拠点オシャレ化計画! 在庫管理と見える化しよう!
展示ラックを作ろう。
まずは、木枠をつくるところからだ。
ダンジョンの壁は石の壁……洞窟なので、釘は打ち込めない。
でっぱりやへこみもあって、まっすぐではない。
壁に添う形で、木枠が必要なのだ。
自律分身とも相談しつつ、配置を決めたり、寸法を測っていく。
作業は普通の分身を使う。
これは【分身の術】の熟練度稼ぎにもなる。
機械が使えないので、電動工具はない。
木を切る。釘を打つ。
そういうのは、手作業でやることになる。
しかし、分身に指示すれば、半自動で作業は進む。
どんどんと分身を生み出して、単純な指示を出す。
押さえろ、ノコギリを動かせ、資材を運べ……。
「なんかお前、大工の棟梁みたいだぞ」と自律分身。
「たしかに。いや……忍者の棟梁と呼んでいただきたい!」
忍者が集まってせっせと大工作業しているこの状況……。
棟梁は俺である。
「よっ! 大棟梁!」
「はっはっは! 働け皆の衆!」
といっても、分身も全員俺の姿なので、変な絵面ではある。
まあ、誰も見てないけどね。だから思う存分好きなことができるというわけだ!
さっき作った忍具作成台はさっそく作業台として活躍している。
なかなか、使い勝手はいい。
さっそく、忍具じゃないもの作るのに使ってるけどな!
ゆるせ【忍具作成】。騙してるわけではないんだ。
展示ラックの枠だって、忍具や武器を飾るための道具……モノだ。
……忍具かもしれない。忍具と言ってもいいんじゃあ……?
やっぱり、ちょっと苦しいか。
そういう俺の気持ちを読み取って、スキルが発動しないのかもしれない。
「まあ……なんでもは無理だよな。スキルレベル上げればできるかもしれないが……ここはDIYでいいだろう!」
ポイントを振れば解決できるかもしれないが、温存しておく。
攻略に詰まるようになったら、対策としてスキルを振るようにしたい。
大工仕事もなかなか楽しい。
俺はモノを作るのが好きなのかもしれない。
別にスキルで作らなくたっていいんだ。
「よし、完成! 何時間もぶっ通しで作業してしまったぜ!」
よし。展示ラックの完成だ!
壁の一面に木の枠を作り、そこに百円ショップで買ってきたワイヤーネットを固定してある。
ワイヤーネットも、こだわりの黒である。
そこにフックをひっかけて、武器や装備を飾るのだ。
いつもは装備品を外したら、収納ボックスに入れているだけだ。
どうせなら、見えるように飾りたい。
装備や戦利品も増えてきた。
なにがあるか一目でわかるというのは大切だ。
装備の見える化。在庫管理だ。
ダンジョン内に持ち込んだ物品でも、放置すると消える。
ダンジョン産の品物に比べれば消えにくい。
とはいえ、認識していないものは消えてしまうって聞いたんだ。
ダンジョンの外に出るときは拠点で普通の服に着替えていく。
忍び装束や鉢金もここにかけておく。
ちょっとした忍具資料館みたいで、いい感じになったぞ。
ついでに、拠点が明るくなった。
松明だ。
木材にしようと持ち帰ってきたのだが、本来の用途で使えばいいんだ。
火をつけて、明かりとする。
あたりまえのことだが、すぐには気付かなかった。
思い込みってやつだな。
拠点の壁は洞窟の壁だ。
出っ張りや割れ目に、松明を置くための台を設置する。
これは【忍具作成】で問題なくできた。
壁掛け松明をいくつか設置したおかげで、かなり雰囲気が出てきた。
「……なんか、思ってた雰囲気じゃないけど」
殺し屋やスパイの隠れ家みたいな感じを目指していたんだが、陰気……あやしい感じがしてしまう。
洞窟で松明だからなあ。
ちょっと、文明レベルが低い感じだ。
忍者の隠れ家としては、ある意味あってるんだろうか。
「まあ、良しとしよう。明るいし、作業も捗る!」
あとは、六階層の対策として防火服を考えよう。
五千円くらいで難燃素材の作業服が買えるが……ここは見た目重視で!
現実素材で戦うと、現場系野球忍者に戻ってしまうからな!
大工の棟梁になってしまう。
忍具作成台に向かう。
作るのは、防火素材の外套だ。
コートというよりは、マントやポンチョに近いかもしれない。
服の上から羽織るものだ。
「ん、羽織る……か。なら羽織でいいよな。忍者的には陣羽織か? お、いいかもしれん!」
素材は適当な服と魔石を使う。
これは文句なく忍具。コスチュームだ。
台の上に、要らない服と魔石を並べる。
ワイヤーもついでに。
さて、いつも通り【忍具作成】にイメージを伝えよう。
蜘蛛織ワイヤーによる鎖帷子で防御力を考慮。
ただし、重ね着するので最小限に。
燃えたり焦げたりしない素材をイメージする。
脱ぎやすく、すぐに身に着けられるように。
色はもちろん黒だ。
金糸銀糸で飾りつければオシャレだが……そういうのはナシ。
――よし、防刃防炎陣羽織、完成だ!
さっそく羽織ってみる。
「分身の術――お、なかなか似合うね」
分身鏡写しの術!
と言っても、たいそうな物じゃない。
鏡の代わりに分身を使うという、生活の知恵だ。
分身は見た目だけは俺と同じになることを利用している。
ちょっと、忍者としての格が上がった気がする。
下忍には出せない風格だな。
剣術とか体術を使えそうな雰囲気が漂う。
武闘派忍者だな。
普通の忍び装束だと、隠密色が強いからね。
これはこれで、いい!
ちなみに、これは自律分身を出したときに渡す予定だ。
分身の術は、俺と見た目は同じになる。
だが装備はハリボテだ。
自律分身も同じ。
つまり、装備なし状態になる。
防御性能がまったくないんだ。
まさに全裸忍者。
サポートに徹して後衛をさせるとはいえ、最低限の防御性能は欲しい。
自律分身を出したら、これを脱いで渡すのだ。
脱いだり、着たりするのをサッとできる装備。
だから羽織なのだ。マントでもよかったけど。
マントも忍者っぽいから、アリだけどね。
六階層では呪術師ゴブリンが火魔法を使ってくる。
うってつけの装備だ。
絵的には、自律分身のほうが豪華な見た目になってしまう。
それって、どうなんだろう。解せぬ……。
まあ、自律分身も俺だ。
俺は自分を大事にするんだ。
今のところ自律分身が攻撃されて撃破されたことはない。
ちゃんと痛みも感じるのだ。
そして、その記憶は俺に引き継がれる。
死んだり痛い目を見た記憶は、なるべく感じたくない。
もう慣れてきたが、最初のうちは自分が消える恐怖はなかなかのものだった。
毎回、自分の一部が消える、死ぬような覚悟で自律分身を使っていたからな。
もう、折り合いはついた。
自律分身は俺自身。
消えたとしても、ちゃんと残るものがある。
ついでに、自分の忍び装束も難燃加工を施す。
いろいろな機能を盛り込んでいるが、このぐらいは問題ないな。
これで、六階層の攻略もより安全に進められるぜ!