復活ありダンジョンの意外な落とし穴!?
リヒトさんにメッセージを送り、返事を受け取った。
返事をリンと肩を並べて読む。
「ふーむ。安全地帯に入るとそこが復活場所になるのか」
「リヒトさんはセーブポイントって呼んでいるみたいですね」
「だけど、それらしい場所はなかったよな?
見落としたか?」
「私も気づきませんでしたー」
だとすると、俺たちはまだ復活できない。
セーブポイントを見つけていないからだ。
一階層でやられる可能性は低いけど、危ないな。
「セーブポイントに入ると復活場所として記録される。
その後で死ぬと、直前のセーブポイントで復活する。
なるほど……これはマズいな」
「えっ? なにかいけないんですか?」
リンは不思議そうに首をかしげている。
ゲームでよくある自動セーブだ。
しかし……。
「復活するのは前のセーブポイントだ。
仕切り直しがきかないんだよ」
「あ! わかりました!
ダンジョンの中で復活しちゃうんですね!」
「そうだ。
ダンジョンの奥で、詰んだ状況でセーブされたとしたらマズいだろ?」
「はい。
あ……メッセージにも書いてありますね!」
リンが管理コンソールを指差す。
詳細がメッセージの後半に書かれている。
「やっぱりな。
危険な場所で復活して、そこから移動できなくなったんだ」
「それは困っちゃいますね……」
リヒトさんはこう書いている。
――ボス戦で仲間が一人倒れました。
――生き残りでボスを倒し、セーブポイントを更新しました。
――しかし倒された仲間は前のセーブポイントが記録されたままです。
――彼はそこで復活しています。
――前のセーブポイントは遠く、合流は絶望的です。
「うわ。これはひどいな!」
「なにかおかしいんですか?」
おかしいわけじゃない。
不親切なんだ。
ゲームなら、ボスに負けてもすぐに再戦できる。
ボスと戦う前にセーブポイントがあるのが普通だ。
しかし『リアル・ダンジョン』は違う。
ゲームじゃないんだからな。
「意地が悪いんだよ。
ゲームならボス戦の前でセーブできるようになっている。
これじゃあ、連続してボスに挑むことはできない。
前のセーブポイントからやり直しだ」
リンが納得顔でうなずく。
そのあと、表情を曇らせる。
「ああ、大変です!
もしも、一人だけやられちゃったら……」
「一人だけ、一つ前のセーブポイントに戻る。
仲間がいないと突破できない難易度だったら、セーブポイントから出られなくなる」
パーティ戦を前提とした難易度のダンジョンを一人で進むのは無謀だ。
「それなら、リヒトさんが戻ってあげれば……」
「そうだな。続きを読んでみよう」
――戻って救出するという意見も出ました。
――僕はその意見を退けました。
――正論を並べて意見を通したんです。
――戦力が足りない。物資が足りない。余力がない。
――勝ち目が薄い。
――仲間は納得できないまでも、受け入れてくれました。
――仲間を置き去りにするための言い訳です。
――僕にも、仲間にもそれはわかっていました。
――僕たちはボスを倒しましたが、ギリギリの戦いでした。
――主力メンバを欠いたまま、来た道を戻ることは不可能です。
――全滅は免れません。
――もし僕たちが死んでデスペナルティを受ければ、次の救出がより困難になります。
――そうして僕たちは帰還しました。
――仲間は……まだダンジョンに取り残されています。
――一人で助けを待っています。
――僕たちは今、彼を救出する準備を整えています。
――これには少し……いえ、かなり時間がかかる見通しです。
――もしクロウさんが『リアル・ダンジョン』に挑むなら安全地帯に注意してください。
――浅い階層では問題ありませんが、深い階層ではそれ自体が危険な罠になります。
俺は渋い表情で言う。
「ううむ……。
たぶん、ボス部屋の先にセーブポイントと帰還モノリスがあったんだな。
戻る余力がなかったから、セーブポイントを更新して帰ったのか」
つらい決断だ。
だが正しい。
感情に任せて助けに行っても共倒れするだけ。
そうなれば状況はもっと悪くなる。
リンが首を振る。
「他に、どうしようもなかったんでしょうか……!」
「引き返しても助けられないと判断したんだろう」
その場で死ねば前のセーブポイントに戻れたはずだ。
引き返せないわけじゃない。
だが、それをすると詰む。
デスペナルティで弱体化した状態では脱出できないかもしれない。
リンが辛そうに言う。
「なんだか、ひどいダンジョンですね……」
「ああ。俺たちも気をつけよう」
彼らの状況はわかった。
今、こちらにできることはない。
リンが自分の体を両腕でかき抱く。
その体は不安そうに震えている。
「もし……。
もしも、ゼンジさんやトウコちゃんが取り残されちゃったら……。
一人きりで置いていかれちゃったらと思うと……」
「リン……」
俺はリンの肩に手を置く。
そして自信満々に聞こえるように努力して声を出す。
「もちろん置いていったりしない!
すぐに助けに行くさ!」
リンがうなずく。
そして決意のこもった眼を俺に向ける。
「はい……。
私も、ゼンジさんがやられちゃったら、すぐに助けに行きますから!」
リンはそうする。
迷うことなくそうするだろう。
すべてをかなぐり捨てて俺を助けるために突き進んでくるだろう。
だけど、それは危険だ。
そうなれば二重遭難だ。
ミイラ取りがミイラになってしまう。
「俺はリンを信じていくらでも待てる。
だから無理はせず、ちゃんと対策を立てて挑むんだ」
「でも……」
「いつも通り、安全第一だ。
じっくりやろう」
「はい。そうですね!」
復活は便利だが、状況によっては危険を伴う。
最初から死なないのが一番だ。
このダンジョンも安全第一で進む。
そうすれば、いつも通りだ!
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