乱暴な転送門と癒しの風呂場!?
冷蔵庫の前。
俺たちは転送門から乱暴に吐き出された。
俺とトウコは着地。
リンがバランスを崩しかけたので、手を貸して支える。
「あ、ありがとうございます」
そう言うとリンは恥ずかしそうにはにかんだ。
「このダンジョンの転送門は不親切だよな」
「いじわる転送門っス!」
出入りくらい、楽にやらせてほしい。
ちゃんと立った状態で床の上に出してくれ。
俺やリンのダンジョンで、こういうことは起きない。
このダンジョン、出口の座標がズレているのか?
冷凍庫は引き出し式だ。
だから上方向へ排出しているんだろうか?
クローゼットやトイレ、ロッカーの入口は横方向に入るからな。
そういう違いか?
俺のダンジョンも引き出しに移動させたらこうなるか?
試してみようか。
いや、あんまり意味ないかな。
そんなとりとめのないことを考える。
「そういえば店長。
ピアススラストの検証はもうオッケーっスか?」
「まだ終わっていない。
あとはヒットポイントを貫けるかの確認だな」
「ボスで試せばよかったんじゃないスか?」
それは俺も考えた。
その上でやめた。
「いや、強敵で試すのは危ないからな。
草原の角鹿あたりで試そうと思う」
別に角鹿がザコなわけではない。
強さの方向性が違う。
「いいですねー。
あ、でもその前にちょっと休憩しませんか?」
トウコがヘラヘラと笑う。
「ご休憩でもご宿泊でも大歓迎っス!」
俺はスルーして言う。
「風呂に入って汗でも流したい気分だな。
ヨゴレが残っているわけじゃないが……」
戦っているとどうしても返り血を浴びる。
なるべく避けてはいるが、多少はやむを得ない。
血や腐肉が体に振りかかってしまう。
ダンジョンを出ると中の汚れは消える。
冷蔵庫ダンジョンの場合は入場時の状態に戻る。
トウコが持ち込んだコーラも飲んだり捨てたりしたが、今は開封前の状態でトウコの手にある。
今の俺たちは汗すらかいていない。
清潔そのものだ。
物理的には汚れていない。
それでも汚れたような気持ちは拭えない。
気持ちの問題だ。
疲れて、神経がささくれている。
このダンジョンには、とても連続して潜る気にはなれない。
リンが俺の言葉に笑顔でうなずく。
「はいっ! お風呂にしましょう!」
「ご入浴も大歓迎っス!」
というわけで草原ダンジョンに移動した。
俺たちは分担して風呂の準備を終えた。
さあ、風呂に入ろう。
疲れを癒してさっぱりしたい気分だ!
脱衣所でトウコがクイクイと手招きしている。
なんだ?
どうせくだらないことを考えているのだろうが……。
ニマニマ顔でトウコが言う。
「店長! ちょっと見て欲しいっス!」
「なんだよ?」
トウコがおもむろにバックステップする。
むむ。この動き!
風呂に入るときに便利だと言っていたやつだ。
ここで、アレをやるのか……!?
「瞬間脱衣の術っス! とうっ!」
トウコの姿が服の向こうに消える。
【透過】で服をすり抜けたのだ。
いわば空蝉の術だ。
服だけが空中に残っている。
重力に従い、はらはらと服が落ち――
「って、なにを見せようとしてんだ!」
トウコが空中で服をキャッチする。
それを胸元にかかえながらジト目で言う。
「しっかり見たくせにー」
今はもう、隠すべきところは隠している。
なにかが見えるとしたら服が空中を舞っていた一瞬だけ。
常人なら見逃しちゃうね。
しかし俺には敏捷力のステータスがある。
動体視力と反応速度も上がっているのだ。
「……いいから早く風呂に入れ!」
「へーい」
トウコはそう言うと服を丸めて脱衣籠に放り投げる。
そしてタオルを体に巻く。
ザツだな!
あと、動作の順番が逆だな!
俺じゃなくても見逃さないね!
リンが困り顔で手早く服を畳んでいく。
「もう……。
トウコちゃん。
ちゃんと畳まないとしわになっちゃうよー」
そう言うリンは既に服を脱いでいる。
大きめのバスタオルを巻いただけの姿だ。
豊かな体を包むには布が足りていない。
服を畳む動きでバスタオルの裾に深いスリットが作られる。
布地がふくらみに引っ張られているからだ。
丈が足りなくなった分だけ太ももがのぞいている。
もちろん隠すべき場所は隠している。
だがその美しさは隠しきれていない!
これは貴重!
破壊力がとんでもない!
リンは普段、ほとんど肌を露出しない。
今は素肌を惜しげもなくさらしているのだ。
そのことに気づいてすらいない!
こういうとき、鈍感系主人公なら無視して流せるのだろう。
俺はそうではない。
健全な男子なのだ。
ハートを直撃である。
いかんいかん。
じろじろ眺めているわけにはいかない。
俺は目をそらしながら言う。
「じゃあ、先に入ってるぞ」
「はーい。私もすぐに行きますねー」
リンの声を背中で聞きながら湯舟へ向かう。
そこではトウコが風呂に浮かんでいた。
湯舟の長辺をぜいたくに使い、仰向けにぷかぷかと。
申し訳程度にタオルを巻いているが、ズレそうだ。
防御力ゼロかよ!




