夜を乗り越えよう!
「装備を整えながら皆を探し続けた。
そのうち空が暗くなって夜が来た――」
俺は話を続ける。
探索を続ける。
リンが戦えば火の手が上がるはず。
トウコが戦えば銃声がするはず。
しかし戦闘の痕跡は全く見当たらなかった。
このダンジョンはどうやら、かなり広い。
単純に遠いのか、ダンジョンだから音や光の伝わり方が違うのかはわからないが。
それとも、既にみんなやられてしまったのか?
いや、そうは考えたくない。
スナバさんはおそらく静かに行動しているだろう。
リンには魔法があるから大丈夫。
トウコはまあ……うん。
無事だと期待しよう。
見知らぬ場所で一人だと、どうも心細い。
心配ばかりしても始まらない。
今、どうするかを考えよう。
気分を切り替えるために考えを口に出してみる。
「自律分身は温存しておこう」
一人より二人。
自分と相談しながら今後の方針を考えるのもいい。
しかし自律分身は【隠密】を持たない。
移動すれば敵に見つかってしまうだろう。
それなら一人で動くほうがいい。
今回は隠密が生命線である。
なら自律分身が死ぬ前提で偵察に出すか?
いや、それは気が進まない。
無駄死にになってしまう。
隠れながらじりじりと進むしかない。
この状態で人を探すのは難しい。
合流できるんだろうか?
別の場所に飛ばされているならまだマシだ。
トウコのダンジョンのように毎回作られるタイプかもしれない。
俺と皆はそれぞれ別の一人用ダンジョンにいる可能性もある。
その場合、仲間を探しても意味がない。
うーむ。
初めてのダンジョンだと考えることが多いな。
スナバさんは情報を持っていなかった。
複数人で潜るのは初めてだからだ。
次のためにも、合流して確認しておきたい。
「空が暗くなってきたな……夜が来るのか」
このダンジョンは時間経過で昼夜が切り替わる。
今は夕方から夜にかけての時間だ。
少し肌寒くなってきた。
昼との寒暖差が大きいのか……。
もっと服を作っておけばよかったか。
ぐんぐんと日が沈んでいく。
まるで早回しのようだ。
完全に日が落ちて夜となった。
これから夜が三時間続くのだ。
樹上に潜み、俺は考える。
もっと早く火を起こせばよかったか。
サバイバルで火は重要だ。
しかし準備する余裕がなかった。
気が回らなかったんだよね。
隠れながら火を起こすのは難しい。
スナバさんは普段どうしているんだろう?
火はリンかスナバさんに任せる気でいた。
トウコに弾丸をもらえれば着火剤が作れて簡単にできる。
合流さえできていれば……ぐぬぬ。
まあ、言い訳はすまい。
できること考えてみよう。
今からでも火を起こすべきか?
木をこすり合わせる原始的な方法で火を起こすことは可能だろう。
火起こし器を【忍具作成】で作ってもいい。
弓の弦を棒に巻き付けて、弓を前後に動かす。
摩擦で火が付くというアレ。
弓切り式火起こし器だ。
簡単そうに見えるけど、たぶん難しいだろう。
乾いたオガクズのような、火種を移す火口もいる。
これも残念ながら用意していない。
キノコが火口に使えると聞いたことがある。
食材用に確保しておいたキノコがある。
これを使えないか?
うーむ。どうだろう。
うまくいくもんかね?
キノコを燃やしたことなんてないからわからん。
特殊な種類のキノコじゃなきゃダメだった気もする。
俺は小さく頭を振って小声でつぶやく。
「ムリして音を出すこともないか……」
作業をすると音が出る。
それでは隠密が解けてしまう。
火はあきらめる。
さいわい俺には【暗視】がある。
月が出ているおかげで、真っ暗ではない。
これなら行動に支障はない。
いつも助かるぜ暗視さん!
夜闇に紛れて移動するのもいい。
【隠密】も活きる。
だがやめておこう。
今日は様子を見てくのだ。
夜になると狂暴なモンスターが出ると聞いている。
敵も暗視や索敵能力を持っているかもしれない。
行先に当てがあるわけでもないしな。
急いで移動する意味がない。
夜の間は樹上で過ごそう。
身を潜めてじっと待つ。
そうしていると様々な気配を感じる。
ガサガサと草をかき分ける音。
足音と振動。
遠くで争うような音。鳴き声。
ぱっと光が差す。
俺は闇に慣れた目でそちらを見る。
炎だ。
夜空に炎が見えた。
「あれは……リンか!?」
火球が空で弾ける。
花火のように高く打ちあがっている!
合図だ!
これで方向が分かった!
俺は木を駆け下りて走り始めた。
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