプレイっスね!
さすが店長はヘンタイっス!」
「ヘンタイじゃねーわ!
今後のためにもリアダンのボスとの戦闘経験を積んでおきたいんだよ!」
ボススケルトンは正統派で技巧派だった。
俺のダンジョンのボスはもっと肉体的で本能的だ。
単純にどちらがより強い、ということはない。
強さの性質が違う。方向性が違う。
だから得られる経験も違ってくる。
リアダンは今後、深く潜っていくことになる。
ここの敵との戦闘経験を積んでおいたほうがいい。
「たしかにそうですねー。
スケルトンさんは他のボスさんよりも動きがちゃんとしてました!」
トウコがニヤリと笑う。
「なかなか骨のあるやつだったっスね!」
「お、うまいこと言うな、トウコ!
そういう敵と戦って倒すのは楽しいよな」
「強敵と戦うのが好きとか、さすがマゾ店長っス!」
「だから違うわ!
剣や盾の使い方もそうだし、スキルも参考になるだろ!」
パリィとかさ。
俺も覚えようかな?
【片手剣】か【打撃武器】でパリィが使えないものか。
忍者とパリィの相性はいいと思うんだ。
リンがしみじみと言う。
「ゼンジさんはマジメですよねー。
そういうところが素敵だと思いまーす!」
トウコが言う。
「そういえば店長。
なんで天の声のアナウンスがないんスか?」
いつもならボスを倒したり宝箱を開けたタイミングで天の声が響く。
今回はそれがない。
まあ、それを聞かれても答えようがないんだが。
「俺にはわからん。
スキルオーブはボスの討伐報酬だと思うけど……」
「これって、ボスさんがくれた報酬じゃないんでしょうか?」
ボスがくれるって……。
「リンが言いたいのは普通の報酬……。
ボスからのドロップアイテムとか宝箱のことか?」
「はい!」
天の声……ダンジョンがくれたものではない説か。
トウコが言う。
「じゃー、もう一回倒したら、またもらえるんスかね?」
「そうだといいよねー」
普通の報酬でスキルオーブが手に入るんなら旨すぎる!
それなら毎日でもリアダンに潜っちゃうぞ。
ボスの復活はどれくらい待てばいいのかな。
俺のダンジョンだと三日だが……。
しかし、そんなうまい話があるだろうか。
「そう期待したいが、たぶん初回だけだろう。
天の声のお知らせはないけど、無言で宝箱に入れてきたんじゃないか?」
「なんスかそれ。
シャイなんスか、ここの天の声は!」
リンは不安そうにトウコの服をちょいちょいと引く。
「トウコちゃん。
天の声さんに聞こえているかもしれないよー。
傷ついちゃうかも……」
「寛大な天の声さんは怒ったり傷ついたりしないと思うが……」
この声が届いているならもっといいものをください!
「それに十階層のボスを倒せばまた討伐報酬をもらえるはずだ。
何度も低階層のボスを倒せるのはラッキーだぞ」
もちろん自分のダンジョンにもボスは居る。
しかし初回討伐報酬はボス一体につき一度だけだ。
二十五階、三十階のボスを倒せばもらえるが、すぐには無理だろう。
だから浅い階層のボスから報酬をもらえるのは効率がいい。
悪性ダンジョンだとこうはいかない。
あそこではボス討伐報酬がないからな。
「んで、階段はどうするんスか?」
「おっとそうだった。進もうぜ!」
ボス部屋の後の安全地帯の奥、螺旋階段を降りていく。
これまでと似た作りだ。
ところどころに壁かけ松明があり、スケルトンが配置されている。
「リン。明かりを頼む」
「はーい。ファイアボール」
ゆっくりと火球が階段を照らしながら飛んでいく。
そこに居るスケルトンの姿もしっかりと見えた。
「あ、弓持ちっスよ!」
「スケルトンアーチャーか。
狭い足場で弓を射かけられたら面倒だが……」
「まー、あたしたちにかかればよゆーっスね!
うらうらっ」
「ファイアボール!」
哀れな骸骨たちは弓を撃つ間もなく撃沈された。
うーん。
遠距離攻撃便利すぎるだろ!
バランスおかしいよ!?




