階段は安全地帯か?
合流した俺たちは螺旋階段を見下ろしている。
床にぽかりと空いた薄暗い穴から階段が続いている。
ひゅうひゅうと空気が流れ出てくる。
少し不気味な雰囲気。
トウコがぴょこぴょこ跳ねながら言う。
「なに浸ってんスか店長!
はやくはやくーっ」
やれやれ。
せっかく新しいダンジョンの雰囲気を噛みしめてたってのに。
まあ、まだ一階層だ。
こんなところで足を止める意味はない。
「ん、そうだな。じゃ、いくか」
「はーい。魔力はまだまだ大丈夫です!」
「弾もオッケーオッケーっス!」
「俺ももう一階層くらいは行けそうだ」と自律分身。
【自律分身の術】の効果時間もまだ大丈夫だろう。
俺を先頭にして階段に入る。
「ん、足元に気をつけろよ。
落ちたらやばいかもしれん」
円形の穴の外周から内側に向けて足場が伸びている。
足場は長さ一メートル、幅は五十センチ程度。
石材で、充分な厚みがありそうだ。
当たり前だが手すりなどはない。
この階段には壁掛け松明が設置されていないので薄暗い。
「なんか深そうっスね」
「俺には下が見えない。見えるか?」と自律分身。
自律分身には【暗視】がない。
階段には霧のようなモヤが立ち込めていて見通しが悪い。
「いや、暗視を使っても見えないな」
「モヤモヤしてるっス!」
「リン、弱めにファイアボールを撃ち込んでみてくれ」
俺の言葉にリンが手を突き出して答える。
「はーい。ファイアボール!」
ぼっと、手のひらの前に小さな炎が生まれる。
火球が放たれ、ゆっくりと飛んでいく。
炎が階段を照らす。
だんだん奥が見えてくる。
かなり深さがあるようだ。
俺のダンジョンの階段よりずっと長く続いている。
トウコが階段の途中を指差す。
「あっ。あそこスケルトンがいるっス!」
「へえ。階段に敵がいるのか」と俺。
足場にスケルトンが脱力した姿勢で立っている。
両手をだらりと下げ、肩を落としてうつむいている。
飛んでいく火球には反応を示さない。
寝ているのかな?
骸骨って寝たり起きたりするんだろうか。
「俺のダンジョンと違って階段は安全じゃないらしい」と自律分身。
「そうみたいですねー。
あっ! 底が見えてきましたー」
火球が床に着弾して燃え上がる。
床は平坦。足場は悪くなさそうだ。
もやを通して人影が見える。
骨影と言ったほうがいいか。
スケルトンらしき姿が二体。
この二体は燃え上がる床に反応を示した。
さすがに近くで炎が燃え上がれば気になるか。
武器を構えて動き回っている。
炎が消えて、床のスケルトンが見えなくなる。
「足場が限られた場所で戦うのは面倒だけど……」
「そこであたしがバババーンっス!」
トウコが拳銃を構えて引き金を引く。
吹き抜けの階段に銃声がこだまする。
弾丸は脱力姿勢のスケルトンに命中。
脳天をぶち抜き、塵へ変える。
「風情もなにもあったもんじゃないな……」
冒険とかスリルとか、そういうのがさ。
「射線が通ったところでサボってちゃダメっスよ!」
「まあ、そうだな」と自律分身。
骸骨さんはファンタジーの住人だからな。
銃でぶち抜かれる想定はないだろう。
弓への警戒もないから同じことか。
低階層のスケルトンがキビキビと動いてたら困る。
このくらいでちょうどいいのか。
トウコが目の上に手でひさしを作って、下をのぞき込む。
「床の奴はこっからじゃ狙えないっスねー」
もやのせいで視界が悪い。
松明でも投げ落とせば狙えるだろうが……。
トウコがどんどん身を乗り出していく。
危ないっての!
俺はトウコのベルトを掴んで引き戻す。
「あんまり身を乗り出すな。落ちるぞ!」
「へーい」
リンが手を下に向けて構える。
「じゃあ、下のスケルトンさんは私が倒しちゃいますねー」
「おう。頼む」
リンが火球を放つ。
今度の火球は先ほどと違って速い。
命中。
スケルトンが燃え上がる。
階段の底が明るくなる。
トウコがそこへ銃を向ける。
「んじゃ、もう一匹もーらいっ!」
トウコがもう一体の頭部を撃ち抜く。
命中。頭蓋骨が砕け散る。
「安全になったな。進もうか」と俺。
「少し拍子抜けするよな、俺」と自律分身。
不安定な足場を戦って切り抜ける……。
普通ならそういうシーンだろ。
身軽な忍者の活躍の場だっていうのに。
まったく、風情もへったくれもないぜ!
ご意見ご感想お気軽に! 「いいね」も励みになります!




