二度目の夜は樹上隠密で!
辺りが薄暗くなってきた。
「スナバさん。もうすぐ夜がきますね」
「うむ。クロウ、あそこを見ろ」
スナバさんが恐竜を指差す。
俺は恐竜をまじまじと観察する。
四本足の細身の恐竜だ。
馬くらいのサイズ感。
トカゲのようなウロコ状の肌。
なにより特徴的なのは尻尾だ。
「シッポにトゲが生えた奴ですか?」
「あの個体は樹上までトゲを飛ばしてくる。
察知能力も高い。
優先して倒せ」
「遠距離攻撃持ちですか……」
樹上へ攻撃できる敵とは面倒な。
尻尾の先端にだけ細かな針がびっしりと生えている。
ハリネズミやヤマアラシのような細い針だ。
刺さったら痛そう。
痛いだけじゃすまないだろうけど。
コイツのことをなんと呼ぼうか。
複数人で行動するには共通の呼び名が必要だ。
うーん。
有名な恐竜で似ているものはないかな?
ステゴサウルス……?
あれはもっと大きくてガッチリしているか。
尻尾にスパイクがある点が似ている。
だが、ステゴザウルスのスパイクはもっと太い。
細かい針でなく、太い数本だったはず。
なにより背中に板を持っていない。
ぜんぜん違う。
うーむ。
やはり似ていないな。
「ステゴサウルスとは似ていないし……。
スナバさんはなんて呼んでいるんですか?」
「特に決めていなかったが、トゲを飛ばす恐竜でいいだろう」
「そのままですね」
スナバさんが苦笑を浮かべる。
「いつもは一人だからな。
呼称は必要なかった」
頭の中で呼んだりしないのかな?
俺なら何て呼ぶか。
ハリネズミサウルス?
しっくりこない。
背中には針がないしなぁ……。
ネズミでもないし。
スナバさん風のシンプル名付けにするか。
「そうですか。
じゃあトゲ恐竜、でどうですか?」
スナバさんがうなずき、指を動かす。
「いいだろう。
次だ。
あそこにいる、赤い模様のある個体を見ろ」
「二足歩行で黒い体に赤い縞模様のやつですね」
黒いウロコ状の肌に鮮やかな赤いラインが特徴的だ。
「あれは毒を持つ。
動きは速いが力は弱い」
毒か……。
採取して使えないかな。
「口から毒を出すんですか?」
「噛みつかれると毒が回る。
解毒できなければ数時間で死ぬ。
成長すると毒を吐いて飛ばすが、飛距離は短い」
「成長したかはどうやって見分けるんですか?」
「体が大型化する。
赤い模様がより鮮やかになる」
「毒を採取して使うのはどうですか?」
「扱える自信があるなら試してみるといい」
「スナバさんは毒を使わないんですか?」
「使わない。
レンジャーには毒を扱うスキルがあるが、取得していない。
それに毒を手に入れる機会が少ないからな」
「ああ、毒を集めるのが難しいのか……」
「そういうことだ」
毒を持つモンスターを倒し、その死体から毒を採る。
モンスターは死体を食うので、タイミングが難しい。
そのリスクを冒すよりも隠れ続けたほうがいいんだろう。
毒を扱うなら解毒薬も欲しい。
うっかり自滅したくないしな。
毒消しに使える植物でもあればいいが……。
ほとんど木の上にいるので、植物の採集はできていない。
移動するとき、探してみるか。
「スナバさん。
毒消しに使える植物などはありますか?」
「わからないな。
植物で毒を消せるものなのか?」
「ああ、現実的には無理ですよね。
俺は薬を作るスキルがあるので、素材があれば毒消しが作れると思います」
「それは便利だな。
毒や薬を作るスキルもあるが、取得できていない。
俺が毒を受けたときはどうしようもなかった」
スナバさんの表情は苦々しい。
毒で死ぬのは辛そうだ。
スナバさんは毒関連のスキルを持たない。
薬関連もない。
植物から毒消しを作る発想はないのだ。
現実的には毒を植物由来の成分で打ち消すことはできない。
民間療法で植物を使う場合があるが、直ちに毒を消せるわけじゃない。
もし毒を受けたら、ちゃんとした医療機関にかからないといけない。
とはいえ病院に行けば必ず助かるわけでもないだろう。
ダンジョンにおいても、謎の植物を試すのはリスクが高い。
偶然、解毒効果のある植物が見つかるとは思えない。
毒草があるかもしれないしな。
【毒術】や【薬術】が活躍しそうな予感!
今は毒を採取する余裕はない。
だが、いずれ試したい。
完全に夜になった。
俺たちは無言で樹上に潜んでいる。
「クロウ。少し寝ておけ。
なにかあれば起こす」
言われてみればかなり眠い。
ダンジョンに潜ってから、かなりの時間が経った。
「では、交代で見張りをしましょう」
「ああ、一時間で起こす」
樹上だが、枝は太く安定は悪くない。
少し寒いがなんとか眠れるだろう。
目を閉じるとすぐ眠りが訪れた。
……。
む……。
体を揺すられる感覚で目が覚める。
もう交代の時間になったようだ。
「では交代ですね」
「ああ、頼む」
そういうとスナバさんは腕を組んで目を閉じた。
さて、見張りだ。
と言ってもやることはほとんどない。
あまり動かず、動きがあるのを待つだけ。
ほとんどの恐竜は俺たちに気づかない。
通り過ぎるのを待てばいい。
まれにこちらを見つける個体がいる。
騒ぎそうなら投石で倒して黙らせる。
ヴェロキラプトルのような恐竜が近寄ってくる。
石を投げるか。
いや……一匹じゃないぞ。
群れている。
投石すれば他の個体にバレてしまうだろう。
騒がないならこのままやりすごしたいが……。
近づいてくる個体は、前に戦った個体より少し大きい。
頭をめぐらせ、大きな目をぎょろつかせている。
そいつが俺のほうを見た。
目が合った……気がする。
「ギギ……」
いや、気のせいか。
小型恐竜はふいっと身をひるがえす。
そして俺に背を向け、闇の中へ消えていった。
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