公儀隠密のご意見番?
問題が起きた場合、公儀隠密のご意見番に頼るらしい。
「その人は御庭の上司なのか?」
「うーん。近いかな。
上司とか師匠というと嫌がるんだけどね」
「なら、俺からも話しておいたほうがいいか?」
面倒ごとを持ち込んだのは俺だ。
直接頭を下げておくのが筋だろう。
御庭が顔を曇らせる。
「うーん。
彼は隠居していてね。
誰にも会いたがらないんだ。
僕が会いに行っても追い返されることが多いし……」
ナギさんが言う。
「……私が行きましょうか?」
心なしかナギさんの表情が硬い。
嫌いな相手なのかな?
「ナギ君を行かせるわけにはいかないよ。
いざというときにはお願いするかもしれないけど」
ん?
ナギさんなら話を聞いてくれるのか。
なら御庭の人望がないんじゃないの。
「なにか都合が悪いのか?」
御庭は困った顔をする。
「ナギ君が行けば爺さんは喜んで話を聞いてくれると思う。
だけどセクハラがね……」
エロじじい枠かよ!?
ナギさんが顔をしかめて言う。
「……話すだけなら我慢できます」
「話すだけでは済まないからね。
困ったものだよ」
「いや我慢て。ダメだろう」
「だから最後の手段なんだ。
本当に困ったときには助けてくれるから、頼りになるんだけどね」
「そうか……。
じゃあいざというときだけ頼むということで」
「うん。いざというときが来ないことを祈るよ」
「そうですね」
御庭とナギさんは神妙にうなずいた。
自律分身から感情が伝わってくる。
【意識共有】の遠隔フィードバックだ。
少し前に警戒や緊張が伝わってきて、今は安堵感だ。
どうやら戦闘が終わったらしい。
ボス個体を倒したかな?
「そろそろ攻略組が戻ってきそうだ」
「クロウ君はそんなこともわかるのかい?」
「ああ、自律分身の能力で……」
【意識共有】について少し説明する。
「じゃあそろそろ引き上げだね。
認識阻害が絡むような話はもうないかな?」
「ああ、もうない。
細かい話はあとで詰めよう」
しばらくして皆が帰ってきた。
先頭を走っているのはトウコだ。
「ただいまーっス!」
「おう!」
俺は頭から突っ込んできたトウコを手で受け止める。
リンがその後に続く。
もちろん突っ込んできたりはしない。
「ゼンジさん。戻りましたー」
「おかえり。
ケガがなさそうでよかった」
「分身さんが守ってくれましたー」
リンが自律分身に笑いかける。
自律分身が言う。
「たいしたことはしてないけどな。
さて、解除してくれ」
「おう。お疲れ、俺!」
術を解除して装備を回収する。
記憶のほうは……。
ふむふむ。
順調に進んだようだ。
サルのモンスターと戦いながら進む。
基本的にサルは木から降りてこない。
近づくと石や木の枝を投げてくる。
リンとトウコが遠距離攻撃すれば楽勝だった。
オカダが不満げにしていたので自律が鎖分銅でサルを引きずり降ろした。
このときコガさんも吸血できた。
ボスは大きなサル。
こいつは地上に降りてきた。
オカダが喜んで前に立つ。
援護なしのタイマンである。
帰路は順調。
記憶はそんなところだ。
オカダの服は乱れ、少し破れている。
「ボスはしとめたぞ!
思う存分殴り合えたぜ!」
「お疲れ。楽しめたならよかったよ。
コガさんも楽しめたか?」
「はい……血も吸えました」
「誰か、ボスの魔石拾ってきたか?」
「あたし持ってるっス!
マズそーっス!」
相性が悪いのか、ボス魔石の性質によるものか。
そういえば吸血鬼は魔石を食べたりしないんだろうか。
二人は【捕食】は持っていない。
【吸血】は魔石に反応するのか?
「オカダとコガさんは魔石がおいしそうに感じたりしないか?」
「しねーな。石がうまいわけねーだろ」
「いえ……」
「そうか。じゃあこの魔石はもらうぞ」
「どうぞー。私も少し拾ってきましたー」
リンがいくつかの魔石を手渡してくれる。
魔石は外に持ち出せない。
ここで有効利用しよう。
【中級忍具作成】を試して――
「ふーむ。
特別な付与効果はないようだな。
じゃあ刀を威力強化しておくか」
材料は自律分身が使っていた普通の刀だ。
クラフトしても悪性ダンジョンから持ち出せる。
中間である悪性ダンジョン領域を通るからだ。
俺のダンジョンとはルールが違う。
御庭が言う。
「皆、ご苦労様。
そろそろ引き上げよう」
「ああ、そうしよう」
俺たちは悪性ダンジョンを後にした。
ダンジョン潰しは順調に終わった。
さあ、帰ってリヒトさんに連絡しよう!
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