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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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目印は打ち上げ花火で!

「俺は樹上で朝を待つことにした。

 そのとき遠くで花火が上がるのが見えた。

 リンの話に出てきたファイアボールだな。

 それを見て、合図だと思った。

 俺は木を降りて闇の中を走って――」



 夜空に浮かぶ花火はすぐに消えてしまった。

 木々の間からなんとか見えたが、かなり遠い。


 わかったのはだいたいの方向だけ。

 正確な距離もわからない。


 合図をしたということは、なにかあったのだ。

 なら行くしかない。


 俺は木から地面に降り立つと、花火の方向へ走り出す。



 夜の森を走る。

 枝が顔を打ち、足や腕に引っかき傷がつく。

 冷たい空気を押しのけるようにして走っていく。


 側面に気配を感じる。

 目を向けるとそこには小型の肉食恐竜が並走していた。


「ギィィ!」


 血走った大きな目が月明かりを受けて光る。

 まるで俺を睨んでいるかのようだ。

 段々とこちらへ近寄ってくる。


 戦っている暇はない。

 俺は走る速度を上げ、コースをわずかに変えて距離を取る。


 恐竜も足を速めて追いすがってくる。

 目の前に茂った下草が見える。

 迂回するには速度を緩めなければならない。

 それでは追いつかれてしまう。


 俺はタイミングを計り、地を蹴って跳びあがる。

 空中を蹴って高さを稼ぎ、まるでハードル走のように飛び越える。


 ふわりとした浮遊感。

 かなりの高さからの着地だ。

 視界は暗いが、なんとか足元は見える。


 地面が迫る。

 着地の衝撃を前進する力に変え、足を止めずに走り続ける。


「ギギィーッ!」


 背後で小型恐竜の甲高い叫びが聞こえる。

 がさりと茂みに突っ込む音が聞こえたが、俺は振り返らない。


 そのまま恐竜を後に残して走り続ける。

 奴が茂みを迂回してきても、もはや追いつけまい!


 そう考えて走り続ける。

 背後に気配はない。

 引き離したようだ。


 だが、まだいる。

 横から音が聞こえてきた。

 置き去りにしたはずなのに、また側面に回られたのか?


 何本かの木々を挟んで、並走している影がある。

 目を凝らすとその姿が見えた。

 やはり、二足歩行の小型恐竜だ。


 さっきと同じ個体か?

 別のルートからショートカットしてきたのか?

 いや、違う。


 回り込めるはずがない。

 俺はほとんど道なき道を突っ切るように進んでいる。

 最短距離を最大速度で走っているのだ。


 となれば、こいつは最初とは別の個体だ。

 二匹目だ。


 偶然か?

 そうかも知れない。


 なりふり構わずに走っているのだ。

 別の敵に見つかった可能性はある。


 俺は再び速度を上げる。

 俺のほうが足は速い。

 こいつも振り切ればいい!


「ギィィ……!」


 背後で恐竜が悔しげにも聞こえる鳴き声をあげた。


 走りながら振り返って確認する。

 距離が離れていく。


 よし!

 このまま振り切れる!


 俺は視線を前に戻す。


 がさりと草が揺れるのが見えた。

 それと同時に肌がぞわりと泡立った。


 危険察知が何かを知らせている!


 なにか潜んでいる!


 俺は走る向きを変えようとする。

 しかしそれよりも、茂みから小型恐竜が飛び出してくるほうが速かった。


 恐竜が飛びかかってくる。

 大きな口はめいっぱいに開かれ、鋭い牙がずらりと並んでいる。


 待ち伏せ!

 俺を噛みちぎろうとしている!


 くそ……!

 さっきの個体と連携したとでもいうのか!?


「ギギィ!」


 避けるには近すぎる。

 方向転換する余裕はない!

 勢いのついた体は止められない!


 ならば――正面からぶつかるしかない!


 恐竜が迫る。

 俺は地を蹴って前へ前へと突っ込んでいく。

 恐竜の口がばくんと閉じる。

 俺はそれを身を投げ出してかわす。

 そして、空中で身をひねりながら棍棒を振りかぶる。


「うおりゃあっ!」


 地面すれすれの低空から、渾身のフルスイング!

 棍棒が恐竜の顔面へ叩きこまれる爽快な手ごたえ。


 ノックバック効果が恐竜を跳ね飛ばす。

 恐竜は吹き飛んだ勢いで近く木に激突する。


 俺は手をついて、滑るように着地。

 先ほど引き離した個体が追い付いてくる。


「ギィーッ!」


 もはや戦うしかない!

 俺は棍棒を握り直し、小型恐竜を迎え撃つ!



 二匹を相手に乱戦になった。

 棍棒で殴っても、すぐに起き上がってくる。


 一匹なら倒せるが、二匹に連携されると厄介だ。

 棍棒では決定力に欠ける……。

 【片手剣】の技が使えないために行動の幅が狭くなっているのだ。


 【フルスイング】と体術でなんとかしのぎ、一匹を仕留める。

 なんとか二匹目の恐竜を仕留めた。


 だが休む暇はない。

 もう周囲に別の敵の気配がある。

 次々来やがるな……!


 俺は木を駆け上がる。

 いちいち戦っていられない。


 樹上に潜んだところへやってきたのは、別種の恐竜だ。

 先ほどのものより大柄で、二足歩行。

 体に対して頭が大きい。

 大きく裂けた口と強そうなアゴを持っている。

 頭部のほとんどが口に見えるほどだ。


 そいつは周囲をきょろきょろと見まわし、獲物を探している。

 そして低い唸り声をあげる。


「グルルルル……」


 俺は乱れた息をなんとか抑える。

 気づかれる前に隠れたはずだが……。


 大柄な恐竜が鼻をひくつかせる。

 うろうろと、俺の潜んでいる木の近くまでやってきた。

 動きに迷いがない。

 バレているのか!?


 大柄な恐竜が足を止める。

 俺には気づいていないようだ。

 目当ては先ほど俺が倒した小型恐竜の死骸だ。


 嬉々とした様子でまだ新鮮な死骸に噛みつき、引きちぎる。

 ウロコどころか、骨まで噛み砕く勢いだ。

 大きな顎は見かけ倒しではないらしい。


 食事を終えれば立ち去るだろうか。


 今は時間が惜しい。

 すぐにでもリンのもとへ移動したい。

 だが見つかれば戦闘になる。

 余計な時間を食うだけだ。

 ……ここは待つしかない。


 かさかさと音が聞こえる。

 木の葉がこすれるような……。

 俺のすぐ近くからだ。


 なにか居るのか?

 いや、動いているのは俺だ。


 体が小刻みに震えている。

 動きを止めようとしても体が勝手に震えてしまう。

 ビビっているのではない。

 寒いのだ……。

 気づかないうちに汗が体温を奪ったらしい。


 いや、これは汗じゃない。

 返り血でもない。

 いつの間にか振り出した雨が体を冷やしていたのだ。


 意識すれば葉に雨が降りかかるパラパラという音が聞こえてくる。


 この上、雨まで降ってくるのか……。

 そういえばスナバさんが、天気が変わると言ってたっけ。



「ギィィッ!」


 闇の中から小型恐竜が走ってくる。

 そして仲間の死骸に食らいついている大柄な恐竜に向け、突進していく。

 大柄な恐竜もそれに気づいて迎え撃つ。


「グルゥゥ!」


 両者が激突し、もみ合いを始めた。

 優勢なのは大柄なほうだ。


 その隙に俺は木を伝って移動する。

 木の逆側から地面に降りる。

 足音を殺して移動して、別の木の上に身を潜める。


 周囲が騒がしい。

 音を聞きつけて別の敵が集まってきているのだ。

 慎重に進むしかないな……。


 気づけば空が白んできている。

 朝か……。


 俺の感覚が確かなら、花火が打ち上がった地点はもうすぐだ。

 かなり近づいている。

 だが、炎による戦闘の気配はない。


 間に合わなかったのか。

 あるいはもう移動してしまったのか。


 リンの姿は見当たらなかった。

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