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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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階段は安全地帯か?

 合流した俺たちは螺旋(らせん)階段を見下ろしている。

 床にぽかりと空いた薄暗い穴から階段が続いている。


 ひゅうひゅうと空気が流れ出てくる。

 少し不気味な雰囲気。



 トウコがぴょこぴょこ跳ねながら言う。


「なに浸ってんスか店長!

 はやくはやくーっ」


 やれやれ。

 せっかく新しいダンジョンの雰囲気を噛みしめてたってのに。


 まあ、まだ一階層だ。

 こんなところで足を止める意味はない。


「ん、そうだな。じゃ、いくか」


「はーい。魔力はまだまだ大丈夫です!」

「弾もオッケーオッケーっス!」

「俺ももう一階層くらいは行けそうだ」と自律分身。


 【自律分身の術】の効果時間もまだ大丈夫だろう。



 俺を先頭にして階段に入る。


「ん、足元に気をつけろよ。

 落ちたらやばいかもしれん」


 円形の穴の外周から内側に向けて足場が伸びている。


 足場は長さ一メートル、幅は五十センチ程度。

 石材で、充分な厚みがありそうだ。


 当たり前だが手すりなどはない。


 この階段には壁掛け松明が設置されていないので薄暗い。


「なんか深そうっスね」

「俺には下が見えない。見えるか?」と自律分身。


 自律分身には【暗視】がない。

 階段には霧のようなモヤが立ち込めていて見通しが悪い。


「いや、暗視を使っても見えないな」

「モヤモヤしてるっス!」


「リン、弱めにファイアボールを撃ち込んでみてくれ」


 俺の言葉にリンが手を突き出して答える。


「はーい。ファイアボール!」


 ぼっと、手のひらの前に小さな炎が生まれる。

 火球が放たれ、ゆっくりと飛んでいく。


 炎が階段を照らす。

 だんだん奥が見えてくる。


 かなり深さがあるようだ。

 俺のダンジョンの階段よりずっと長く続いている。



 トウコが階段の途中を指差す。


「あっ。あそこスケルトンがいるっス!」

「へえ。階段に敵がいるのか」と俺。


 足場にスケルトンが脱力した姿勢で立っている。


 両手をだらりと下げ、肩を落としてうつむいている。

 飛んでいく火球には反応を示さない。


 寝ているのかな?

 骸骨って寝たり起きたりするんだろうか。


「俺のダンジョンと違って階段は安全じゃないらしい」と自律分身。

「そうみたいですねー。

 あっ! 底が見えてきましたー」


 火球が床に着弾して燃え上がる。

 床は平坦。足場は悪くなさそうだ。


 もやを通して人影が見える。

 骨影と言ったほうがいいか。

 スケルトンらしき姿が二体。


 この二体は燃え上がる床に反応を示した。

 さすがに近くで炎が燃え上がれば気になるか。


 武器を構えて動き回っている。

 炎が消えて、床のスケルトンが見えなくなる。



「足場が限られた場所で戦うのは面倒だけど……」

「そこであたしがバババーンっス!」


 トウコが拳銃を構えて引き金を引く。

 吹き抜けの階段に銃声がこだまする。


 弾丸は脱力姿勢のスケルトンに命中。

 脳天をぶち抜き、塵へ変える。


「風情もなにもあったもんじゃないな……」


 冒険とかスリルとか、そういうのがさ。


「射線が通ったところでサボってちゃダメっスよ!」

「まあ、そうだな」と自律分身。


 骸骨さんはファンタジーの住人だからな。

 銃でぶち抜かれる想定はないだろう。

 弓への警戒もないから同じことか。


 低階層のスケルトンがキビキビと動いてたら困る。

 このくらいでちょうどいいのか。


 トウコが目の上に手でひさしを作って、下をのぞき込む。


「床の奴はこっからじゃ狙えないっスねー」


 もやのせいで視界が悪い。

 松明でも投げ落とせば狙えるだろうが……。


 トウコがどんどん身を乗り出していく。

 危ないっての!


 俺はトウコのベルトを掴んで引き戻す。


「あんまり身を乗り出すな。落ちるぞ!」

「へーい」


 リンが手を下に向けて構える。


「じゃあ、下のスケルトンさんは私が倒しちゃいますねー」

「おう。頼む」


 リンが火球を放つ。

 今度の火球は先ほどと違って速い。


 命中。

 スケルトンが燃え上がる。

 階段の底が明るくなる。


 トウコがそこへ銃を向ける。


「んじゃ、もう一匹もーらいっ!」


 トウコがもう一体の頭部を撃ち抜く。

 命中。頭蓋骨が砕け散る。


「安全になったな。進もうか」と俺。

「少し拍子抜けするよな、俺」と自律分身。


 不安定な足場を戦って切り抜ける……。

 普通ならそういうシーンだろ。


 身軽な忍者の活躍の場だっていうのに。

 まったく、風情もへったくれもないぜ!

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