遠距離狙撃は弾薬無限で!
「クロウ。少し移動するぞ。血の匂いが濃い」
「はい。敵が少ないのはあっちだと思います」
俺は今も分身を定期的に放っている。
敵を寄せるためと、仲間を探すための判断条件を与えてある。
二人を見つけられる可能性は低いが念の為だ。
分身が帰ってきた方角が安全だとわかるから無駄にはならない。
俺の指さした方向を見てスナバさんがうなずく。
「ああ、そちらがいいだろう」
スナバさんも【探知】で確認したようだ。
移動するとき、スナバさんはゆっくりと動く。
速足くらいの速度で、まったく音を立てない。
足跡すらほとんど残らないほどだ。
太い木を選び、二人で登る。
そして狙撃。
こうしてときおり移動を続けた。
やはりリンとトウコは見つからなかった。
もう倒されていると考えるのが自然だろう。
移動して木に登ってまた狙撃。
その繰り返し。
捜索のためもあるが、敵が集まりすぎるのを避けているのだ。
このダンジョンでは死体が消えるのが遅い。
血の匂いが肉食恐竜をおびき寄せてしまう。
ちなみに草食系モンスターは寄ってこない。
遠目に見かけたが、戦闘にはならなかった。
敵の数が処理しきれなくなると、集まった恐竜同士の争いが起こる。
そうなると、より大型の敵が集まってくる。
これは俺も一人のときに経験している。
そうなる前にその場を離れるのが正解だ。
俺はスナバさんにたずねる。
「ここの敵は捕食を持っているんですか?」
「スキルを持っているかはわからない。
俺には調べる方法がない」
「捕食スキルがあるとモンスターはモンスターを襲うんです。
そういう動きをしていますよね?」
「ああ。
ここのモンスターは別の種類のモンスターを食べて成長する」
「じゃあきっと捕食持ちなんでしょうね……」
「たまに同種を食う個体もいる。
厄介な奴だ。
どんどん成長して、すぐに手が付けられなくなる」
「こうやって隠れていれば、やり過ごせませんか?」
「数日もすると、隠れてもやり過ごせなくなる。
早ければそろそろ現れてもおかしくはない」
「こちらを発見する能力を持った個体ですか……」
これも捕食の結果だろうか。
今でも、隠密を見破る個体はいる。
倒せない強さと、知覚能力を兼ね備えた個体が現れたら……。
「そういう個体に見つかると、たいていそこで終わる」
「そうですか……」
隠密に頼った戦い方は発見されると脆い。
俺もスナバさんも火力は高くない。
スナバさんの弓矢の威力はごく普通の武器の威力だ。
硬いウロコに弾かれることもある。
皮膚の薄い場所や目などを狙ってうまく倒しているのだ。
矢より重い石のほうが有効な場面もある。
スナバさんは攻撃系のスキルは取得していない。
スキルポイントを割り振る余裕がなかったのだ。
隠密系や追跡、探知系に多く割り振っている。
このダンジョンでは、まず隠れないとやられてしまう。
それゆえ、じっくりと機会をうかがって確実に倒す方針なのだ。
レベルを上げてもすぐに死ぬので、なかなか上がらないらしい。
だからスナバさんのレベルは俺たちよりずっと低い。
でも強い。
素の技術で戦う部分が大きいんだな。
今回はスナバさんのレベルは黒字になりそうだ。
俺もレベルが一つ上がっている。
仮にデスペナルティを受けても、マイナスにはなるまい。
足りない威力を補うために矢に【忍具作成】の威力強化をかけてみた。
しかし劇的な結果は望めない。
もともと、少し強化できるだけだ。
敵のタフネスからして、誤差の範囲でしかない。
まあ、塵も積もれば山となる。
一応は付与しておく。
矢は拾って再利用できるし、折れたら再作成の材料にする。
また修理すればいいのだ。
こうして昼の間、狩りが続いた。
二回目の夜が来る。




