スキルの適性は人それぞれで!?
鹿鍋をつつきながらリンに問いかける。
「そう言えば、どのスキルを取るか考えたか?」
レベルが上がったとき、後で一緒に考えて欲しいと言われていたのだ。
リンが迷いながら話す。
「考えたんですが……。
盾をうまく使えるようになりたいんです。
でも選べなくて……」
少し言葉足らずだ。
選べないとは【盾】のようなスキルだろう。
「盾や防御のようなスキルが選択肢に出てこないんだな?」
「あ、はい! そうです!」
リンが嬉しそうにうなずく。
トウコが肉を口いっぱいにほおばりながら言う。
「リン姉はモデルだからじゃないっふか?」
「口にモノを入れて喋るなよ……」
トウコの取り皿には肉ばかりが山盛りで、野菜はひとかけらもない。
「あ、トウコちゃんの言う通りかも。
私の職業では盾のスキルは取れないんですね!」
トウコの言葉にリンが納得したようにうなずく。
俺もうなずく。
「ああ。たぶん職業のせいだな。
武器や防具で戦うのには向かないんだろう」
リンの職業は魔法使いとモデルと料理人だ。
どの職業も近接戦闘には向かない。
戦闘そのものに向かない気もするが……。
実際には通用しているけども。
「うーん。
でも生命力のステータスもありますし。
頑張ればできそうな気もするんですけど……」
スキル取得にステータスも関わっているとは思う。
生命力なら防御に関連するスキルが取れてもおかしくはない。
トウコが何か思いついたような顔をする。
口を開けようとして思い直し、急いだ様子で口の中のものを飲み込む。
そして喉を詰まらせた。
「うぐっ……」
「落ち着けって。肉は逃げないぞ」
トウコの背をさすってやる。
リンが困ったような笑顔で言う。
「トウコちゃん。
おかわりはたくさんあるから、ゆっくり食べてねー」
ボスから上質肉がドロップした。
普通の鹿肉もたくさんある。
まだまだあるのだ。
少しして落ち着いたトウコが言う。
「ふー。生き延びたっス!」
「で、なにが言いたかったんだ?」
「モデルは盾とか持たないからっス!
映えないんで!」
そのあたりは前にも話したことがある。
職業とスキルは関連している。
「たしかにトウコの言う通りかもな。
モデルには防御的なスキルがあるけど、
肌を守ったりするものだし……」
【美肌】が防御スキルなのかはいったんおいておく。
本来の使い方とは違うだろうが、ケガは防げる。
モデルが盾や武器を持つのは似合わない。
基本的には生身で、物は持たないイメージだ。
服やファッションアイテムなら持ってもいいだろうけど。
盾はなあ……。
映えないよなあ……。
リンが言いつくろう。
「そ、そうかなあ?
写真を撮るときはいろんなものを持ったりしますよー?」
トウコが怪訝な顔になる。
「モデルの仕事で盾とか持ったことあるんスか?
トンファーとか?」
「な、ないかなー?」
リンが気まずそうに目をそらす。
まあ、ないよな。あったら驚く。
トウコが思いついたような顔で言う。
「あっ! モデルも武器を持つことがあるっス!」
「えーっ? あるの!?」
リンが驚く。
いや、ないだろ?
俺は武器を持ってモデルポーズを取るリンの姿を想像する。
今シーズンのトレンドはブロードソード。
ボリューム感のあるラウンドシールドを合わせて強者感をアピールしましょう!
うーん?
そんなモデルはいない。
異世界にならいるかもしれないが、現代日本にはいない。
トウコが自信満々に言い放つ。
「コスっス!
コスプレイヤーならアリっス!」
「そ、そうなのー?」
「しかしコスプレイヤーってモデルなのか?
いや、どっちが偉いとかじゃないけど……」
ポーズを決めて写真を撮られる。
そういう意味ではモデルと言える。
思い込み次第ではアリか……?
忍者にだっていろいろある。
モデルだって幅があっていいだろう。
俺はリンに問いかける。
「コスプレ感覚で武器を持つイメージで盾を使えばどうだ?」
「うーん。
私も似たことを考えて試していたんです。
盾を持って取るポーズはどうすればいいかとか……。
でもうまくいかないんですー」
既にモデル的な発想で盾を扱っていたと。
つまりモデルは盾を扱えない仕様なのか。
【ピアススラスト】で斬撃ができないのと同じ。
仕様だ。
できないものはできない。
「そういえば四ウェーブが始まる前に考えてたことなんだが……」
ちょうど今話していることと似ている。
リンがうなずき、俺の顔を見る。
「あ、そうでした。
あのとき、なにを考えていたんですかー?」
「リンの火魔法にはピアス系のスキルがないって話で……」
「はい。そうですね」
「スキルには使い手の想像が反映されるだろ?
リンの魔法もそうだし、トウコのショットガンもそうだ」
ショットガンの集弾率は実銃とは異なる。
派手に拡散するゲーム仕様だ。
反動の強さや弾丸の威力も現実とは違う。
スキルの仕様もあるだろう。
しかしトウコの意識が大きく影響している。
「それがどうしたんスか?」
「スキルは柔軟だ。
俺たちの意を汲んで働いてくれる。
だけど、なんでもアリじゃない。
そうだよな?」
忍具作成は忍具しか作れない。
銃や食料や薬はどうやっても作れない。
【片手剣】や【打撃武器】も同じだ。
パワースラッシュは鈍器では発動しない。
フルスイングは突きや縦斬りができない。
こればかりは、どう意識したって無理である。
リンが言う。
「そうですね。
火魔法で水は出せませんし、嫉妬を使ってもムリです」
水忍法をマネしようとしたのかな?
それは、さすがに無理だろ!?
そうは思うが口には出さない。
無理とか無駄と言えば、有利な思い込みを邪魔してしまう。
俺は話を続ける。
「つまりスキルには限界がある。
できないことはできないんだ」
「そりゃ、あたりまえっス!」
スキルを拡大解釈してなんでもあり、とはいかない。
「で、だよ。
スキルの適性について考えていたんだ。
スキルは自分に使えそうなものしか使えないんじゃないかって」
「うぇ? それも、あたりまえじゃないっスか?」
「トウコが食べたいと思う魔石と、そうでない魔石があるだろ?」
「カマキリの魔石はマズそうっスね。
虫味だったらやだし、食べられないっス!」
魔石に味とかあるのか?
俺が食ったときはどうだったっけ。
魔石をかじると、口の中に塵があふれたんだよな。
そして塵の味……エグみが口中いっぱいに広がった。
美味しいとか不味いとか、味覚とは違うナニカだった。
俺はトウコのように【捕食】がない。
最初から魔石は食べられないのだ。
「適性がないからマズそうに見えるんだろう。
カマキリが持っていそうなスキルはなんだと思う?」
「隠密っスよね?」
「つまりトウコは隠密や暗殺の適性がないんだと思う。
だから魔石を食べたいと思えない。
食べてもスキルは手に入らないんだろうな」
「あー。あたし、そういうのは嫌いっス!」
「それがゼンジさんが考えていた適正なんですね?」
「そうだ。
好きなことはできるけど、苦手なことはできない」
「言われてみれば、そういう感じかもっス!」
「で、リンは盾を使いたいのに使えない。
これは個人の好みや適性というより、職業の縛りかもしれない」
「リン姉は盾、大好きっスよね?」
「うん。せっかくゼンジさんが作ってくれたものだから……」
「盾を気に入っていて、使いたいと思っても使えないケースがある。
やっぱり、職業の縛りがあるんだろうな」
リンが残念そうに言う。
「そうなっちゃいますねー」
「というわけだから、盾スキルはいったんあきらめよう」
リンが肩を落とす。
「はい……残念です」
「で、リンの職業で代用できるものを取るんだ」
「代用、ですか?」
「ああ。盾っぽく使えて、リンの職業で取れるやつがあるだろ?」
「あっ! あたしわかったっス!
料理人っスね!」
「えっ!? 料理人のスキルで盾みたいなもの……?
あ、調理器具を使うんですねー!」
そう! 鍋やフライパンを盾として扱うのだ!




