安全地帯は非暴力で!?
二階層の安全地帯を見つけた。
まずは分身を歩き回らせてみる。
「店長。なにやってんスか?」
「念のために罠の確認をしている。
よし、なさそうだ!」
「うぇー?
安全地帯スよ!?
罠があったらおかしくないっスか?」
トウコはあきれ顔である。
俺は力説する。
「安全確認はやりすぎなくらいでちょうどいいんだ。
調べておいて損はないからな!」
リンが笑顔でうなずく。
「これで安心ですねー」
「まだまだ調べることはある。
敵が安全地帯に入ってこないかを確かめたい」
リンがぱんと手を打つ。
「あ! だから分身さんが通路の先へ向かったんですねー!」
「そういうこと。おっ、戻ってきたぞ!」
「敵を吊ってきたぞー」と自律分身。
自律分身の後ろからスケルトンが追いかけてくる。
動きは遅い。
カシャカシャと骨音を鳴らして歩いてくる。
走れば簡単に引き離せるだろう。
自律分身が安全地帯に入ってくる。
しかしスケルトンは追ってこない。
まるで自律分身を見失ったみたいに、部屋の前をうろうろしている。
「ん? こちらが見えないのか?」と俺。
「声も聞こえていないかもしれん」と自律分身。
俺たちは声を落とさず会話している。
しかしスケルトンには認識されていないようだ。
少なくとも、こちらに気づいている様子はない。
スケルトンはしばらくの間こちらを探すような仕草を見せていたが、あきらめたように背を向ける。
「あ、帰ってくっス!」
スケルトンは来た道を戻ろうとしている。
トウコが去っていくスケルトンの背に銃を向ける。
「スキありっス! ……あれ?」
引き金を引き、怪訝な表情を浮かべるトウコ。
銃声はしなかった。
スケルトンも無傷のままだ。
弾が出なかったのだ。
俺はトウコの銃に目を向けながら言う。
「不発か。やはり、安全地帯からは攻撃できないんだな」
トウコが目をむいて言う。
「うぇー? なんでーっ!?
じゃ、これならどうっスか?」
トウコが部屋の外に腕だけを突き出す。
その状態で引き金を引く。
撃鉄が落ち、シリンダーが回転する。
しかし弾丸は発射されない。
これも不発だ。
トウコの銃はスキルで生み出したものだ。
本来、不発弾などあり得ないのだが……。
これはどういうことだ?
トウコがさらに身を乗り出す。
ほとんど体は光の帯の外にある。
もう足だけが安全地帯に残っている状態だ。
「うらっ! んー、出ないっス!」
やはり不発。
そこで、スケルトンが振り返る。
「……クカッ」
トウコに気づいたのだ。
剣を構えて走ってくる。
「戻れトウコ。体を引っ込めろ!」
「りょっ!」
トウコが全身を光の帯の中に戻す。
俺は刀を構える。
いつでも迎撃できるよう身構えておく。
しかしスケルトンは通路で足を止めた。
その場できょろきょろと左右を見回している。
ふむ。
部屋には入ってこないか。
スケルトンは興味を失ったように、こちらに背を向ける。
「なるほどな。
安全地帯にいるとこちらを認識しなくなるのか」と俺。
「クローゼットダンジョンの階段とは違うようだ」と自律分身。
俺は自律分身の言葉にうなずく。
「俺のダンジョンなら階段から攻撃できる。
こういう場合、中まで追ってくるよな」
クローゼットダンジョンの階段は半安全地帯だ。
敵は階段を認識していない。
隠れていれば気づかれないので安全に休める。
しかし進入禁止ではない。
階段から攻撃をしかければバレるし、戦闘中に階段へ逃げ込んでも追いかけてくる。
だから、階段は完全な安全地帯とは言えない。
一方的な攻撃はできないのだ。
ちゃんと対策されていてチート行為はできない。
でも、俺のダンジョンにも完全な安全地帯がある。
ボス部屋の前後にある部屋がそれだ。
地図にも安全地帯と明記されている。
階段とボス部屋に挟まれているから、敵を部屋の中から攻撃する機会はない。
ボス部屋に入ると大扉が閉まるからズルはできない。
見た目も違う。
ここにあるような光のエフェクトはない。
だから見ただけでは安全地帯だとわからないんだよな。
かなり似た仕組みだが、ルールや見た目は違っている。
「これは混乱しそうだな」と俺。
「ああ、ダンジョンごとの違いに気をつけよう」と自律分身。
「はーい」
「りょー」
この安全地帯は、俺のダンジョンのものより便利に使えそうだ。
リアル・ダンジョンでは、安全地帯は光の帯に囲まれている。
敵は入ってこないし、中を認識しない。
気づかれた状態で逃げ込んでも追ってこない。
しかも復活機能までついている。
これは朗報だね!




