ジャングルの戦士は泥雨合羽で!?
「というわけで、スナバさんと合流できたんだ」
「しかし残念っ!
全裸じゃなかったんスね!」
「残念がるな!
俺もスナバさんも服は着てたよ!
スナバさんのは服というよりギリースーツかもしれないけど」
スナバさんが言う。
「草を重ねて紐で縛った程度のものだ。
雨をしのぐために必要だった」
草のレインコートというわけだ。
「顔が泥だらけで、びっくりしましたよ……」
スナバさんが水の中から現れる姿を想像する。
ナイフを口にくわえて、無言でせり上がってくる。
真顔なのが怖い。
スナバさんは淡々と泥コーティングの利点を語っている。
真顔だ。
「泥を塗れば日焼け止めになる。
体臭も隠せるし、寒さもしのげるぞ」
「スナバんは泥推しっスね!」
「服を作る時間がなければ、泥だけでも十分なくらいだ」
トウコがニヤニヤ顔で言う。
「全裸泥っ! これは新ジャンルっス!」
「なんのジャンルだよ!?」
スナバさんが淡々と続ける。
「グラデーションをつけて塗れば迷彩効果もある。
次はやってみろ」
合理的である。
別にスナバさんが泥推し、泥マニアなわけではないだろう。
マジメに語ってるのがなんか面白い。
しかしリンは若干ひいているようだ。
まったく乗り気でなさそうに言う。
「そ、そうなんですねー」
まあ、やってみろと言われてもね。
女子力下がりそうだよね。
いや、どうだろう。
泥パックはお肌にいいかもしれないぞ。
見た目的にもアリかもしれない。
綺麗な肌を覆うヌメヌメした泥。
肌に模様がつくことで立体感が増す。
汚れた感じが背徳的だ。
見てみたい気が……。
いや、違う!
想像で新ジャンルを開拓している場合ではない!
俺は言う。
「隠密の効果が高まるならやってみようかな。
見た目はちょっと微妙ですけどね。
新手のモンスターだと思って逃げそうになりましたよ」
「俺のダンジョンに人型のモンスターはいない」
素の返しが来た。
冗談通じないな。
ジャングルっぽくても人型の捕食者はいないらしい。
赤外線視覚を持っていて人間狩りをする忍者っぽいヤツ。
泥で熱感知を欺けるかもしれないが、立ち向かう勇気はない。
いないなら安心だ。
トウコが言う。
「でも妖怪アマガッパは居たみたいっス!」
妖怪雨合羽?
聞き覚えがない。
ありそうだけどない。
「そんな妖怪いたっけ?」
「今考えたっス!
泥ガッパでもいいっスね!」
「やめろ!
ヘンなあだ名をつけるんじゃない!」
泥アマガッパ呼ばわりはさすがに失礼だろ!
相撲で泥沼に引き込まれるぞ!
怒らせたらホントに沼に沈められそうだ。
口に出していじることは控えよう。
スナバさんが少し黙る。
あ、いかん。
さすがにスナバさんの話だとは気づくよな。
「……それで、話の続きはどうする?
合流したあとのことは俺から話すか?」
よかった。
怒ってないようだ。
というか、怒ってもいいと思う。
ほとんど心の中だけだが、俺も調子に乗ったかもしれん。
俺はスナバさんにマジメな顔を向けて言う。
「それなら、合流前の部分から話してもらえますか?」
「いいだろう。では――」




