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百年に一度の美少女より、毎朝の美少女のほうがいいよね!

 オトナシさんの相談を受けたあと、俺は胸騒ぎを感じた。

 それで、例のネットの記事を調べてみることにした。


 そして、すぐにその記事は見つかった。


「百年に一度の美少女、見つかる――これだ」



 その記事は、一枚の写真を紹介していた。


 はにかんだような笑顔を、カメラのほうに向けている。

 親しい誰かに呼びかけられて、振り返ったような構図。


 その表情は驚いているようでもあり、喜んでいるようでもある。

 絶妙な表情だ。そして、ごく自然な表情だ。



「これはたしかに……話題になるな」


 よく見れば、オトナシさんだとわかる。

 しかしこれは、写真ならではの奇跡の一枚だ。


 表情の切り替わる一瞬の変化を捉えたような……。

 髪の毛とスカートの裾がふわりと広がり、躍動(やくどう)感がある。

 今まさに振り返ったという感じ。


 呼びかけた相手は、誰なんだろう。

 彼女が笑いかけている相手は……。

 例の友達――まだ仲の良かったころの友達だろうか。


 ずっと見ていても飽きない写真だ。



 掲示板の書き込みをまとめた記事では、いろいろな噂が飛び交っていた。

 売れないモデルであるとか、芸能人の娘だとか、セクシー女優だとか。


 熱心なファンが、過去のモデルの仕事の写真を発掘した。

 通販のファッション雑誌の写真などだ。

 この写真もある程度の盛り上がりを見せた。


 だが、小さな仕事の写真が主で、面白い写真ではない。

 ごく普通のモデルの写真だった。


 話題の写真のような表情も、躍動感もない。

 話題はだんだんと、小さくなっていった。


 ネットの記事も時間が経てば、熱は冷める。

 面白半分の人たちは、だんだんと興味を失っていく。



 ――しかしそこで、個人情報が流出した。


 大学名や、実名が書き込まれたのだ。


 そうして、再熱したファンや野次馬達がオトナシさんの学校や家にまで押しかけたのだろう。


 でもこれは、暫くして落ち着いたみたいだ。

 きっとこの頃からオトナシさんは引きこもってしまったんだろうな……。



 ネットの記事も、掲示板の書き込みもこのあたりで落ち着いている。



「で、ストーカーはどうなったんだ?」


 過去を詮索(せんさく)するようで気が進まないが……ストーカーのことが気になる。


 ほとんど解決した、とオトナシさんは言っていた。


 ――ストーカーはここには来ていないと。


 つまり、根本的には解決していないんだ。


 いまは、ただ見つかっていないだけ。

 引っ越して、大人しく過ごしている。

 半分引きこもったような生活だ。


 学校はオンライン授業だから、直接通ってはいないらしい。

 たまには行かなきゃならない日もあるんだろうか。

 細かいところは聞いてみないとわからないな。


 少しだけモデルのバイトを続けているらしい。

 朝ごはんの時に話していたけど、仕事で出かけることもある。


 オシャレな服で出かけるときがあって、気になっていた。

 あれは、仕事用の服らしい。

 小さなモデル事務所だから、仕事によっては衣装は自分持ちなんだとか。


 今朝は、けっこう根掘り葉掘り聞いてしまった。

 モデルって、実際に会うことのない職業だからな。



 しかし、あの写真……奇跡の一枚を撮ったのは誰なんだろう。


 あの表情は、作り笑顔ではない。営業用の笑顔ではない。

 ごく自然な、生の表情にしか見えないのだ。

 カメラを向けられていることを知らず、偶然取られたんじゃないか。


 仕事として取られた写真ではないのかもしれない。

 だとすれば、プライベートの写真ということになる。


 それなら、近しい人間ということになってしまう。

 彼女の身近な人間が、あの写真をネットに上げたのか。

 個人情報の漏洩だって、漏れ出る場所は限られる。


「これは……酷な話だな」


 撮影者が笑いかけられている人物と別人だとしても、そこにいても違和感を持たれない人物だ。

 もしかするとそんな身近な人間が、原因を作っているのかもしれない。



 でも、撮影者がストーカーということはない。ないはずだ。

 彼女の口ぶりでは、ストーカーは全くの他人のようだった。

 知り合いがストーカーになったパターンではないように思える。



「ん、この書き込み――百年に一度の美少女に会いに行く? 日付は……昨日!?」


 俺は「書き込み数の順」で読んでいた。

 さっき読んでいた記事は過去のものだ。数か月前のもの。


 だが、この話題(スレッド)の最後の書き込みは昨日。

 新着順なら一番上に来る。

 しかし、書き込み数はほんの十数件しかない。


 書き込みは誰にも相手にされず、そのまま放置されている。



 ――百年に一度の美少女を見つけた。

 ――ついに、みつけたんだ!


 この書き込みに反応する人はいない。

 まず写真を上げろ、話はそれからだ。といった書き込みくらいだ。

 投稿者を嘘つき扱いすらしている。


 ネタが古いからか。既に話題は冷めてしまっている。


 信じる者や追従するものは現れなかった。


 ――信じなくても構わない。僕は彼女と新しい場所へ旅立つ。

 ――彼女は僕だけのものだ。

 ――これから会いにいく。たのしみだ。

 ――準備は整った!


 この投稿を最後に、投稿者は書き込みを断っている。

 掲示板も、そのまま盛り上がりなく終わっている。



「……もしかすると、こいつがストーカーか? これから会いに行くって、まさかな」


 ネットの書き込みだ。ただの嘘や冗談かもしれない。

 しかし、そう信じて放置できることでもない。


 明日、オトナシさんにそれとなく聞いてみるか。

編集履歴

2022/06/07 読みやすいよう改稿。内容はほぼ変更なし。

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