派遣任務……自律分身はじめてのおつかい! 警備任務……異常アリ!?
登場人物のストーカー率が高すぎる!
「――自律分身の術!」
「よう、俺! じゃ、さっそく行ってくるかな!」
自律分身は、いつもの装備を身に着ける。
トンファーと陣羽織を加えて、準備完了だ。
すぐに出発していく。
いちいち指示しなくても、俺のやりたいことを把握している。
「さっきまでの俺だからな。うむ。便利だ」
警備を怠れない俺は、アパートから長時間離れることができない。
そこで、自律分身を単独で派遣するというワケだ!
目的地は、二階層のモノリス。
自律分身がモノリスを使用可能なのかを確認したいのだ。
その道中は、モンスターを狩りながら作った装備のテストもする。
俺は自律分身を、俺自身なんだと思っている。
別の存在だとは考えていない。
後で合流するし、一時的に分かれているだけの俺だ。
しかし、ダンジョンから見るとどうなるんだろうか……。
同じ人物だと認識されるのか?
モノリスにアクセスできるのか?
魔石を投入したり、アイテムを交換することができるのか?
「うむ……疑問はつきない」
モノリスに貯金してある魔石を使えれば、俺と同一人物と認定されたことになる。
使えない場合は、俺とは別人扱いになる。
アクセスできない場合……。
魔石を投入したり、引き換えたりできない場合は……。
どういう扱いになるんだろう。
ゴブリンをモノリスにぶつけても、何も起こらなかった。
モンスターはモノリスにアクセスできない。
ついでにゴブリンはモノリスを認識すらしていなかったように見えた。
まあ、ゴブリンの知性じゃ、モノリスに限らず何も認識してないかもしれない。
二階層のゴブリンならね。
六階層なら、ちょっとはモノを考えていそうなのだが。
今のところ二階層にしかモノリスは見つかっていない。
同じペースで現れるなら、七階層あたりに次のモノリスがあるのかな?
攻略も進めたいが……今は警備活動優先だ。
いつまで見張ればいいのかわからないが、やめるわけにはいかない。
彼女の安全がかかっている。
当然、最優先だ!
「さて、あとは自律分身に任せて、俺は警備に戻ろう」
ダンジョンからアパートへ。
ドアを出て、外を確認する。
アパートの廊下から、外を見渡す。
もう、外は暗くなっている。
「うーん、異常ナシ。って、異常ってどういう状態なんだろうな。怪しい人物が立ってたりするのか?」
もちろん、そんなわかりやすい異常はない。
平和な住宅街だ。
帰宅時間だから、ちらほらと家路を急ぐ人が通りかかったりもする。
「ストーカーだからって、電柱の陰からこっちを覗いてたりしないよな……」
電柱は頼りない明りを投げかけている。
――影の濃い部分。
――視界を遮られる物陰。
隠れ潜む場所はいくらでもある。
普段からこそこそ隠れ潜んでいる俺が言うんだ、間違いない。
といっても、通行人がいればすぐに見つかる程度だ。
全方位から身を隠せるような都合のいい隠れ場所はない。
住宅街の真ん中で、誰からも見つからずにいられる場所なんて、そうそうないからな。
結局、日中は現れなかった。夜こそ現れるんだろうか。
そもそも、イタズラだったかな?
アパートは静かだ。
オトナシさんの部屋も、静かだ。
シモダさんの車はないから、まだ帰ってきていないんだろう。
相手の気持ちになって考えてみる。
俺がストーカーだったら……昼に来るだろうか。夜に来るだろうか。
――これから会いにいく。たのしみだ。
そう言っていた。
言葉通りに受け取るなら、直接会うつもりなんだろう。
蔭から眺めるとか、下着を盗みに来るわけじゃない。
そうだとすれば、時間帯はいつでもいい。
むしろ、住民が不在で音を立てても目立たない昼に来るんじゃないのか?
会って、どうするつもりかということもあるが……。
――信じなくても構わない。僕は彼女と新しい場所へ旅立つ。
ストーカーの書き込みは要領を得ない。何を言いたいか、わからない。
連れ出して、どこかへ行くつもりなんだろうか。
深読みすれば……無理心中とか?
いやいや、いきなりそんなことになるだろうか。
面識はないはずだ。赤の他人だ。
「……やっぱり、ストーカーの気持ちなんてわからないな。いきなり押しかけてきて、旅立ちましょう! とか言うのか? うまくいく未来が見えないぞ」
どういう誘い方をしても、オーケーを貰える気がしない。
たとえば「はじめまして! 今すぐ海外旅行に行きましょう!」とか言われてもね。
他人となんか、タダでも行かないと思う。
まずは挨拶だけして帰る……とか?
それだと「会いに行く」のはいいとして「旅立つ」という目的が果たせない。
どこかへ連れていきたい、誘いたいということだと思うが……。
とはいえ、相手は人間。特殊な考えを持った相手だ。
合理的な行動を取るとは限らない。
俺もたまに、オトナシさんを前にすると合理的じゃない動きをしてしまうし。
体が勝手にというか、頭が空回りするというか。
――なんなんだろうね。
あれ……ストーカーの気持ちなんてわからないと思ったけど、わかっちゃったか?
……いや、わからなかったことにしておこう!
部屋に戻る。外は異常ナシだ。
「飯でも作るか。……そういえば、今日はオトナシさんが静かだな。いつもはもっと、騒がしいのに」
この部屋の壁は薄い。防音性とかプライベートとか、そういうものは期待できない。
そして、オトナシさんは結構、音を立てるのだ。
昔は、あまり気にならなかった。
俺が仕事で遅くまで家を空けていて、活動時間がかぶっていなかったこともある。
最近はアパートにいる時間が増えたから、どうしても生活音が気になってくる。
ダンジョンがなかったら気になりっぱなしになるところだ。
オトナシさんの生活音……。たとえば、どこかにぶつかったり。
何かをこぼして、あっと声をあげたり。
壁にぶつかる音がすることもある。
たぶん、壁に寄りかかっているんじゃないだろうか。
鼻歌を歌ったり。独り言も多い。
……聞こえてきてもイヤではないので、注意したことはない。
注意して静かになったら、寂しいような気もする。
――って、俺ストーカーじゃないよ!
わざわざ聞き耳を立てているワケじゃないのだ。
悪いのは壁の薄さ。安普請のアパートが悪い。
不可抗力だな。しょうがない。うむ。
俺は壁越しの音に興奮する変態ではない。
俺が興奮するのは直接……じゃなくて!
チガウチガウ!
なんだろう……。
何もしていないのに自分が変態のストーカーに思えてくるこの感じ。
ストーカーのこと考えすぎたか。
「……あぁっ!」
ほら、なんか変な声が聞こえてきた気がするし。
幻聴まで聞こえてくるとは、だいぶヤバいぞ。
……いや、なにか聞こえる気がするな?
くぐもって、内容は聞き取れない。
テレビだろうか。電話でもしているんだろうか。
あんまり、彼女が電話で誰かと話してるイメージはないな。
いや、俺が知らないだけか。
……コップを手に持って、そっと壁にあてる。
いや、変態行為じゃないんだ。
これは忍び竹とか忍び筒という忍者の諜報術の一種だ。
壁に直接耳を当てるよりも効率よく音を拾うことができる。
骨伝導とか糸電話みたいな原理らしいぞ。
竹の筒なんてないから、ガラスのコップで代用だ。
ガラスは伝導率がいいらしいので、問題ない。
俺の行動も問題ない。
うん。警備活動の一種であり、現代版忍術の実験なんだな。
隣の物音が聞こえてくる。
「……なんで……」
「やっと……」
んん!?
よく聞き取れないが……ただならない雰囲気だ。
――異常アリ!?