全滅からの反省会(クロウの場合)~ソロプレイは隠密で!~
「それで、ゼンジさんはどうでしたか?」
「ああ、俺は――」
俺は言葉を選びながら自分の体験を話していく。
気が付くと、一人で草原に立っていた。
起伏のある丘のような見通しのいい草原だ。
じめじめと湿度が高く、少し暑い。
太陽が照り付けていて、素肌を焦がしている。
日焼けしそうだな。
周辺の様子を簡単に言えば恐竜映画で見た風景に似ている。
花が咲いておらず緑ばかり。
見慣れない植物が多い。
背の高い木々で、シダのような植物が目立つ。
ジュラ紀や白亜紀のような植生と言えるだろうか。
遠くにトリケラトプスのような恐竜が見える。
すごいな……恐竜だぞ!
ちょっとした感動を覚えて息をのむ。
いると聞いてはいたが、実際に見ると違う。
ゴブリンやスライムと違って、リアリティがあると言うか……。
ロマンがあるよな!
見回してもリンやトウコ、スナバさんは見つからなかった。
ここに居るのはまずい。
隠れる場所が少なく、無防備だ。
【隠密】は遮蔽物がないと効果が低い。
こんな場所で肉食恐竜に襲われたらひとたまりもない。
武器も防具も身につけていないしな。
もちろん、収納に装備を入れてきた。
忍者刀、加工用の布ロール、治癒薬を持ってきた。
防具は人数分は持てなかったので、加工用の布である。
ワイヤーとクモ糸で強化したもので、魔石があれば服が作れる。
「まずは忍具収納から刀を……ん!?」
俺は妙な手ごたえを感じ、驚きの声をあげる。
収納から装備が取り出せないのだ。
どの枠からも取り出せない。
まさか……収納による持ち込みすら禁止か!?
ある程度予測していたとはいえ、これはショックだ。
落ち着こう。
深呼吸だ。
とりあえず移動しよう。
こんな平地で身をさらしているのはよくない。
さいわい近くに森が見えた。
森の木々は背が高く、うっそうと茂っている。
巨大なシダ植物だろうか。
ヤシの木に似ているが実はついていない。
ソテツ類かな?
下草もやはりシダ植物だ。
これも大きい。
身を隠す余地は充分にありそうだ。
若芽はワラビやゼンマイのように先端がくるくる巻いている。
山菜として食えるはずだ。
こう見ても、美味そうとは思えないけど。
たしか食べるためにはあくを抜いたりと手間がかかるはずだ。
リンなら料理できるだろう。
合流を急ぎたい。
高いところから探してみるか。
「この木を登ってみるか……」
【隠密】をかけながら太い木の幹を駆け上がる。
手ごろな枝の上で、手をひさしにして遠くを眺める。
うん。よく見える。
このあたりに人影はない。
先ほどまで居た草原では恐竜が草を食んでいる。
モンスターの食事姿はレアかもしれない。
遠くに山が見える。
もくもくと噴煙を上げているということは活火山か。
いきなり噴火したりしないだろうな……。
森側は視界が悪い。
遠くの様子はわからない。
逆に言えば、隠れやすいということだ。
草原より有利に進めそうだ。
スナバさんは遮蔽物のない平地を嫌うはず。
森に進むはずだ。
ゲーム感覚で考えるならトウコもそうするかな?
リンはどうだろう。
おそらく俺たちが進む方向を予想するはず。
俺なら森へ進む。
よし、探索は森を中心に進めることにしよう。
やはり事前に行動方針を話し合っておけばよかったな。
とはいえ、バラバラになるとは思っていなかった。
はぐれる想定はしていなかったのでしょうがないのだが。
これまでに戦闘の音は聞いていない。
銃声や、火の手が上がれば、そちらへ駆けつけるのだが……。
耳を澄ませても人の叫ぶ声などは聞こえない。
俺自身が大声をあげて皆を呼ぶ……というのはナシだ。
仲間より敵が集まる可能性が高いからな。
俺は樹上で考える。
さて、どう動こうか。
仲間を探すにしてもまずは装備が必要だ。
周囲にあるのは植物、石、木……。
石は投擲用にいくつか拾ってある。
石にしても、素手では数個しか持てない。
これは不便だ。
持ち運ぶための袋やベルトが欲しい。
まずは服を作りたい。
スースーして落ち着かないからな。
素材は植物でいいだろう。
しかし【忍具作成】には魔石が必要だ。
モンスターを狩るか。
トリケラトプスのような大きなモンスターを素手で倒すのは厳しい。
モンスターを狩るための装備がない。
しかし装備を作るための魔石がない。
困ったものだ。
水があれば【操水】や【水刃】が使える。
残念ながら見える範囲に水場はない。
【水噴射】なら水がなくても使えるけどね。
最初は魔力を節約しながら進もう。
なにがあるかわからないからな。
慎重に行く。
いろんな恐竜がいるとスナバさんは言っていた。
小型で簡単に倒せる奴もいるはず。
そいつを探そう。
今、やりたいことはいくつかある。
一つ目、仲間を探す。
二つ目、弱い敵を探す。
三つ目、強い敵から隠れる。
【判断分身の術】を使ってなんとかしよう。
判断分身を四体出す。
時間や耐久力は最低限にしておく。
条件は以下だ。
――全速力で移動して、一定の距離を進んだら戻ってくること。
――なにかに出会ったら来た道を引き返すこと。
「判断分身の術……散れ!」
四体それぞれを別の方向へ移動させる。
分身たちが走っていく。
オトリなので目立ってかまわない。
仲間が分身を見つければ、後をついてくるだろう。
敵対的なモンスターに見つかったら分身は襲われるはずだ。
足の遅い敵なら引き連れて戻ってくる。
足の速い敵なら逃げきれずに倒される。
つまり分身が戻ってこない方向は危険だとわかる。
分身が逃げられないような強敵がいるということだ。
分身が戻って来たなら、その方向は比較的安全だ。
樹上でしばし待つ。
待機中に【瞑想】して魔力を回復しておく。
無事に戻ってきた分身は二体だけ。
最初に戻ってきた分身の後には誰もいない。
二体目の後には……なにかいる。
分身の後ろを追ってきたのは小型の恐竜だ。
「ギギィ!」
現れたのは二足歩行のトカゲだ。
体高は分身より低い。
細身で俊敏そうな奴だ。
ヴェロキラプトルに似ている。
映画やゲームで見かけるものより小型だ。
小さい分だけ足が遅い。
そのおかげで分身は追いつかれずに済んでいるのだ。
俺なら余裕をもって逃げきれるくらいの速度だな。
木の下で分身が足を止める。
戻ってくるという条件を済ませた分身が棒立ちになる。
そこへ小型恐竜が近づいていく。
俺は樹上で石を構える。
隠密状態の俺に小型恐竜は気づいていない。
狙いを定めて、恐竜が分身へ跳びかかるタイミングを待つ。
攻撃の瞬間、スキが生まれるはずだ。
チャンス!
俺は石を投擲する。
拳大のゴツい石が一直線に飛んでいく。
恐竜に石が命中。
重い打撃音を立て、恐竜の頭部が揺れる。
恐竜がどさりと倒れる。
声を立てることすらなかった。
小型恐竜はびくびくと痙攣している。
昏倒させたか?
あるいは死んだか?
ふむ。
少し待ってみても塵にならない。
まだ生きているのか?
ならばもう一発!
投擲した石が頭部に命中。
やはり塵にならない。
魔石にも宝箱にも変わらないな……。
頭部を砕かれた小型恐竜はもう動かない。
となると、倒しただけではダメなのだろう。
トウコのダンジョンと同じかな?
死体を破壊しないとアイテムをドロップしないんだろうか。
ううむ。
ゾンビと違って恐竜は硬いから面倒だ。
分身でさらに攻撃を加えていく。
何度か追撃したところでやっと塵に変わった。
魔石が転がる。
よし、いいぞ。
俺は樹上から【引き寄せの術】を使う。
魔石が手元へとやってくる。
こういうとき地味に便利な術だ。
ついでに投げた石も回収しておこう。
こうして樹上から投擲を続ければ安全だ。
何度でも投擲で狩りができる。
ちょっとズルいかもな。
「さて、これで魔石が手に入った。
とりあえず服を作ろうか!」
いつまでも全裸でブラつくのはちょっとね。
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