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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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二度目の夜は樹上隠密で!

 辺りが薄暗くなってきた。


「スナバさん。もうすぐ夜がきますね」

「うむ。クロウ、あそこを見ろ」


 スナバさんが恐竜を指差す。


 俺は恐竜をまじまじと観察する。

 四本足の細身の恐竜だ。

 馬くらいのサイズ感。

 トカゲのようなウロコ状の肌。


 なにより特徴的なのは尻尾だ。


「シッポにトゲが生えた奴ですか?」

「あの個体は樹上までトゲを飛ばしてくる。

 察知能力も高い。

 優先して倒せ」


「遠距離攻撃持ちですか……」


 樹上へ攻撃できる敵とは面倒な。


 尻尾の先端にだけ細かな針がびっしりと生えている。

 ハリネズミやヤマアラシのような細い針だ。


 刺さったら痛そう。

 痛いだけじゃすまないだろうけど。



 コイツのことをなんと呼ぼうか。

 複数人で行動するには共通の呼び名が必要だ。


 うーん。

 有名な恐竜で似ているものはないかな?


 ステゴサウルス……?


 あれはもっと大きくてガッチリしているか。

 尻尾にスパイクがある点が似ている。

 だが、ステゴザウルスのスパイクはもっと太い。

 細かい針でなく、太い数本だったはず。


 なにより背中に板を持っていない。

 ぜんぜん違う。


 うーむ。

 やはり似ていないな。



「ステゴサウルスとは似ていないし……。

 スナバさんはなんて呼んでいるんですか?」


「特に決めていなかったが、トゲを飛ばす恐竜でいいだろう」

「そのままですね」


 スナバさんが苦笑を浮かべる。


「いつもは一人だからな。

 呼称は必要なかった」


 頭の中で呼んだりしないのかな?

 俺なら何て呼ぶか。


 ハリネズミサウルス?


 しっくりこない。

 背中には針がないしなぁ……。

 ネズミでもないし。


 スナバさん風のシンプル名付けにするか。


「そうですか。

 じゃあトゲ恐竜、でどうですか?」


 スナバさんがうなずき、指を動かす。


「いいだろう。

 次だ。

 あそこにいる、赤い模様のある個体を見ろ」


「二足歩行で黒い体に赤い縞模様のやつですね」


 黒いウロコ状の肌に鮮やかな赤いラインが特徴的だ。


「あれは毒を持つ。

 動きは速いが力は弱い」


 毒か……。

 採取して使えないかな。


「口から毒を出すんですか?」

「噛みつかれると毒が回る。

 解毒できなければ数時間で死ぬ。

 成長すると毒を吐いて飛ばすが、飛距離は短い」


「成長したかはどうやって見分けるんですか?」

「体が大型化する。

 赤い模様がより鮮やかになる」


「毒を採取して使うのはどうですか?」

「扱える自信があるなら試してみるといい」


「スナバさんは毒を使わないんですか?」

「使わない。

 レンジャーには毒を扱うスキルがあるが、取得していない。

 それに毒を手に入れる機会が少ないからな」


「ああ、毒を集めるのが難しいのか……」

「そういうことだ」


 毒を持つモンスターを倒し、その死体から毒を採る。

 モンスターは死体を食うので、タイミングが難しい。


 そのリスクを冒すよりも隠れ続けたほうがいいんだろう。


 毒を扱うなら解毒薬も欲しい。

 うっかり自滅したくないしな。


 毒消しに使える植物でもあればいいが……。

 ほとんど木の上にいるので、植物の採集はできていない。


 移動するとき、探してみるか。


「スナバさん。

 毒消しに使える植物などはありますか?」

「わからないな。

 植物で毒を消せるものなのか?」


「ああ、現実的には無理ですよね。

 俺は薬を作るスキルがあるので、素材があれば毒消しが作れると思います」


「それは便利だな。

 毒や薬を作るスキルもあるが、取得できていない。

 俺が毒を受けたときはどうしようもなかった」


 スナバさんの表情は苦々しい。

 毒で死ぬのは辛そうだ。


 スナバさんは毒関連のスキルを持たない。

 薬関連もない。


 植物から毒消しを作る発想はないのだ。

 現実的には毒を植物由来の成分で打ち消すことはできない。

 民間療法で植物を使う場合があるが、直ちに毒を消せるわけじゃない。


 もし毒を受けたら、ちゃんとした医療機関にかからないといけない。

 とはいえ病院に行けば必ず助かるわけでもないだろう。


 ダンジョンにおいても、謎の植物を試すのはリスクが高い。

 偶然、解毒効果のある植物が見つかるとは思えない。

 毒草があるかもしれないしな。


 【毒術】や【薬術】が活躍しそうな予感!



 今は毒を採取する余裕はない。

 だが、いずれ試したい。


 完全に夜になった。

 俺たちは無言で樹上に潜んでいる。


「クロウ。少し寝ておけ。

 なにかあれば起こす」


 言われてみればかなり眠い。

 ダンジョンに潜ってから、かなりの時間が経った。


「では、交代で見張りをしましょう」

「ああ、一時間で起こす」


 樹上だが、枝は太く安定は悪くない。

 少し寒いがなんとか眠れるだろう。

 目を閉じるとすぐ眠りが訪れた。


 ……。

 む……。

 体を揺すられる感覚で目が覚める。

 もう交代の時間になったようだ。


「では交代ですね」

「ああ、頼む」


 そういうとスナバさんは腕を組んで目を閉じた。



 さて、見張りだ。

 と言ってもやることはほとんどない。

 あまり動かず、動きがあるのを待つだけ。


 ほとんどの恐竜は俺たちに気づかない。

 通り過ぎるのを待てばいい。


 まれにこちらを見つける個体がいる。

 騒ぎそうなら投石で倒して黙らせる。


 ヴェロキラプトルのような恐竜が近寄ってくる。

 石を投げるか。

 いや……一匹じゃないぞ。

 群れている。


 投石すれば他の個体にバレてしまうだろう。

 騒がないならこのままやりすごしたいが……。


 近づいてくる個体は、前に戦った個体より少し大きい。

 頭をめぐらせ、大きな目をぎょろつかせている。


 そいつが俺のほうを見た。

 目が合った……気がする。


「ギギ……」


 いや、気のせいか。

 小型恐竜はふいっと身をひるがえす。


 そして俺に背を向け、闇の中へ消えていった。

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