特殊個体は揉み放題で!?
風呂に浮かぶトウコに声をかける。
「おーい。
水死体ごっこか?
ちょっとよけてくれ」
トウコがざばっと身を起こす。
派手に水しぶきを上げながらトウコが口を尖らす。
「もー。店長、遅いっス!
リン姉はまだっスか?」
俺は湯舟の空いたスペースに浸かる。
横に並べば三人では入れるサイズだ。
「もう来るよ。ふぅ……」
俺は深く息を吐いて、疲れた体を湯に沈める。
熱すぎず温すぎず。
ちょうどいい湯加減だ。
俺は湯の中で手足を伸ばす。
緊張してこわばった筋肉が弛緩していく。
疲れが抜けていくようだ。
リンが隣に入ってくる。
そしてホッとしたようにゆるんだ表情で言う。
「気持ちいいですねー」
その姿は艶めかしい。
長い黒髪はつややかだ。
今は濡れないようにアップにまとめられている。
髪を上げているおかげで、
うなじから首筋にかけてが際立って見える。
香るように漂う色気は上品。
それでいて扇情的。
学生が出せる色香じゃないぞ。
温泉宿の若女将みたいな……。
いや、違うな。
そもそも女将と風呂に入る状況ってどんなだ。
比較対象が思いつかない。
なにと比べたって、リンのほうが上だ。
黙っていれば美しい大人の女性に見える。
整った顔からは冷たい印象さえ感じさせる。
そのせいでよく勘違いされるが、内面は違う。
その内面は複雑で、一言では言い表せない。
やさしいとか、おっとりしているとか、それだけじゃあない。
明確にわかるのは俺への好意だ。
それだけは間違いようがない。
だけど、それ以外の部分はつかみきれていない。
奥が深いというか……。
リンが不思議そうに俺の顔を見る。
「ゼンジさん。どうしました?
後ろにモンスターさんでもいましたか?」
おっと。じろじろ見すぎたか。
考え込みながら、俺の視線はリンのうなじあたりをさまよっていた。
その視線を追うようにリンが後ろを振り返る。
もちろんそこには何もない。
ちゃぷちゃぷと湯が揺れる。
首から背中にかけてのラインも素晴らしい。
おっと。
無遠慮な視線を向けてはいかん。
俺は取り繕うように言う。
「いや、どうもしない。
疲れたからぼんやりしていただけだ」
「そうですか。
それなら肩でも揉みましょうか?」
リンがやさしく微笑む。
これは魅力的な提案だ。
だが、まだやることがある。
このあと草原ダンジョンで検証の続きをするつもりだ。
これ以上エッチポイントを加算すると、検証を続けられなくなってしまう。
俺は笑みを返し、断る。
「いや。大丈夫だ」
そこでトウコが元気に手をあげた。
「じゃあじゃあ!
あたしがリン姉を揉むっス!」
リンが驚く。
「ええっ!? なんでそうなるの!?」
トウコが楽しげに言う。
「さっき約束したっス!
時は今! 場所はここ!
もみもみ祭りっス!」
あ、おぼえてたんだ。
こういうところではダメ、と言ってたけどさ。
「別に約束してないだろうよ!」
トウコがじゅるっとヨダレをぬぐう。
「うへへ……。
約束は約束っス」
トウコが緩んだ顔で指先をにぎにぎさせ、リンににじりよる。
トウコはわかりやすいなぁ。
いっそすがすがしいほどだ。
外面と内面が完全に一致している。
裏表がない。
しかし全部表に出すのはどうなんだ?
リンが後ずさりして困ったように言う。
「ええと……トウコちゃん?
その、ちょっと落ち着いて!?」
リンが浴槽のへりに追いつめられる。
トウコの魔の手がリンのふくらみへ伸ばされる。
「ふへへ! ふへへ!」
トウコがヨダレをたらしながらリンに迫っていく。
まずい!
こいつは特殊個体のエロゾンビだ!
リンに逃げ場はない。
「まてまて!
目の前でセクハラはやめろ!」
何もしていない俺のHPが限界を超えてしまう。
俺はトウコを掴んで止める。
掴んだのはバスタオルだ。
トウコが大げさな声をあげる。
「ぐえっ!
なんで止めるんスか店長!」
そう言うとジト目で俺を非難するように見る。
「逆に、なんで止められないと思ったんだよ」
トウコが興奮した顔で力説する。
「今がチャンスなんスよ!
リン姉は今、抵抗できないんス!」
だから俺が阻止してるんです。
「してもいない約束につけこんでんじゃない!」
「でも本当はイヤじゃなさそーなんでオッケーっス!」
トウコがさらっと言う。
その言葉にリンが動きを止める。
リンがうろたえて言いよどむ。
「えっと……トウコちゃん?
そういうのは……ね?」
「ふむ?」
リンの反応はよくわからない。
イヤじゃないならいいんだけど……。
これ、俺が鈍感なのか?
いやいや。
リンが難しすぎるのだ。
トウコがざばっと俺に向き直る。
「じゃあ代わりにっ!
店長があたしを揉むってことで!」
「なんでそうなる!?」
トウコがさっと背を向ける。
そして肩越しにニヤニヤ顔を浮かべる。
トウコの意図はわかりやすい。
揉めるものなら揉んでみろという挑発だ。
「へへー。遠慮はいらないっスよ!
肩でも胸でもふくらはぎでも、どこでもオーケーっス!」
じゃあふくらはぎを……とはならんだろ!?
「揉むわけないだろ! アホか!」
どこであれ、風呂場での接触は避けたい。
俺は鈍感系ではなく敏感系なのだ。
理性には限界がある!
そして表に出せないこともある!




