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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
一章 ステイホームはダンジョンで!

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絡まれ上手と正義マン その2

「おい女! 待ちやがれ!」


 走り去るオトナシさんを、男が追いかけようとする。

 それを許すわけにはいかない。


 その首根っこをつかんで、後ろに引き倒す。

 男はぐえ、と間の抜けた声を上げて、後ろに倒れこむ。


「待つのはお前だ。相手は俺だ。望み通り遊んでやるよ。俺も仕事がなくてヒマなんだ!」

「こいつ!」


 もう一人の男が動く。

 拳を固め、殴り掛かってくる。だが、こちらも大ぶりだ。

 俺は両腕で顔面をガードしながら屈みこむ。


 俺の腕が男の拳を弾く。

 俺は低い体勢で、相手の顔面はガラ空きだ。

 そのまま、立ち上がる勢いで頭突きを食らわす。


 前のめりの男は避けられない。


 ごきっと嫌な音が響いて、男は鼻から盛大に鼻血を吹き出す。


 頭突きというのは自分も怪我をしそうだが、同じだけのダメージを受けるわけではない。

 硬い部分で相手の弱い部分を狙う。

 額で相手の顔を狙うのだ。硬さが全然違う。

 漫画か何かで読んだ知識だけど、結構使えるものだ。


 でもやっぱり、けっこう自分も痛い。

 漫画の主人公みたいに格好よく決まるわけじゃあないんだな。

 それでも、相手のほうがダメージは大きいから良しとする。


「いってえええ! ざ、ざけやがって!」


 顔を押さえて男はうずくまっている。

 アスファルトの上に、ぼたぼたと血が落ちる。


 これは正当防衛だ。

 先に手を出したのは相手。飲酒して女性に暴力を振るおうとするような奴だ。


 そう思いながらも、少しの罪悪感がわき上がる。


 ゴブリンを殴るのとは違う。


 どうしても倫理観が邪魔をする。いや、歯止めをかけてくれている。

 相手は人間だ。

 そんな当たり前のことを思い出させてくれる。


「なあ、あんたら。いったん冷静になって話し合わないか?」


 俺は両手を広げて、和解を持ちかける。

 ちょっと熱くなってしまったが、戦う理由はない。


 だが、相手は怒り狂っている。

 俺の言葉など聞こえていないかのように、わめき立てている。


「やりやがった! こいつ、お終いだよ。もうゆるされねェ!」

「かこめ! 同時にかかれ!」


 まあね、無理だよね。

 わかってた。わかってたさ。


 人間らしい話し合いは望めない。


 先ほど引き倒した男はいつのまに立ち上がっている。

 もう一人も鼻血を手の甲で拭いながら、やる気十分だ。


 一人目が動き、続いて鼻血男も逆側から殴り掛かってくる。

 一人目の拳。腕でガードする。

 二人目はガードの外側から殴り掛かってくる。

 俺はこれを避けられない。なんとか身体をひねる。


 拳が頬を捉える。鈍い痛み。


「痛っつうー」


 痛い。けど、大したことはない。

 体勢を変えて衝撃を逃がしたおかげで、避けきれないまでもダメージは小さい。


 勢いづいた男がわめきちらす。


「正義マンかよおめえはよ! ヒマこいてしゃしゃり出てきてんじゃねえぞ!」


 たしかに、俺はおせっかいなしゃしゃり野郎だ。

 正義のためとは言わないけど、知り合いのために戦うことはできる。


 そしてヒマなんだ。

 明日の仕事の心配もない。


 無敵の人である。

 そう、会社に迷惑をかけるとか、社会的な立場なんて考える必要はない。

 失うものがないって強い。


 そう思うと、おかしくなってくる。

 笑いすらこみ上げる。


「ヒマね……。たしかに。いやあ、仕事ないっていいよなあ……。会社にメイワクもかからないしさ! どうなってもかまわねえもんな!? お前らもそうだろ? 失うもんなんかないんだ!」


 殴られた口の中が切れて、血が (したた)る。

 俺は大声を上げ、両手を広げて男たちに歩み寄る。


 血を(したた)らせながら満面の笑顔を浮かべる俺はさながら狂人だ。

 別に狂っちゃいない。

 自分で自覚できているんだから、冷静だ。


 相手にどう見えるかを意識しながら、じりじりと男たちに近づく。


「な、何いってんだコイツ!?」

「酔っ払ってんのかァ?」


 男たちは、変なものでも見るように俺を見ている。

 俺はヘラヘラと笑いながら詰め寄っていく。


「いやあ、こんなご時世で仕事がなくてさあ! クビにされてさ! 明日も明後日もやることないんだわ。あっはっは!」


 やけくそである。

 自分の境遇が思い出されて、なにやら腹も立ってくる。


「げ、頭がどうかしてんのか、おっさん……」

「関わるとヤベぇヤツだ……」


 男たちはドン引き状態だ。

 お互いに顔を見合わせながら、腰が引けている。


「というわけで未来ある若者とこぶしで語り合うのも悪くないよな!」


 狂気的な笑みに顔をゆがませて、両手を広げて近づいていく俺。


「はっはっは! なあ、遊んでくれよ! お互いヒマだろ? 殴り合って友情を確かめ合おうぜ!」

「いや……どうする?」

「おい、ほっといて帰ろうぜ? ヤベぇって……」


 じりじりと撤退を始める若者。

 その顔には恐怖がにじんでいる。


 そこに、凛とした声が響く。


「ここです。おまわりさん! こっちですっ!」


 オトナシさんの声だ。

 それで、男たちは撤退を決めたようだ。


「やべ! 逃げるぞ!」

「やってられっか!」


 男たちはもつれる足で逃げていく。


 やれやれ。いなくなってくれた。

 俺もこの場にいるのはよくない。


 というか、俺が一番の不審者だ。


 暴行事件の関係者として警察に睨まれたくはない。

 不審な工具やら持ち歩いているところだし……。


 言い訳できないくらい怪しい。怪しすぎるぞ、俺。


 どうするべきか思案していると、物陰からオトナシさんが現れる。


 警察は……いない。

 実際には呼んでいない、のか?


「クロウさん、無事でよかった。はー。ドキドキしました。騙されてくれましたね、彼ら。警察は呼んだフリです。呼んでもすぐには来てくれませんし……」

「あ、そうなんですね。助かった。むしろ警察が来たら俺が逮捕されかねませんでしたからね」


 興奮した様子で語るオトナシさんは、上気して顔が赤い。

 演技か。なかなか役者じゃないか。機転が利いている。

 平和な日本とはいえ、呼んですぐに警察が来るわけじゃない。早いと思った。


 とりあえず、コンビニを離れる。

 あいかわらず、コンビニの店員はこちらをうかがっている。


 このコンビニは当分使わないようにしよう。

 顔を覚えられていると面倒だし、また男たちと鉢合わせるのもイヤだ。


 普段使うコンビニではないので問題はない。

 家から歩ける範囲ではあるけど、ちょっと遠いからだ。


「そういえば、オトナシさんは何でこんな遠くのコンビニへ?」

「あー。その。トイレが……じゃなくて。トイレットペーパーがなくなってしまいまして……」


 俯いてしまうオトナシさん。

 噛んだね。恥ずかしがるところも可愛い。


「ああ、コンビニ巡りしてたんですね。トイレットペーパー、ホームセンターでも売り切れてましたよ」


 外出を自粛したくても、必要なものがないから買いに出るという悪循環。


 とうぜん、通信販売でも売り切れているのだ。

 足を使って入荷直後を狙うしかない。


「ですよね……。どこも売ってなくて困ります」

「ウチに少しあるので、分けましょうか?」

「ほんとですか? やった! 助かります!」


 小さくガッツポーズするオトナシさん。胸が揺れる。

 というか、歩いているだけでもふわんふわんしている……!

 なんというけしからんスタイルッ……!


 魅了(チャーム)スキルでも発動しているのか?

 いや、挑発(タウント)スキルか?


 目が引き寄せられて離せない。


 バカな……。ダンジョン外ではスキルは無効なはず!

 レジストしろ! 耐えろ! 忍べ俺!


 意志の力を総動員して目をそらせ!


 このままでは状態異常にかかってしまうぞ……!?


 俺は切れた口の痛みを意識する。


 ……耐えた(レジスト)


 あ、危ないところだった。

 なんとか目をそらし、平静を装って答える。


 目を見ろ、視線を下げるな……。

 女子の察知スキルは高いと聞くからな。


「ああ……もらってくれたらトイレットペーパーも喜びますよ」

「なんですかそれー。あはは」


 そんな、くだらない話をしながらアパートまで帰る。


 しかし、話の内容はほとんど頭に入っていなかった。

 理性と欲望の戦いに精いっぱいだったからだ。


 ダンジョンのモンスターより暴力的な男たちより、よほど破壊力あるぜこの子は!

この物語はフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。

助けを求める人は助けてあげて欲しいですが、自身の安全と法令順守でお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、呼ぶべきものは呼べよ 強姦未遂、殺人未遂で被害届出すっていえよと
[一言] よし、ぽえぽえっぽい割に機転がきくな(//∇//) 警察を呼びました、おまわりさん、こっちです ない~す(//∇//)
[一言] ダンジョンアパートなのかな
感想一覧
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