勘のいいヤツは危険だよ!?
悪性ダンジョンの中。
御庭の横にはナギさんが控えている。
「さてクロウ君。
ここなら話ができる。
なんでも相談して欲しい。
できることなら協力するよ」
「助かる。
急に無理言ってすまないな、御庭」
「いいんだよ。
ついでに仕事も片付くしね!」
話をするために悪性ダンジョンへやってきたのだ。
ダンジョンへの対処もついでに行う。
トウコとリンが言う。
「んじゃ店長! 行ってくるっス!」
「ゼンジさん。またあとでー」
装備を持たせた自律分身が言う。
「行ってくるぞ、俺!
奥で何かあったら連絡するから心配するな」
「ああ。頼むぞ俺!」
オカダが俺の背をバンバンと叩く。
気安い!
「ゼンゾウ!
誘ってくれてサンキュー!
俺たちもひと暴れしてくるわ!」
「おう」
オカダが走っていく。
「あっ……では、いってきます」
コガさんがぺこりと頭を下げ、オカダの後をついていく。
奥へ進む一行に手を振って見送る。
俺は同行しないが、戦力は充分だろう。
俺は御庭に向き直る。
「それで、本題だが……」
御庭に相談を持ちかけたときに、かなりボカした内容を伝えている。
重要な情報を濁して意味を伝えるのは難しい。
歯切れが悪く、抽象的になってしまうのだ。
管理者権限を持つリンに影響があった部分は御庭に話せない。
霊場である公儀隠密の拠点でも話すのは危険がある。
ダンジョンの中でもボカすべきだろう。
俺は御庭に情報を伝えていく。
区切りのいいところで御庭とナギさんが外へ出る。
戻ってきてまた話す。
そのくり返しだ。
リンのときと同じだ。
手間だが、この手順を踏まないと、いつ認識阻害が起きたかわからない。
どの情報で認識阻害が起きたかわからない。
情報をどんどん話してしまうのはマズい。
悪い影響が大きくなってしまう。
御庭は認識阻害を受けると、それが些細なものであっても気づける。
これは異能によるものだ。
自分自身への変化に敏感だからすぐに気づけるという。
御庭が言う。
「問題なかったよ。
クロウ君とリヒト君は並行世界の可能性について考えたんだね。
面白くなってきた!
さあ、続きを!」
「俺たちのダンジョンには管理者権限がある。
段階ごとにできることが増えていく。
三段階目が問題だ」
御庭は興味深そうに俺の顔をじっと見ている。
そして何か分かったような顔でうなずく。
「ふむ。クロウ君は管理者権限が危険な情報だと考えているんだね。
それなら曖昧に話してみて欲しい」
「ああ。
これは管理者権限を持つリンに記憶障害が出た。
リンは一段階目の権限を持っている。
俺は二段階の権限を持っている。
リヒトさんは三段階目だ」
「管理者権限があると認識阻害を受けにくくなると。
続けてくれるかな?」
「三段階目の権限でできることをリヒトさんに頼まれている。
彼と、彼の仲間を助けて欲しいそうだ」
ダンジョン間接続については話さない。
ここで明かすのは三段階目の管理者権限になにかある、という薄い情報だ。
御庭がうなずき、先を促す。
「うん」
「俺はそれを受けたいと思っている」
「受けたいけど、迷っているんだね?」
「そうだ。
助けるために相手側の権限を使う。
俺はそれに同意する。
それがこちら側にどう影響するか不安なんだ」
俺の言葉は少し歯切れが悪い。
「こちら側とは、僕らの世界という意味だね?」
「そうだ」
御庭がうなずく。
「では、一度外に出て確認してくるね。
少し待っていて欲しい」
「ああ、何度もすまないな」
「なに、いいさ」
何度も出入りさせるのは気が引ける。
その度に御庭のリスクが高くなっていくからだ。
何発殴ったら倒れるか試すようなもの。
意識を強制的にいじられるのは気持ちが悪いものだ。
話す俺にも追放のリスクが伴う。
相手が異能者でも程度の問題があるのだ。
だが相談しておかなければならない。
独断で進めるべきじゃない。
相談することで安心したいだけじゃあないぞ?
リヒトさんのダンジョンと接続すれば、その先がある。
繋がるってことは行き来できるってことだ。
リヒトさんたちが、ダンジョンを通じて俺のダンジョンに来る。
その先は?
俺のダンジョンの出口から外に出られるかもしれない。
そうなれば並行世界人であるリヒトさんが、この世界に入ってこれることになる。
滅びた世界から俺の世界への避難完了、というわけだ。
めでたしめでたし。
いや、そうはいかない。
あとはご自由に、と放逐するのは無責任すぎる。
別世界の住人に自由行動を許していいんだろうか。
彼らを安全だと信じていいのか?
彼らをこの世界に入れた場合、もっと複雑な問題もある。
現実的な問題だ。
家も仕事もない彼らが、どうやって暮らすのか。
戸籍や生活基盤をどうにかしなければならない。
こちらの世界のリヒトさんはもういない。
あちらのリヒトさんが成り替わって暮らせるかもしれない。
しかし、リヒトさんには仲間がいる。
こちらの世界に同一人物が存在するケースもあるだろう。
リヒトさんやその仲間が、失った家族や知人に会いたがるかもしれない。
もちろん、こちらの住人からしたら別人だ。
混乱が生じることは間違いない。
しかも、ただの混乱じゃない。
隠蔽の影響を受ける可能性が大きい。
そもそも並行世界人がこの世界に入ったらどうなる?
入った時点でパージされるかもしれない。
記憶を失うかもしれない。
なにもかもが不確かだ。
わからないことが多すぎる。
こんなこと、一人では決められない。
俺が一人で背負える問題じゃない。
もちろん、俺に明確な責任などない。
彼らを入れても法律で罰せられることはない。
そもそも誰も気づかないはずだ。
リヒトさんたちの面倒を見なくたっていい。
そもそも助ける義務もありはしない。
申し出を断ったっていいんだ。
でも助けたい。
助けると決めた。
だから考えている。
助けた先どうするかを根回ししておくんだ。
そこで御庭を頼る。
公儀隠密という組織の力を借りるのだ。
御庭が戻ってくる。
「リヒト君が強い権限でクロウ君に同意を求めている。
クロウ君はこちらの世界に影響があると心配している。
ここまでは問題なかった」
ナギさんもうなずいている。
認識阻害は受けなかったようだ。
「ふう。それはよかった」
御庭が続ける。
「さらに僕はこう考えた。
並行世界の可能性。
クロウ君はこの世界への影響を心配している。
あちらの世界からこちらの世界に何かを行うということだ。
では、なにが起きるのか?
と、そこまで考えたところで認識阻害が起きた」
まだ俺はすべてを話していない。
御庭は情報を扱うプロだ。
俺の表情、口調、そういうものも読み取っている。
察しが良すぎる!
断片から推測しただけで認識阻害が働くのかよ!?
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