スナバ・ダンジョンはサバイバルで!?
公儀隠密の会議室。
俺、リン、トウコは席について、スナバさんからブリーフィングを受けている。
スナバさんが淡々と言う。
「御庭からダンジョン攻略を手伝ってくれると聞いた。
間違いないか?」
「はい。難しいダンジョンだから一緒に攻略してみては、と御庭は言ってました」
スナバさんが手伝いを頼んだわけではない。
俺がスナバさんのダンジョンに潜らせてくれと頼んだわけでもない。
御庭との会話の流れで出ただけの、ちょっとした話にすぎない。
別に手伝わなくたっていい。
義務も義理もないのだ。
スナバさんが納得したようにうなずく。
「そういう話か。
俺としては正直、軽い気持ちであれば勧められない」
スナバさんは真面目な顔で俺たちを見ている。
軽い気持ちで来たわけじゃない。
とはいえ重々しい気持ちで来ているわけもなし。
ごく自然に手伝いに来ただけ。
他意はない。
「単に手伝いに来ただけなので、無理にとは言いません。
それより、勧められない理由を聞いても?」
スナバさんが端的に答える。
「難易度が高いからだ。
入れば間違いなく死ぬ。
俺は何度も挑んだが常に失敗している。
そんなところにつき合わせるのは、な」
「失敗? つまりダンジョンで死んでいるんですか?」
「そうだ。中で死んでも外で生き返るがな。
アソのダンジョンもそうだと聞いている」
冷蔵庫と同じく復活できるダンジョンか。
トウコが言う。
「あたしのダンジョンはボスを倒せば出られるっス!
スナバんのはどうなんスか?」
スナバさんはトウコの妙な呼びかたに少し眉をあげた。
おい! 怒られるぞ!?
スナバさんが言う。
その声色に怒りはない。
やれやれという感じだ。
ひやひやしたが、怒られずに済んだな。
「……これまでボス個体に出会ったことはない。
現状、脱出条件はわかっていない」
トウコはふむふむとうなずいている。
空気が読めないと気楽でいいな。
ダンジョン主のスナバさんにも脱出条件がわかっていない。
つまり……。
「これまで脱出できていないんですね?」
「そうだ」
おおう。即答だ。
「入ったら必ず死ぬのか……ううむ」
それはちょっとイヤだなあ。
冷蔵庫ダンジョンだってクリアすれば無事に帰れる。
絶対に死ぬわけじゃあない。
トウコが言う。
「でもでも!
あたし達が手伝えばなんとかなるっス!
クリアしちゃえばいいんスよ!」
その言葉には納得できる。
手伝えばクリアできるかもしれない。
スナバさんが言う。
「手伝ってくれるのはありがたい。
クロウさんやアソの実力は見て知っている。
オトナシさんも戦力になると聞いている。
だが人を増やせば勝てるとは限らない」
スナバさんの口調からして、
俺たちが足手まといになるとは思われていないようだ。
弱いと思われてたらちょっとショックだ。
トウコが妙な声音で言う。
「戦いは数っスよ、スナバん!」
「……一般的にはそうだ」
スナバさんはやや困ったように答えた。
普段スナバさんは一人でダンジョンに潜っている。
なにか勝てない理由があるのだ。
単に一人だから戦力が足りない、というわけではないらしい。
トウコは冷蔵庫を一人で打開できなかった。
でも二人なら勝てた。三人ならもっと楽だ。
しかし……ことはそう単純ではない。
冷蔵庫は人数を増やすと危険も増える。
巨大窓女のような存在がいるからだ。
各自の想像力に起因する敵が出てしまう。
こういう仕組みがあるなら、人が増えることで不利になる。
スナバさんのダンジョンにもそういうギミックがあるのか?
「スナバさん。
難易度が高いというのはわかりました。
具体的な話を聞かせてください」
「そうだな。まずそれを話すのが先だろう。
聞いてから判断してくれ。
そのうえで断ってくれてもいい。
これまでも一人で対処できているからな。
無理強いするつもりはないんだ」
「はい」
俺はうなずく。
スナバさんは俺たちの助力を嫌がっていないようだ。
死ぬことが前提になるほど難しいダンジョン。
そこに俺たちをつき合わせることに抵抗があるらしい。
誠実だな。
ダンジョンは定期的に間引きをしないと悪性化する。
たとえ危険なダンジョンでも、スナバさんは一人で対処する。
死ぬことを覚悟の上で。
俺ならどうするだろう。
自分のダンジョンが危険で、一人では勝ち目がないとわかったなら。
誰かに助けを求めるだろうか。
リンやトウコに頼むだろうか……。
うーん。難しいな。
スナバさんが言う。
「まず、敵が強い。数が多い。
普通に戦うと一体が相手でも厳しいほどだ」
スナバさんはかなり強い。
俺は組手で一本も取れていない。
「スナバさんがそこまで言うほど強いのか……」
思わず考え込んだ俺に代わってトウコが聞く。
「敵はどんな感じっスか?」
「恐竜に似ている。
小型で素早いものから大きく力強いものまで幅広い種類がいる」
リンが小さくつぶやく。
「きょ、恐竜ですか……」
スナバさんが続ける。
「小型のものでも数が多ければ脅威だ。
悪性ダンジョンの一般的な敵と比べると相当に強い。
力が強く、動きは素早い。
皮膚が硬いから、素手で倒すのは難しい。
武器が持ち込めないのが痛いところだ」
スナバさんは普段、悪性ダンジョンの内部に入らない。
通常の領域から狙撃するか、悪性ダンジョン領域内で戦う。
そこでは銃が使えるからだ。
これは公儀隠密の基本方針である。
「どちらにせよダンジョンで銃は使えませんよね?」
「銃だけではない。装備全般だ」
「装備? つまり武器だけじゃないんですか?」
「ああ。
俺のダンジョンには何も持ち込めない。
着ている服すらな。
なにも持たない状態からはじまる」
俺は思わずうなる。
「ううむ。服や靴も無しか……」
冷蔵庫だって装備品は持ち込めるってのに。
靴がないだけでもかなり不利になる。
それ以上に条件が厳しいとは。
にしても服すら持ち込めないのか……。
スナバさんが淡々と、少し気まずそうに言う。
「ああ。だからオトナシさんとアソは参加を見送ったほうが……」
スナバさんが言いかけたところで、トウコが食い気味に言う。
「全裸スタートっスか!? それは楽しみっス!」
俺とリンはげんなりした顔になる。
「いや楽しみにするな!」
「トウコちゃん……」
トウコはウキウキした表情を浮かべていた。
空気は読めていない。
死ぬより全裸を取るのかよ!
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