防波堤は公儀隠密で!
助けを求める人を疑う。
これはちょっと感じが悪い。
だけど、誰だって家の玄関に鍵くらいかける。
財布を盗まれないようにしっかり持つ。
危機管理……とでも言えるだろうか。
そんなに大げさなものじゃないけど。
よく知らない人を家に上げたりはしないものだ。
たくさんの人間となれば、ちょっと考えて当たり前だ。
ダンジョンが繋がれば、きっと出口も繋がる。
もちろんまだ推測の段階だ。
でもたぶん、そうなるよな。
別世界の住人がクローゼットからこの世界に飛び込んでくる。
平行世界直通便だ。
パスポートもビザもない。
それって大丈夫なのか。
俺が制御できることなのか?
これは難しい。
俺たちはもう、似たことを体験している。
二つの転送門を使った疑似テレポートだ。
これだって、使い方によっては危険だ。
俺はアパートと公儀隠密の拠点の往復にしか使っていない。
ショッピングセンター事件の暴食はこれを犯罪に使っていた。
足のつかない逃走経路だ。
海外に転送門を設置したら無料海外旅行ができる。
リヒトさんのダンジョンと繋げると言うことは、これの並行世界版になる。
そりゃ、慎重にならざるを得ないだろう。
リヒトさんが困っているふりをしていたらどうする?
それを見抜くのは難しい。
これまで、リヒトさんと関わって俺が損をしたことはない。
文通を続けた友人のように親しい雰囲気がある。
でもそれが演技だったら?
初めから悪意を持って接触してきたのだとしたら?
そんなことはないはずだ。
でも絶対じゃない。
うーん。
疑心暗鬼になってしまうな。
もっとこう、シンプルに助けたいものだ。
しかし俺はスーパーヒーローではない。
忍者なのだ。
というか一市民なのだ。
俺は御庭の問いに答える。
「もちろん、その危険性は考慮している。
だけど正直、対策はない。
俺にはリヒトさんを信じることしかできない。
彼らを見捨てれば問題は起きないことはわかっている。
でも、それでも俺は助けたい」
彼らが善人であると証明する方法はない。
信じて裏切られた場合はどうにもならない。
ダンジョン攻略者が何人もいるのだ。
それを俺が武力で止めるのは無理だろう。
個人の力ではどうしようもない。
御庭がうなずく。
「クロウ君ならそう言うと思ったよ。
だから僕に相談しているんだよね?」
特異対策課――公儀隠密は非公式ではあるが国の組織である。
特異対策課にもいろいろある。
公儀隠密の担当はダンジョンと異能者だ。
御庭は公儀隠密のリーダーだ。
「ああ。
独力で対応するのは難しい。
相手が善人なら、一時的な生活の場が必要になると思う。
相手が悪人なら、食い止めなきゃならない」
「うん」
「無理な頼みだとはわかっている。
でも頼む。
ダンジョンの接続をするとき、公儀隠密の拠点を使わせてほしい」
俺のダンジョンの入口は移動できる。
複数の出口があると制御が効かなくなる。
だから出口を絞る。
アパートのクローゼットよりも安全だ。
もしリヒトさんたちが悪人だったとしても、すぐには外に出られない。
御庭が笑顔を浮かべる。
「もちろん使ってくれて構わない。
よく相談してくれたね、クロウ君。
この件はぼくら公儀隠密の管轄だ。
なにしろ、特異から人々を守るのが僕らの務めだからね!」
「いいのか?
かなりの面倒をかけることになると思う」
「いいのさ。
僕が断ってもクロウ君は彼らを助けようとするはずだ。
それなら最初から協力したほうがいい」
「そうか……助かる」
「それに、リヒト君たちに興味がある。
あちらの世界についていろいろと聞いてみたい。
彼らを公儀隠密にスカウトするのもいいね」
「ふむ……仕事と生活の場所が手に入れば彼らも喜ぶかもしれない」
「別に強制はしないよ。
どちらにしても最低限の保護はする。
自由に外に出てもらうわけにはいかないしね」
「そうだな。それも彼らに伝えておくよ」
こちらに来て自由に動き回れると思っているかもしれない。
そんなにシンプルにはいかないことは先に伝えておかねば。
ここまではリヒトさんたちが善人だった場合だ。
俺は表情を引き締めて言う。
「もし彼らが悪人だった場合、拠点が戦場になるかもしれない。
その場合、相手はかなり手ごわいぞ」
「交渉が通じなければ僕ら公儀隠密が抑える。
それでもダメなら別の対策を打つよ」
「別の対策?
他の組織を頼るつもりなのか?」
キリトがいる特異殲滅課とか?
頼んだら来てくれるのかな?
並行世界のダンジョン保持者だと言ったら喜んで殲滅しにきそう。
ついでに俺もやられそう。
怖い。
御庭が言う。
「別の組織に頼るのはもっと後だね。
頼るのは身内というか、ご意見番のような人だ。
気難しいから、動いてくれるかはわからないけどね」
へえ。
そういう人がいるのか。
御庭は微妙な表情を浮かべている。
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